日本の金融業界がイノベーションを起こす日はくるか①
「日本の金融業界はイノベーションが起きにくい」、ここ数年ささやかれている定説である。ただし、その”理由”については、「規制業界であり法規制の縛りが強いから」といった漠然とした言葉で語られる場合が多い。本稿では、「イノベーションにはアジャイルで協働的なガバナンスが必要」という考えに基づき、解像度の高い”理由”を模索したい。
日本の金融業界の規制が厳しいのは周知の事実だが、その場合、なぜイノベーションが起きにくくなるのだろうか?この議論は、「伝統的な金融機関」と新たなプレイヤーである「FinTechスタートアップ」それぞれに焦点を当てて考察する必要がある。
1.「変われない」伝統的な金融機関
伝統的な金融機関において新たな商品・サービスを検討する際、例えば下記のようなステップが考えられる。
①顧客ニーズ調査などのマーケティングに基づき、商品・サービスを企画
②内部で様々な観点からリスクを評価し手当て。意思決定・ガバナンスプロセスを通過できる仕様に
③意思決定・ガバナンスプロセスでは、監督当局に否定されない仕様であることが重要
④監督当局に提出し、若干指摘を受けながら修正の後、承認を得てリリース
段階を追うごとに次のステップでの「No」を回避することへの意識が強まっていることがわかる。これは、これまでの長きに渡る金融業界への当局による強固な監督がもたらした作用と筆者は考えている。当初は「お客様のため」の商品やサービスが、社内のガバナンスや監督当局に認められるための仕様にどんどんチャレンジング性が損なわれていく、これは客観的に見ると”萎縮した新規事業”とも言えるのではないだろうか。
近年、政府も金融業界にイノベーションを目指すことを促すスタンスを打ち出しているが、過去の縛り付けの影響で、伝統的な金融機関は従来のプロセスから変われない状態が続いている。これは思ったより根が深く、FinTechブームが来た2015年前後から7年経過しても解決されず、イノベーティブな金融サービスが伝統的な金融機関から生まれる気配はおよそ感じられない。
2.「チャレンジできない」FinTechスタートアップ
他方、前述のように2015年前後からFinTechブームが一定に盛り上がったわけだが、ブームを担ったFinTechスタートアップは、日本の金融を変えたか?個人的には、FinTechスタートアップはディスラプターとなるには至らず、既存金融機関とうまく提携することで自らの事業拡大を目指すことを選択してきたように見える。そのためか、FinTechスタートアップは監督当局や既存金融機関を向いて物事を考える傾向があり、「自らの技術やテクノロジーでお客様の生活をどう変えるか?」をやり尽くしていない。結果イノベーションは起こせなかった。グローバルと比べても、日本の金融業界でユニコーン企業が現れていないことが、何よりの証拠である。
閑話休題。日本の「金融」でイノベーションが全く起こっていないかというと、そういうわけではない。代表的なのはペイメント業界であり、この業界では2000年以降イノベーションが定期的に起こっている。この理由を探ることに、日本の金融業界がイノベーションを起こすためのヒントがある。
次回、そこを少し掘り下げていきたい。
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