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桜散る日に、桜咲く

あたし、千情もつれ。19歳。

とある大学に通ってる、フツーの大学生。

あのね、あたしね。サークルクラッシャーなの。うふ。

色んな男と遊んで、たぶらかして。

サークルはすったもんだ。もうあたしをめぐって大騒ぎ。

それがずっと楽しかった。

でも、あたしは恋をした。

いや、ずっと恋してたのかもしれない。

高校の頃からずっと一緒の親友、七瀬結華。

どんなあたしも受け入れてくれて、時には叱ってくれる存在。

どんな男よりも、彼女は眩しく見えた。

どれだけ遊んでも、満たされない気持ち。本気になれない心。

ずっと七瀬結華……ゆいのことを、どこかで求めていたみたい。

それに気づいたのは、ごく最近だった。

ごく最近……彼女が『いなくなって』から。

ゆいは霧のように姿を消した。

メールをしても、電話をしてもつながらない。友達に聞いても知らないと言われる。

SNSの更新も途絶えて、大学にも見当たらない。

思いつく限りのことはしたつもりだった。けれど、彼女はどこにもいなかった。

……そんなある日、たまたま気に留めたニュースがあった。

『巨轟毒蟲キャタピラス出現 名都北部厳重警戒』

この名前を見た瞬間、ゾワリとした感覚が走った。同時に……なぜかあたしは、この怪物のことをゆいだと思った。

おかしくなったとしか思えない、奇妙な直感。今のあたしには、直感は「事実」「至極当然」のように思えた。

まるで、ゆいが「こうなるべき」なのを予感していたかのように。

あたしは……その直感に幻惑させられたまま、「とある大会」にエントリーした。

戦う能力なんてないのに。そうせねばならないという、不気味な予感に突き動かされて。

ーーー

「大会」当日。

普通の人間であるあたしは、迷うことなくそこに足を踏み入れた。

今の自分は、なにかおかしいのかもしれない。しかし、そうであっても……

あたしの試合のゴングが鳴り響く。

相手として出てきたのは……

巨轟毒蟲キャタピラスだった。

目の前に現れると、その異様さに足が凍りつく。

毒々しい色で蠢く身体。

うねるたびに轟く地鳴り。

なぜ「コレ」をゆいだと思っているのか?自分でも説明がつかない。

でも、ただ……

ただ、ゆいであったらいいなあなんて、思っているだけなの。

そんなことを考えてるうちに、キャタピラスは地響きをたてながらあたしに近づいてきた。

でも、ちょっと距離を空けて、キャタピラスは静止した。

まるであたしを待っているかのように。

「ねえ、ゆい……」

あたしは口を開く。

「ゆい、なんだよね。あたし、あたし分かったよ。なんでなんだかわかんないけど……でも、ゆいなんだよね。ずっと、ずっと探してたよ!」

ゆいはただ、あたしを見つめている。

「ねえゆい、一緒に帰ろ……。ほら、さ。ゆみかも、しょうこも待ってるよ。あたし、あたし。やっぱゆいがいないとダメなの。あたしは……」

ゆいが悲鳴に近い「音」を発した。

まるであたしの言葉を理解したかのように。

あたしはゆいを抱きしめた。

抱きしめたはずだった。

でも、それよりはやく。

ゆいは大きな口を開けて、

そのまま

あたしを……

あたしの心の桜は散った。目の前が真っ暗になった。

ーーー
あたし、何してたんだろう。

でも、ゆいがお腹いっぱいになったならよかったとか、思ってみたりして。

あはは、でも、もう少し楽しいことしたかったな……。

ふとつんとした刺激を感じる。光だ。

あたしは、桜に包まれていた。大きな体。頭から、花びらが舞い落ちる。

あたし、どうなっちゃったの?ああ、ゆいがいない。はやく探しにいかなきゃ。

あたしはあてもなく歩き始めた。

あたまがぼんやりする。ここはどこなの?

あたしはどうなったの?

ゆい…… ゆい……。

ーーーーー

あたしは蔦を這い回らせる。頭の花を、わけもなくゆさゆさ揺らす。あたし、不思議な姿になっちゃったみたい。

食べられたままでいれば。ゆいとひとつになれたのに。元のかわいいあたしで、ゆいといられたのに、って思ったりしていた。

でもあたしはもう迷わない。あたしはここにいる。

それにあたしがこうなったのは『事実』だし『至極当然』のこと。

もう、気づいたの。ゆいがキャタピラスになったなら、あたしがこうなるのもきっと当然なんだって。

いや、ゆいがキャタピラスになったのは、あたしがいずれこうなるから。一緒に不思議な姿になったんだって思うと、ロマンチックよね。

運命の関係みたいでドキドキする。今のあたしって、とってもステキなんじゃないかな。

ゆいはどこに行ったのかわからない。でもあたしがこの身体であるなら、いつだってゆいとつながっていられる。

ああ、あたしは導かれたんだ。運命に。キャタピラス……ゆいに。あのトーナメントに。

今のあたしは、とっても幸せな存在。落ちぶれてなんていない。夢であるように、何度も願ったりしない。

あのときゆいがそうしていたように。あたしはとある大会にエントリーする。大会の名前はあたしに似つかわしくなかったけど、きっとこれも運命なの。

あたしは、あたしは……

ーーー

一人の化け物が、この世に誕生した。

化け物は幸せそうな表情で物思いに耽り……どこともなく歩いていく。

まるで恋愛を成就させた、初々しい少女のように。

化け物の頭からは樹木がグロテスクに生え伸びている。

そして、異様さに似つかわしくない、ひときわ綺麗な桜が咲き誇っている。

醜く、されど美しい輝きを放って。

「あたしは、巨桜寄蟲マンドレイク。」

「ゆい。ずっとずっと、一緒だよ。」

出演名前

No.4035 『桜』系女子大生・千情(ちじょう)もつれ
No.4036 巨轟毒蟲キャタピラス(元:親友の七瀬結華ちゃん)
No.6640 【八重に絡れる大蔦】巨桜寄蟲マンドレイク(元:親友を愛した千情もつれちゃん)

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