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新入生の女の子、くるりと回る、きらきらする

その日、私はめずらしく少し緊張していた。

穏やかな春の、よく晴れた日、1歳になる娘の保育園の入園式に向かう私。
いつもより、ほんの少しだけきれいな服装にしてみた。

何も分からない赤ちゃんだけれど、娘にもいつもよりきれいな服を着せた。
出産祝いで友人からもらった真っ白なお洋服。

「赤ちゃんの服に白を選んだのは失敗だった!ごめん!」
と友人は言っていたが、私は白い服がすきなので全然かまわなかった。

真っ白な服に、お気に入りの雲柄の靴下。
ちょっとよそゆきの娘ができあがった。

けれど。
抱っこひもの中にすっぽり包まれると服なんてほとんど見えないから、おめかししていることも分からない。
歩いている私の振動が心地よいのか、気づけば娘は保育園へ向かう道中にぐっすりと眠っていた。

眠ったことで体が丸まり、余計に服も見えなくなった。


どうやらこの日は近くの小学校でも入学式があるようだった。
体に対してずいぶん大きなランドセルを背負った新1年生とスーツを着たお父さん、ジャケットにコサージュをつけたお母さん、という家族と何組もすれ違う。

「よいお天気で、よかったですねぇ。お互いに。」
口にはしないけれど、心の中でそんなふうに思いながら、しあわせな家族たちと何組もすれ違った。


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すると、また1組の家族が前から歩いてきた。
新品のランドセルを背負った女の子は宙に浮いているのかな?というくらい足取りがかろやかだった。


スキップのような小走りのようなステップで彼女は近づいてくる。
そして私の目の前にくると、くるりと一回転をして、
「新しいランドセル!いいでしょう?」
と、きらきらした顔で私に話しかけてきた。

「うん、いいね、新しいランドセルだね」
と答えると彼女はとても満足そうにしていた。

ご両親が「すみません…。」と、申し訳なさそうに会釈をし、私もぺこりとして通り過ぎる。


「この赤ちゃんも、今日、入園式なんだよ」
と、その気持ちは心の中だけにとどめておいた。
ほんの少しだけ小綺麗な格好をした私と、抱っこひもの中で丸まっちゃってる娘は同じように「入園式を迎えた親子」には見えなかっただろう。

入学式へ向かう女の子。
入園式へ向かう私。

どちらもこの日はステップがかろやかだ。

彼女はすれ違う人全員に声をかけているわけではないと思う。
彼女本人も気づいていないレベルの嗅覚で「同じおめでたい日」を迎えた私たちに思わず声をかけてしまったのではなかろうか。

彼女自身も、誰も気づいていない「おめでたい同士」だった私たち。

あれから半年経って、秋がやってきた。
今日はあの日のような澄んだ青空が広がっていたからか、久しぶりに彼女のことを思い出した。

小学校1年生になって半年。
あの子はお勉強を楽しんでるだろうか。お友だちと楽しく過ごしているだろうか。

あの時、おめでたい同士の赤ちゃんだった娘は、保育園をとっても楽しんでるんだよ。

顔も声も覚えていないから、もしまたすれ違ったとしても気付けないけれど、彼女があの日のようにきらきらとしていてくれたら嬉しいな、と、そんなことを願った。

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