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僧正殺人事件~読書備忘録~
読みました。
ヴァン・ダインはたぶん初読。
小説の中でもミステリーが好きなんですけど、内容をすぐに忘れます。
トリックの細かいところなんかはおおよそ覚えてないんですね。
作家さんには申し訳ないと思ってます。ええ。思ってますとも。
「面白い!」と思った本でもうろ覚えだったりするので、これは癖とか能力の問題なのでしょうね。
でもやはり、本を読むのは楽しいです。
内容をこと細かく覚えていなくても、読後感というのはグッと残るんですね。
文章の色気とか。
文体の固さとか。
キャラクター性の妙とか。
そういう漠然とした感覚は背表紙を見るだけでもふっと香るものでして、
自分にとしてはその香りが小説の価値と思っています。
とはいえ、
「読後すぐの感想って貴重だよな」と思うこともありまして、
「もう少し思い出す材料を増やしたいよな」と思うこともありまして、
「少しだけ頑張ってメモでも書いてみるか」と思い至ることとなりまして。
ということで備忘録を始めます。
かなり浅いので、きっとネタバレの心配はご無用です。
①あらすじ
高名な物理学者ディラード教授の邸宅周辺で、教授の姪に思いを寄せていた弓術選手ジョーゼフ・コクレーン・ロビンが心臓に矢が突き刺さり死んでいるのが発見され、恋敵であり死の直前まで一緒だったスパーリングという男が姿を消した。
コック・ロビンが弓矢でスパーリング(雀)に殺されたことを思わせる状況は、マザー・グースの「コック・ロビンの死と葬い」に不気味なまでの合致を見せる。そして現場の郵便受けには「僧正」と署名された、事件を示唆するような内容の書付けが入れられていた。
そして事件はそれだけでは終わらず、スパーリングが捕まった後も次々と「僧正」の魔手により「マザー・グース」に見立てた不気味な殺人事件は続いていった。
素人探偵ファイロ・ヴァンスは、独自の心理分析によってそれぞれの殺人の犯行状況から犯人像を絞り込み、「僧正」と対決する。
引用
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%83%A7%E6%AD%A3%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6
②感想(起承転結それぞれで)
起
序盤の雰囲気はだいぶ好み。展開はわりと早いが、ヴァンス(探偵)と周辺人物との会話が軽妙で、古典ミステリーの好ましい雰囲気がよく出てる。舞台の雰囲気を醸し出すには本筋と関係のない会話がやはり重要。このあたりはエラリー・クイーンよりも好きかも。文章のそれ自体というよりも、キャラクター性の違いかしら。ファイロ・ヴァンスのほうがよりフレンドリーな探偵というイメージ。エラリー・クイーンはちょっとシニカルで名探偵感が強い気がする。
承
ここもけっこう好き。見立て殺人が好きな人にはハマるはず。解説にも記載してあったが「マザーグース」の見立て小説としては初めて踏み込んだ作品だったらしい。
ただ謎の混迷さはそこまで重視していない様子。というのも密室殺人やアリバイトリックのような謎要素がない。基本的にフーダニット(誰が)とホワイダニット(なぜ)に絞られてる。
転結
わりと転結が一体化している。まぁ転をどことするかにもよるのだろうけど、転結がセットで物語のテーマを提示している印象。
驚きはそこまで大きくないものの、かなりスマートで好印象。しかも結で読者に考えさせる含み(余韻)も与えている作品で、ヴァン・ダインはここが書きたかったんだろうなと思える力強さがある。
総評 B+
完成度はもちろん高いです。言わずもがな。
個人の趣向として、やや好みというくらいなのでこの評価に。
キャラと設定、序盤の流れが良い。
一方で転結が淡白かなと。良し悪しではなく、色気がもっとほしいところ。
その意味で結の最後あたりはよかった。この雰囲気をもう少し散りばめてもらえると嬉しい。
特筆したトリックがなく、驚きは少ないですが、その点はある意味で希少価値ありかなとも思えます。
過去の小説(過去が舞台となる小説も含めて)は科学捜査の手法が限定的で
トリックによるシチュエーションの限定がないのもやっぱりいいですね。