File3:素直な心で自分と他人を受け入れる、ごっちゃんこ

誰が、想像しただろう。

まわし一丁を勝負服にして、メルボルンの街のど真ん中に立つ男が出てくるなんて。

その男がまわしを叩いて軽快なリズムを刻み、Rapを歌うなんて。

2019年9月。
突如現れた、相撲パフォーマー ごっちゃんこ

instagramやTwitterで動画が拡散され、瞬く間に彼の噂はメルボルンに広がった。

https://twitter.com/koryu_artroid/status/1186198841881579520?s=20


お相撲さんがメルボルンのど真ん中でRap歌ってる。

どうやら本物の元大相撲力士らしい。

相撲推薦で大学入ったのに、ヘルニアになって相撲できなくなったらしい。



彼について聞こえてくる言葉のどれもがパワーワードすぎて、正直訳が分からない。

面白すぎる。

拡散されない訳はなかった。



彼のバスキング(路上パフォーマンス)の肩書は相撲パフォーマー。

まわしを勝負服として身にまとい、その身ひとつで路上に立つ。

力強い声をマイクも通さずに響かせ、まわしパーカッションと呼ばれる、まわしを叩いて刻むエイトビートに乗せて、ラップで思いを語る。

語られるのは、彼の自己紹介だったり、何かに対するアツい思いだったり、その場で起こった些細なことだったり。

彼の歌うラップは英語混じりだが半分以上日本語。

なのに、彼のパフォーマンスは国境を超えて愛され、バスキングをする彼の周りには、いつも人だかりができている。


また、路上にチョークで円を描いて土俵を作り、「Let's try SUMO fight」と看板を立て、挑戦者を募って相撲の取組も行なっている。

大人子ども関係なく、日々現れる挑戦者。

時には大きな身体に挑んでいく勇気ある小さな子どもの姿に、またある時は大の大人が体一つでぶつかり合う姿に、見ている観客は何か心に響くものを感じて、彼らに拍手を送る。

大事なのは勝ち負けではなく、彼のパフォーマンスをみた、周りの人に与える影響。

彼の姿から力をもらった人がいたり、相撲という日本の文化に興味を持った人がいると言う事実。


まわしという目を引くユニフォーム。

円から相手を出すか、倒せば勝ちという視覚的にも内容的にもわかりやすい相撲のルール。

そして言葉がわからずとも聴いていて楽しくなるような、元大相撲力士が歌うテンポのいいラップ。

彼にしかできない、パフォーマンスである。



6歳で父親の薦めで相撲を始め、高校、大学と相撲部へ。
バスキングで歌われている噂通り、相撲の推薦で大学に入ったにも関わらず、ヘルニアを煩い相撲ができなくなった彼。

その後、手術、療養をして復活し、リハビリを続けながら大相撲の世界へ。
幕下まで上り詰め、自分の中の相撲はやりきった、と大相撲を引退。

その後相撲を世界に広めたい、と京都で相撲パフォーマーとして、今の形の路上ライブを開始。

その路上ライブの様子を、メキシコ人に拡散され、instagramのフォロワーが爆発的に増えた事をきっかけに、2019年8月にメキシコへ。

メキシコに1ヶ月滞在した後、路上パフォーマンスが合法で出来ると言うことで興味があったオーストラリアへ。


お相撲さんと一見かけ離れたところにあるように思えるラップ

彼のこの音楽の原点は、彼の高校時代にさかのぼる。

日本の国技である相撲だが、実際にその競技人口は少ない。

ましてや子供ならなおさらで、6歳から相撲を始めた彼にとって相撲というのはアイデンティティの一つとなっており、彼=相撲という周りのイメージが小さいころからあったのだという。

それに対して、何か相撲じゃないものもやってみたいと、始めたのが軽音、ドラム。友達とバンドを組み、ドラムボーカルとして、ステージに立っていたこともあったらしい。

ラップに出会ったのは大相撲時代。相撲仲間の勧めで聞くようになったことが始まりだという。
大人が、ビートに載せて、喧嘩のような勢いで、リズムに乗せて言葉を交わす。音楽というジャンルの中だからこそ、普段言えないことも、一見アツすぎてダサく思われてしまいそうな想いも、何でも言えてしまう。そんな世界に魅了された彼。


日本の国技である相撲を、世界に広めたい。

日本人ですら、よく知らない相撲の世界を知ってもらうきっかけが作れたら。

そんな思いで飛び出した世界。


芯が通っていて、心も身体も強そうに見える彼だが、その根本には、とても繊細で素直な彼が潜んでいた。


彼は自分という人間をよく知っている。過去に何度も自分と向き合って、分析してきたのだろう、自分を客観視するような発言がよくあった。

最初に彼と話しをしたときに彼からきいた言葉も、「自分コミュ障なんですよね」だった。でもそれを否定するような言い方ではなく、彼はそんな自分を受け入れているように見えた。


自分の中の弱い部分と何度もぶつかりながら、しっかり向き合って、乗り越えてきたからこそ、彼は自分を知っている。


人間誰しも、多少なり虚栄心のような感情を持っているもので、例え親しい人との間柄でも、少し自分を大きく見せようとしたり、見栄をはったりするものだが、彼にはそれがほとんど見られない。

自分を知っているから、大きく見せることなく、等身大の素直な姿でそこに居る。

同時に、周りの人間に対しても、相手の裏や中身の黒い部分を探ろうとするのではなく、彼に対して向けられる相手のありのままの姿を、そのまま受け入れられる人である。彼という素直な人柄に、関わるこちら側は取り繕う必要がなく、心が浄化されるような気持ちさえする。


コミュ症だと言う彼が、他人の前に立つときに入れるスイッチは見栄やプライドなどではなく、周りを楽しませたい、相撲を知ってほしい、という素直な気持ちから出来ている、"ごっちゃんこ"というスイッチ。

そのスイッチは彼にとって頼れる存在であるが、時にそのスイッチが切れなくなるのは、彼が優しすぎるから。

優しすぎる人間は、自分の為よりも人の為に動くことの方が原動力になり得る。時々無理をしてしまうのは良くも悪くも彼らしさ。

と言いつつも、しっかりと芯のある彼は、自分で進む道、自分のやりたいことをしっかりと自分で決められる。迷って、周りにアドバイスを求めても、最終的には本当に彼自身がやりたいと思ったことしか行動に移さないし、流されるのではなく、その時の自分の気持ちを大事にして、決断できるのは彼の強さだと思う。


インフルエンサーと呼ばれる職種ができるくらい、SNSが生活の中心になり、それを通して仕事を得ることも、人と出会うことも、やりたいことをやることもできるようになってきた昨今。

媒体がなんであれ、youtubeやInstagramなどのSNSを使って自分発信をし、それが他人に影響を与えるようになってくると、良くも悪くも付きまとうのは他者評価の壁。

数字の悪魔に取りつかれず、やりたいことを貫ける人は少ない。

確かにフォロワーが増えれば、それだけ自分の活動の幅も広がるのかもしれない。自己肯定感も上がる。自分の活動に意味が見いだせる。

でも数字はあくまで指標の一つにすぎず、イコールその人の価値ではない。

たった一人でも、彼のパフォーマンスや、行動や、言葉が響いた相手がいれば、それだけで十分な価値なのだと私は思う。

彼の魅力は、”ごっちゃんこ”としてパフォーマンスをして、フォロワーをたくさん抱えているからではない。

彼が彼だから。相撲パフォーマーとしてやっていこうと決めた彼の気持ちの在り方や行動。そして、素直な彼だからこそ発信できる心に響く言葉があるから。


File3:ごっちゃんこ改め、太田航大

力強いパフォーマンスと、素直な心で、人に響く発信をしていくおすもうさん。芯の強さを持ち、ありのままの自分と他人を受け入れられるひと。

Instagram: https://instagram.com/gocchanko?igshid=n3qyre2k88mh

Twitter: https://twitter.com/Gocchanko



こうだいくんの素直な言葉に、私は何度も元気をもらいました。出会ってからの3週間、たくさん遊んでくれてありがとう。とても楽しかったです。またいつか、どこか違う国で、ヘルニアー!って叫ぶ声が聞こえるのを楽しみにしています!その時にはまたちゃんこ鍋でも食べながら、お話しようね。



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