1分短編「笑顔が見たくて」

#2 「笑顔が見たくて」


今年もまたやってきてしまった。
誕生日。毎年来る11月11日。私の一番嫌いな日。
子供をつくるつもりのなかった母から生まれた私にとって誕生日というイベントは虚しさの溢れるもの。友だちはみんな祝われてケーキを食べてプレゼントをもらって嬉しそうにしているのに、私は朝起きると食卓にお金が置いてあるだけ。母に愛されていないことを再確認するのが誕生日だった。
大学に入って一人暮らしを始めてからは、お金が渡される行事もなく祝われることもない。誕生日なんてないものとして生きていこうと思いつつ、何やらいろいろな手続きに生年月日を入力する度に思い出させられる。

今年も静かに歳を重ねる日が来た。
いつもと変わらず朝から会社に行き、仕事をする。そして、いつも通り家に帰ったらご飯を食べて寝るだけのはずだった。
20時。家に帰ると、一緒に住んでいる唯一の友だちがリビングにいる。
「ただいま。何にこにこしてるの」
「おかえりー。自分の部屋、開けてみて」
何それ、と思いながら荷物を片付けるために部屋の扉を開ける。目に飛び込んできたのは床一面に敷き詰められたポッキーにトッポ。驚きすぎてへ、と間抜けな声が出た。その場で固まっていると、友だちから声がかかる。
「どう…?」
「どうも何も意味わからないんだけど」
と言いながら振り返ると、さっきまでにこにこしていた友だちは目をうるませている。
「今日、誕生日だってこの前初めて知ったから…。久しぶりに小夜の笑顔が見たくて…」
子犬か。上目遣いで控えめにこっちを見る友だちがどうにも可愛くて、ふっと吹き出してしまった。私が笑ったのを見た友だちはまたぱっと嬉しそうな表情に変わる。

「私も花那の笑顔久しぶりに見れて嬉しいよ。」



100本ノック2本目。
思ったよりも長くなってしまいました。後半だけでよかったかもしれない。


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