なるほどなるほどおばさんと、占い
先日のnoteの記事で占いについて少し触れたので、今日は「占い」のお話。
背中を押す、占い
私自身は「すぐ忘れる」から占いをやらない派なのですが、私の周りは占いをする(占い師さんのところへ行って占ってもらう)という方が結構多い。
もう10年以上の付き合いになる友人は、ある時、「彼氏と結婚するのをやめた」と言い出した。
長い付き合いになる恋人と結婚しようかどうしようか、と悩んでいたのはこの会話をしたつい数日前のことだった。
「え?!結婚しないの?別れるの?」
私が聞くと、彼女は
「占いに行ったら、“その男と一緒になったらあんた死ぬよ”って言われたから。私、死にたくないし。」
と、はっきりと答えた。
気持ちはかたいようだった。そりゃ、誰だって死にたくはないだろう。
けれど、だ。
当時の私の頭の中は「え?結婚するかしないか、って占い師さんの発言ひとつで決まってしまうの?」という疑問でいっぱいだった。
ついでに言うと、誰と一緒になろうと最終的には死ぬからそんなに気にしなくてもいいのでは…、とも思った。
この頃から10年近く経った今考えてみると、彼女は「占い師さんに否定されたから結婚をやめた」わけではなないと分かる。
その人と結婚したかったら誰に反対されようとしたいし、「この人と結婚したい!!」と強く思っていたら、そもそも占い師さんの元へ足を運ばないだろう。
彼女はきっと、うすうす彼との結婚に不安を抱いていて、誰かに「やめた方がいいよ」と背中を押してもらいたかっただけなんだ。
親友でも、友人でも、家族でもない「誰か」に「やめときな」って言ってほしかったんだと今なら思う。
吐き出す先に、占い
いつだったか、精神科医になるために医学部へ通っている青年と話した時のことだ。
彼は「占い師のところに行くの、おすすめする」とそんなことを言っていた。
医学と占い。なんだかすごくかけ離れた世界のように感じて、私は不思議な気持ちになった。
どうして?と思い聞いてみると、
「占い師って、とりあえず相談者の話を“うん、うん”って一通り聞いてくれるから。そうやって誰かに気持ちを吐き出すことっていいことだよ。」
と、そんな返事が返ってきた。もやもやと抱え込んだ悩みを1人で気持ちの中に閉じ込めてしまうくらいなら、他人であり話を一通り聞いてくれる占い師に吐き出すことは、いいことだ、と。
なるほど、と妙に納得したエピソードだった。
背中を押してほしい時に、占いへいく。
気持ちを吐き出したい時に、占いへいく。
占いってそういうものなのか、と思っていた私はその数年後、また占いと接点のある人と出会うこととなった。
メールの返信に、占い
その人は私が働いていた会社の同僚だ。占い好きな人は珍しくないけれど、彼女は私が会ったことのないタイプの「占い好き」だった。
ある時、
「好きな人からのメールの返信、何て送ったらいいか分からないから、占い師に聞いてきた。」
と彼女は言った。
メールの返信?
メールの返信内容を、占い師に相談?
私は頭の中がハテナでいっぱいで「この人、何を言ってるんだろう?」と思うだけでなく、「これはとんでもない世間話が始まったぞ!」と焦りすら感じた。
ここは職場であり、仕事中の休憩時間である。下手な返事はできないだろう。
”好きな人のメールに何て返信したらいいのか”
これは私にも経験があるから分かる。
好きな人からメールやラインが来て、こちらとしてはキャッチボールみたいに連続してやりとりしたいのに、返信が止まってしまうことに対する不安。
「あぁ、違う文面で送ればよかった」「返信来ないけど、もう1回送ろうか?」「いやいや、もう少し待ったら来るかも?」
そんな風に思う経験は誰にでもあるだろう。
だからメールが来た時に「何て返信しようか」と悩む気持ちはよく分かる。
しかし、その返信内容をどうするかを決定するために。占い師のもとへ行くとは。そんな人もいるのか!と思わずにはいられない。
よほど、重要な内容のメールだったのかも知れない…。私はそう思い、彼女の話に耳を傾けた。
しかし。どうやら彼女は他愛のないメールでも頻繁に占い師の元へ足を運び、返信する文章をどうするか相談し決定しているようだった。
いやはや、なんと重いメールであろうか。
占い師の元へ行く時間があればさっさと返信した方がメールのラリーも続きやすいのでは?と思うが、私はあえて口にはしない。
私は毎回「なるほど、なるほど」と言って話を聞いていた。
「メールに返信する内容を占い師に聞きに行く」という話に対して、「なるほど、なるほど」という相槌はおかしいと思うだろうか…?
しかし、相手は職場の人なので否定的なことを言って波風を立てたくない。当然「いや、さっさと返信した方がいいっすよ」なんて言わない方がいい。たとえ正論だとしても。
そして「うんうん!分かります!」とも言えない。
どう考えても”分からない”からだ。占い師が自宅にいてくれるなら、そら毎回聞いてみるのもアリかも知れないが、メールのたびにわざわざ出向いて毎回聞くなんて面倒で仕方ない。
嘘でも「分かる!」なんて言えやしない。
そこで便利な返事が「なるほど」である。
相手の意見を尊重し、納得はするけれど「いいね」と賛同は、しない。
私は「なるほどなるほどおばさん」としていつも彼女の占い話を聞いていたものだ。
彼女のいいところは自分がすごく占いに頼っているけれど、だからと言って「なつめさんも行ってきて」「一緒に行こう!」「おすすめの占い師紹介する!」とごり押ししてこないところだった。
だから私も安心して「なるほど」と言い続けられるわけだ!(別に言いたいわけではないけど)
人事異動に、占い
そんな日が続いていた頃、会社で人事異動が行われることになった。決めるのは当然上司たちで、我々下っ端社員は決定事項に従うだけだ。
誰がどう動くのかなー、と課の中がそわそわしている。彼女もまたその1人だった。
そんなある日、彼女が勢いよく私のところにやって来たかと思うと「占い師さんに今度の人事異動のこと聞きに行ったら!この異動は、やらない方がいい!って言われた!」と興奮気味に話しだした。
さすがの私も「なるほど」とは言えず「えっっっ!人事異動のことを占いに?」と思わず心の声が漏れてしまう。
今まで「メールのことを占いに?」と、どれだけ思っても口にはしなかったのに、今度ばかりは思わず「え?!」と声が出る。
さすがに「なるほど」では済まなかった。
「なるほどなるほどおばさん」の私が「なるほど」ではなく「え?!」と声を出していることに彼女は全く気付いていないようだった。
「ちょっと、上司に話してくる!この異動は阻止した方がいい!」彼女は嵐のように去っていった。
波風を立てたくない一心で今まで「なるほど」を貫いてきたけれど、もしかして間違いだったかも知れないと思う瞬間だった。