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グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#9

第9話「アルの幻」

文字数 1,883文字

 夜になり、メルとミラは森の中で焚き火を焚いて休んでいた。
 メルはすやすやと眠り始めた。
 だが、しばらくして、メルは寝ながら苦しみ出した。
「うううう…。」
 メルの尻の方から、ズボンを突き破って獣の尾が生えた。
 露出した下半身も、獣の脚になっていた。
 もう、上半身と顔以外、ほとんど毛むくじゃらの獣だ。
「アル…。」
 意識が朦朧とした状態で、メルは、立ち上がった。
 そして、近くで寝ているアルを発見した。
「アル…!?」
 メルは、アルに抱きついた。
「アル…僕は…僕は…!」
 アルは、起き上がってメルを優しく抱き締め、キスをした。
「アル…!」
 苦しみは消えていた。そして、アルのいた所には、ミラがいた。
「ミラ…。」
 がっかりしたように、メルは地面に両手をついた。
「もう、僕は僕じゃない!なんで…。」
 自分の毛むくじゃらの体を見て、メルは吼えるように叫んだ。
 それを、ミラは悲しそうな顔で見ていた。
「…それはそうと、いくら獣になったからって、裸で外をうろつけないね…。」
 今まで穿いていたズボンは破れていたが、それをどうにか腰の所に巻いた。
「…君をアルだと勘違いするなんて…。アルがこんな所に来るわけがないのに…。」
 メルは、銀のネックレスを握り締めた。
「アル…君が無事ならいいんだ。僕は…どうなろうと…。」

 戦士の訓練所では、ハルカがトウマと共に剣の稽古をしていた。
 ハルカは、農民の他、戦士のジョブに就いた。
 メル・マナでは、職業をいくつ掛け持ちしても構わないのだ。
「私だって剣道部だもの。戦うときが来れば、アル様の力になりたいわ。」
「よし。その意気だ。」
 二人は木刀を使って稽古をしていた。
 ハルカは、トウマを尊敬し、淡い恋心も抱いていた。
 アルの力にもなりたいが、何より、トウマにも良いところを見せたかった。
「ハルカ。お前のやる気はいいが、仕事のしすぎも良くないんじゃないか。現世に対して。」
「大丈夫よ。現世でも頑張れるから。」
「いや、そうじゃなくてさ。現世で頑張ってる分、こっちでは少しのんびりした方がよくないか?」
「だって、世界の滅びがかかってるんですよ。どちらも救わなきゃ。」
「お前の正義感が強いのはいいが、もう少し力を抜けよ。お前一人が頑張っても仕方がない。皆で協力して頑張るんだ。そのためにも、休息は必要だと思うな。お前がいつまでもそんな調子じゃあ、俺だって休みづらいだろう?」
 トウマは苦笑した。
「そっか…。確かに…。皆と歩調を合わせるってことですね。私一人が突っ走っちゃって…。」
 ハルカは木刀を下げた。
「俺も農民やろうかな。少しでも給金があれば、鎧とかグレードアップ出来るしな。」
「農民はおすすめですよ。ただ、毎日の世話をきちんと出来ないと、作物は育ちませんからね。」
「うーん…そんなに簡単なものじゃないんだな。そういえば、ナツキの魔物ブリーダーも気になるな。魔物を仲間にして一緒に戦えたらいいだろうな。」
「ふふ…。まさかリアルでRPGの世界を楽しめるなんて。他の皆も来たら楽しいだろうなあ。」
「ふーん。ハルカとトウマさん、いい感じね~。」
 そこへ、ナツキが現れた。
「ナツキ!」
 ハルカは赤くなった。
 ナツキは小さな赤い竜のような魔物を連れていた。
「ふふーん。あたしの魔物ちゃんが気になるー?この子はあたしの相棒なんだー。名前はアカリちゃん。どう?可愛いでしょ?」
 アカリは、挨拶の代わりに、口から小さな火の玉を吐き出した。
「おお、竜の子供か。いずれ、デカくなるんだろ?」
「そうね…。そうなったら、あたしも魔物戦士として戦えるかもね。」
「いいな、それ!よし、俺も魔物ブリーダーになって、魔物を育てるかな。」
 話が盛り上がってきたところへ、アキトもやって来た。
 アキトは、戦隊もののヒーロースーツのようなものを手に持っていた。
「これ…ハルカあてだぞ。」
「え?私こんなの頼んでないよ。…って、あ!もしかして…!」
 ハルカは、アストラルスーツを着たときのことを思い出した。そのとき、確かにこのスーツのことを「想像」した。それがこちらで具現化したというわけだ。
「でも、私こんなの着ないよー。」
「そうか、なら、スクラップにして、再生素材にするか。」
「アキトも戦士にならないか?」
 トウマが勧めた。
「いや、僕は戦い向きじゃないから。」
 アキトはヒーロースーツを持って戻って行った。
「もう。アキト君たら。でもそこが可愛いのよねー。」
 ナツキはアキトを可愛いと思っていた。ハルカがトウマに寄せる好意とはまた別の好意だった。
 こうして四人は日々を思い思いに楽しんでいた。

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