日本の金融業界がイノベーションを起こす日はくるか②

前回、「日本の金融業界はイノベーションが起きにくい」理由は、大雑把ではあるが、下記2点と記載した。

・「伝統的な金融機関」は、新たな商品・サービスを提供する際、社内外ステークホルダーによるガバナンスプロセスで”No”とならないため”萎縮した新規事業”となっている
・「FinTechスタートアップ」は、規制の厳しさ故、監督当局や既存金融機関を向く傾向があり、「自らの技術やテクノロジーでお客様の生活をどう変えるか?」が十分でない

今回は上記の壁を越えるためのヒントを考察する。日本における「支払い手段」の世界では、2000年代以降、いくつかのイノベーションが起きている。イチ消費者の視点で筆者が特にイノベーティブと感じる3つの事例から探ろう。

1. 交通系電子マネー
2. 携帯電話やスマートフォンでのICチップを使った決済
3. QRコード決済

1. 交通系電子マネー
駅の改札で切符が不要となったことは革新的であったが、2004年、電車に乗るために常に現金をチャージしている交通系電子マネーのプラスチックカードで買い物ができるようになったのは、消費者にとって、まさにイノベーションであった。筆者の支払い手段でいえば、身近なコンビニやスーパー、駅のKIOSK、といった場所での少額の買い物は、現金から急速に交通系電子マネーにシフトし、レストランや百貨店ではクレジットカードを使うコンビネーションだったと記憶している。

テクノロジーとしては非接触ICチップがキーとなるのだが、同じ技術を使った電子マネーは他にもいくつもある。筆者が消費者として他の交通系電子マネーに囲い込まれた理由は、定期券という財布に必ず入っているものを使って支払いができた点にあった。財布の中のカードは増やしたくない消費者心理にささったというわけだ。

2. 携帯電話やスマートフォンでのICチップを使った決済
2004年には、携帯電話(いわゆるガラケー)でICチップを使ったモバイル決済も始まった。これもプラスチックカードから消費者を解放した点でイノベーションだ。電子マネーやクレジットカードなど様々な決済手段をモバイルに取り込み、電子マネーに対する消費者のペインであった「チャージ」もモバイル上で完結させる機能も登場した。ICチップを使ったスマートフォン決済の登場で、より多くの消費者が利用することになった。今日最もメジャーなキャッシュレス決済手段の一つだ。

3. QRコード決済
QRコード決済が登場した当時、交通系電子マネーとICチップを使ったスマートフォン決済で十分に満足していたため、非接触ICに比べQRコードの読み込みやスキャンといった手間が増えるQRコード決済に対し、筆者はかなり懐疑的であった。だが、いまやQRコード決済はキャッシュレス決済においてクレジットカードに次ぐ利用規模である。(交通系電子マネーの利用規模を大きく引き離している)

提供事業者によるポイントなどのインセンティブなどの要因もあるが、QRコード決済の最もイノベーティブな部分、それは店舗側が「決済端末」を導入することなくキャッシュレス決済を提供可能となった点であろう。筆者の感覚的にQRコード決済は「え、こんなところでも使えるの?」というお店で使えると感じることが多く、その裾野の広さは驚くべきものである。


上記3つの事例で注目すべきは、いずれも「金融機関ではない事業会社」がサービスを提供し始めたところにある。1は鉄道会社、2は通信キャリア、3はプラットフォーマー、といった具合だ。なぜ非金融機関はイノベーションを起こせたのか?様々な理由があると考えられるが、筆者は下記2点が特に重要と考える。

・徹底的に消費者中心で物事を考えた
・ルールテイカーではなくルールメイカーになった

ひとつめ、事例の中で筆者の感じたことを記載したが、消費者を「Wow!」に至らしめているか、がイノベーションの条件と筆者は考えている。そのためには、消費者の行動や特性をひたすら解析し、顧客体験を設計し、アジャイルにサービスを進化させ続けるしかない。徹底的な顧客中心主義、いまのところ事業会社のほうが金融業界よりも一歩先をいっている。

ふたつめ、キャッシュレス決済はもともと明確な法規制がない領域であり、サービス提供者は自ら当局と交渉しながら道なき道を整備し、道を作っていった。資金決済法が作られ、それが進化し続けていることがその証拠だ。金融業界は、大前提として「ルールテイカー」の色合いが強いため、新しい商品・サービスを提供するために新たに制度そのものを作る、「ルールメイカー」となることが不慣れであることは否めない。

今後日本の金融業界がイノベーションを起こせるかは、「消費者中心主義で物事を考える度合いを劇的に進められるか」「ルールメイカーとなる気概を以て監督当局と対峙することができるか」にかかっているのではないだろうか。

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