たとえガワが同じだとして、僕は変わらず愛することができるのか。

2日前に推しのライブがあった。

好きなバンドでもあるのだが、このライブに行くときは"推し"に会える…そんな思いが強くなる。

UNISON SQUARE GARDENとXIIXという2つのバンドでギターボーカルを務める彼が、殊更に自分の色を出す割合は圧倒的にXIIXの方が多い。

前に一度、まるで私服のようだと表現したことがあったが、それぐらいありのままの推しに触れることができるのはポイントが高い。

うん、今日もいいライブになりそう。

そんな期待値を持って参加したライブは、いつものバンド編成ではなくて、メンバー2人の楽器による非常にシンプルな構成。

バンドみたいにでっかい音はならないし、華やかさよりも美しさが際立つような…そんなライブだった。

変わらずに推しの作る歌はいいし、演奏のクオリティも最高で耳心地がめちゃくちゃ良い。

何なら普段は聞けないようなアレンジ連発でかなりレアな体験ができた。

それなのに、僕の心は高鳴らなかった。

いつものライブで体感するような高揚感はついに感じることはなかった。

それよりも胸に宿ったのは何をどう間違えたのか、純然たる恐怖だった。

「in the Rough 1」と銘打ったツアーは、名前の通りに飾り気のない推しの姿を見せた。

そこで気づく。

普段どれだけあの派手な音楽に、底の見えない闇が隠されていたことを。

1本のギターと1人の男。

隣に座るのはベースと彼の全てを肯定する男ではなく、ありのまま全てを受け入れて背中を押す男。

僕の心は昂らない。それよりも奥底で震えていた。

彼を囲むものがここまで極限に減ったとき、残るものが静寂のメロディだったなんて。

誰も寄せ付けない空間は、まさに彼と音楽だけで成り立っているユートピアであり、僕らにとってはほんの少しも入る隙間のないガラス張りの空間でしかなかった。

きっと僕らはこれを見ることしかできないし、一生かかっても仲間には入れてもらえないんだろう。

その事実に少しだけ絶望してしまった。

大胆不敵にして純粋で。

爽やかな風貌のくせに辛辣で。

虫も殺さぬ雰囲気なのに獰猛で。

希望を愛しているし、絶望に思いを馳せている。

そんな二律背反なアンバランスさが推しの魅力だと信じてやまないけれど、ひとたび"調和"という免罪符を外した瞬間に見えたのは、途方もない暗闇だった。

誰かと交わってしまったとき、僕は見た目をけっこう重視する。

これを言うと世の中の大概に批判を浴びるかもしれないが、あえて言わせて欲しい。

人の良し悪しは大概見た目で決まる。

もちろんビジュアルの良さも関係しているが、見た目には人間性が嫌でも現れる。

普段人の話をどういう風に聞いているのか、困難にぶち当たったときにどういう表情をするのか、さらにいえば立ち振る舞いなけでどんな生き方をしてきたのかが何となくわかってしまう。

何よりも素晴らしいのは、見た目には自分のなかで確固たる基準が存在していて、まず間違いなく後々にその評価が大きく変わることはないということだ。

残念ながら性格というものは、そのときの心情に大きく影響されていて、どれが本来の人間性なのか…他人には曖昧にしか判断できない。

特に負の感情はその人の偏見や都合が多分に滲み出ているので、基本的には信用したくないし、安易にそれを出す人とはそもそもお近づきなりたくない。

そもそも大好きな人の嫌な一面を見ただけで、一瞬で印象がガラッと変わってしまう自分があまり好きになれない。

今回もそれと同様のことが起こった。

見た目はいつもと変わらない音楽なはずなのに、奏でる音楽に拒絶された気がした。

お前はそこでそのままジッと音楽を聴くしかない。

そんな最後通告をされたように思えたのだ。

きっとそれは紛れもない彼の本性であって、これからも憧れ続けていくのならば、目を逸らしてはいけない部分なのだ。

だから、人の根っこに触れる機会にはいつまで経っても慣れない。

これまで好きでいたものを途端に愛せる自信がなくなってしまうからだ。

自分の理想とかけ離れた現実はときに非情に映る。

多分こんな出来事は滅多になくて、次のライブでは変わらない笑顔で音を鳴らす彼に会える。

おそらく今日思ったことも忘れてしまうだろう。

楽しいことは絶望を乗り越えさせてくれるから。

ただ、今日この瞬間に気づいてしまった。

今まで僕が好きでいた彼はほんの一面に過ぎなかったことを。

その事実は真綿のようにじんわりと僕の首を絞めていく。

見た目は何一つ変わっていないのに。

もしその現実を直視できたときに。

明日も変わらずに愛することができるのだろうか。

今は憧れが強いからこそ、きちんと向き合って感じ取る自信はあまりない。

ただ一度焦がれたのならば、生半可なところでやめられるほど安い思いでもない。

伸ばした手の一寸先が闇だとして。

そのとき僕は一体何を掴むのだろうか。

まだ覚悟は決まりそうにない。

…そうだ、今日は彼の誕生日じゃないか。

すぐ近くに迫った深夜のような静けさを振り払いたいのならば。

コンビニに置いてある星型の缶ビールに手を伸ばしてみよう。

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