児童教育から見る大人の生き方
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダシップ特論2021」第7回:高濱 正伸さん
2021年5月24日 by コク カイ
「クリエイティブリーダーシップ特論2021」とは武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース(通称「ムサビCL学科」)が行われている、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を招いて、参加者全員で議論を行う形の講義です。受講生たちは毎回の内容をレポート形式でnoteで連載しています。
今回のゲストは「はなまる学習会」代表、高濱正伸さんです。
高濱さんは約30年を渡って、小学校低学年向けの学習教室はなまる学習会を運営してきました。「情熱大陸」をはじめ多くのテレビ番組に紹介され、著書も複数あります。彼が考えた独特な指導法はたくさんの子供に早い段階で、人生において大切な能力と教養を身につけさせました。
はなまる学習会の指導目標の中には「算数脳」というキーワードがあります。「算数脳」とは簡単に言えば抽象的なことを論理的考える思考力です。それは「遊ぶ力」、「詰める力」、「見える力」という三つの能力で構成されていて、子供にとってもっとも大切な能力だと高濱さんが考えます。
まず「遊ぶ力」とは色々詰めている中、目をそらして違う道筋を発見する能力です。問題解決に至る道は、一本の直線ではないことは往々にしてあります。そこで一つの正解を必死に探すよりは、とにかく自分で色々試すことが重要です。
世の中の多くの問題に決まった正解は存在しません。いつも正解を探し出そうと思って動き出したら、正解を見つからない瞬間はがっかりして、心が折れてしまいます。逆にどんな難問でも遊ぶような気分で取り組むと、やればやるほど楽しくなります。それを子供に知ってもらうことで、思考の柔軟性や探究心を身につけることができます。
次に「詰める力」は、いわゆる「やり切る力」、「意志力」などに言い換えることができます。例えば今まで誰にも気付かれない新しい課題に出会ったときに、創造的な解決策を見つけることが必要です。しかしそこで勝負するのは頭の良さや発想力などではなく、詰める力だと高濱さんが考えます。
意志力でもいい、やり切る力でもいい、彼がここで強調したいのは問題に焦点を当て続けることの重要性です。よく発想法やインスピレーションなどを信じ込んで、「いいアイデア」を待ち続ける人がいますが、残念ながらそこからはアイデアは生み出しません。
朝も考えて、夜も考えて、歩く時も考えて、食事する時も考えて、そしてある日、目から鱗が落ちるような瞬間がやって来ます。高濱さんの言葉を借りると、それは「アイデアは問題意識の裏返し」ということです。
最後の「見える力」というのは、見えない本質を見抜く力でもあります。要点把握、課題定義などに言い換えてもいい、いわゆる「ここは問題でしょう」という洞察力です。
その中における「見えない本質」とは、現象の裏側にある世界のことです。人間の感情の動きから様々なコンプレックス、社会の動きから様々な衝突、何かの不調和の裏側には必ず原因があります。もちろんその原因を適切に把握することは容易ではありません。しかしそれができれば、真の問題解決に近づくことができます。
高濱さんの話の聞いて私がふっと気づいたのは、これらの能力は子供だけではなく、大人にとっても大事な能力だということです。遊ぶように難問を取り組む柔軟な思考、最後までやり抜く強い意志、本当の問題を発見する洞察力、これら全てを揃った大人も多くありません。今回、私は高濱さんの視点を通してこの社会に生きるということを改めて考えることができました。