1分短編「タンポポ」

#3 「タンポポ」


黄色い髪の少女は誰もいない丘に1人で座っていた。暗い表情で膝を抱え、遠くを眺めている。
「今日も仲良くなれなかったな……」
茶色の髪の子たちしかいないこの地で、少女は一人ぼっちだった。黄色い髪を見たことないこの地の皆は、少女を魔女と呼び逃げていく。少女は常に孤独であった。

とある青年はふと足元に見えた丘に降り立つと、そこに1人の少女を見つけた。表情は暗いが、その横顔はこれまで出会った人間の中で最も美しい。しかし、人の子でない青年が人の子に話しかけることは禁忌である。人の子に青年の姿は見えないのだから。そこで青年は少女を見守るため、その場に腰を下ろした。
「あの子の笑顔が見られる日が来るだろうか」

来る日も来る日も決まった時間にやってくる少女を青年は遠くから見つめ続けた。気がつけば数年が経ち、少女はさらに美しく成長していた。青年と並べば同じ年頃に見えるくらいになっている。
その間、少女が笑うことはなかったし、青年が動くこともなかった。青年が初めて少女を見つけた時から何も変わっていない。少女を見つめるだけでなく、話したいと思い始めた青年は、それが出来ないもどかしさで軽いため息を吐いた。

突然自分の横を風が通り抜けたことを感じ、不思議に思った少女は振り向いた。少女の斜め後ろ、少し離れたところに青年が1人座っているのが見える。少女は立ち上がって青年に近づいていく。
「お兄さんがため息を吐いたの?」
少女から話しかけられた青年は、自分の姿が少女に見えていることに驚嘆した。
「君は、僕が見えるのか」
「何を言ってるの。もちろん見えるわ」
少女の声は少し低めのかすれた声だった。少女と言葉を交わせたことが嬉しくなった青年は、自分が南風であり数年前からここで少女を見守っていたことを話した。
「まぁ、話しかけてくれればよかったのに」
「私はタンポポだから、お兄さんが見えるのよ」
2人はそれから、暗くなるまでいろいろな話をしていた。夜になり、少女は家に帰っていってしまった。

次の日、丘に来た少女はこれまでと全く異なる風貌をしていた。黄色く輝いていた髪は白くなり、老婆と呼ぶに相応しい姿である。その少女は、青年に話しかけることなくいつもの場所に腰を下ろした。容姿は変われど少女は少女であると、青年は自分から声を掛けた。
「君、どうしちゃったのさ」
「あらお兄さん。どこかから声が聞こえるわ」
「僕が見えないのかい」
「ごめんなさい。見えなくなってしまったみたい」
落胆した青年は、大きなため息を吐く。すると、その風と共に少女はふわっと消えていった。青年のもとに残ったのは、白髪1本のみであった。



100本ノック3本目。
お題がタンポポだったので、タンポポと南風の物語をアレンジしました。日々長くなっている……。

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