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エピソード2 「暗転」
父の通夜と告別式を終え、しばらくして私たちは日常に戻った。私は再び小学校に通い始めた。
しかし、父がいなくなった喪失感は、9歳の私にとっては重すぎるものだった。これは、父の人生最後の9年間、一番父の近くにいた私だからこその重みだったのかもしれない。
その重みを抱えたまま、私は再び登校した。身体は重いのに、心の中にはぽっかりと穴が空いたような空しさがあった。
ある時、ふと考えた。自分には何人の友達がいるだろう、と。父がいなくなった寂しさを埋めてくれる誰かを探そうとしたのだろう。
だが、あいにく私は人付き合いが得意ではなかった。私が友達と呼べる人は、同じクラスに1人しかいなかった。しかも、その友達も、他の子と遊ぶようになり、私の居場所がなくなりつつあった。
ん、待てよ?
私って、もしかして、
ひとりぼっち?
私は、孤独だったのだ。独りぼっちだったのだ。友達がいなかったのだ。父がいてくれることに安心しすぎて、気づいていなかったのだ。
私はこう気づいた瞬間、血の気が引くような絶望感を覚えた。自分には、味方がいなかったのだ。そう思い込んでしまった。
その瞬間、私の人生は、暗転した。
こうして、私の暗くて暗くて暗すぎる学校生活が始まった。
自分が独りぼっちだったと気づいてから、クラスメイト全員が私を嫌っているのではないだろうか、という不安があった。小学生の頃は、他人に対して、「好き」か「嫌い」の二択しかないと思っていた。そのどちらかでいえば、私を好きな人なんていないのかもしれない、と思うようになった。
そう考えると、もっと人付き合いが怖くなった。だから私は人を避けるようになった。嫌われないために。
この「嫌われたくないから人と関わらない」という考え方が、これからの私の人生に長く長く付き纏ってくるということを、この頃の私はまだ知らなかった。
長く長く孤独と隣り合わせで生きていくことを、私はまだ知らなかった。