男性が1割の世界で身分を隠して生きたかった男の子のお話#1
...
「ねぇねぇみゆきちゃん〜」
僕の名前が呼ばれる。
「んー?」
振り返り僕を呼び掛けた彼女に視線をやる。
「今度さー、皆で泳ぎにいかない?」
...そっか、そういう時期だよね。
中学2年生にもなってまだ行ったことないな〜。
___...でも僕は行けない。
なぜなら僕はこの世界でかなり『貴重』な男性だから。
なら何故、貴重な男がこの世の中で普通に暮らせているか。
僕は捨て子だった。
どこで生まれたか、誰から生まれたか、全く分からない。
物心着いた時には今の親に拾われていた。
母は僕が男だってすぐに気づいた。
この世界では男の子を産むと、賞金が貰える。
しかし、生まれたあとは親の元で成長するのではなく、男性保護区に送られる。
...保護区の男の扱いは酷いものだった。
一生、搾精され、あるのは食事のみ。娯楽も、自然も、自由もない。
...母はそれを知っていた。
僕が小さい頃、話してくれた。
母には保護区の管理から外れた夫がいた。
彼もいずれかの理由で管理を逃れていたが2年前程、管理局に連れて行かれた。
...近隣住民からの密告らしい。
母は怒り、夫を取り戻そうと必死になったが、取り戻す事はできなかった。
翌年、会う機会を無理矢理作って特別、面会を許された。
...現実は残酷だった。
自分が愛した妻を思い出せないほど。
何をされたらこうなるのか。
保護区とは名ばかりで、実状は奴隷のように男を酷使し、上流階級民の玩具として扱われる。
まるで性奴隷のように。
母は生きる希望を無くした。
決して、夫の容姿が良かったから好きだった訳じゃない。
彼の笑顔が好きだった。無邪気に笑い、優しく、素直に好意を向けてくれる、彼の笑顔が。
近隣住民には賞金が配られた。
だが、怒る気力はなかった。
生きる気力もなかった。
でもそんな時に拾われたのが僕。
この世界の男の不遇っぷりを考えたら施設や男性保護区に
預ける訳にもいかない。
母は過去の経験から、自分で育てることを決心した。
この子をあんな目に合わせる訳にはいかない。
僕は女の子として育てられた。
服も女の子、振る舞いも女の子。
だけど男としての危険性も教えられた。
知られたらどうなるか、保護区に送られたらどうなるか。
だから僕も必死に隠した。隠し通してきた。
...ある事件がなければ...
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深幸(みゆき)「ごめんねー、実は肌が弱くってプールとか行けないんだ〜」
朱音(あかね)「そうなの?あ、でも確かに、去年とか見学してたもんねー」
深幸「そそ。塩素とか日差しとか結構ダメなものがいっぱいなんだ〜」
朱音「ふーん。体も弱そうだしねー。体育も休んでるし。
そんなんだと、もし男が目の前に出てきたら捕まえらんないぞ〜?」
深幸「はは...」
あ、ちょっと今の反応は良くなかったかな。女子として
朱音「ま、そんなこと万に1つもないけどね〜。
あ〜あ、男の一つや二つ落ちてないかなぁー
私だったら保護区なんかに送らずに監禁して一生性奴隷にするね!勿体ないし!」
深幸「そ、そうなんだ...」
こんな話、女子として生きてきたから幾度も聞いた事あるけど、未だにゾッとする。恐ろしくて、普通の返しがパッと思いつかない。
朱音「みゆきってさ〜」
深幸「うん?」
朱音「レズとか興味無い?」
深幸「フグッ」
飲んでいたお茶を吹き出しそうになってしまった。
まだセーフ。
深幸「何言ってるのさ!そんなの興味無いよ!」
朱音「みゆきってさ、身長はそんな無いけどちょっとだけ男の子っぽい見た目してるじゃん?中性的で可愛いと思ってたんだよね〜!レズとは言わず、男装とか、やってみない?」
僕の肩を掴み、物凄い形相で迫ってくる。顔が近い。
深幸「い、いやだよ〜...ぼ...私はそういうの興味無いから、そういう格好して色々誤解されたらやだし...」
朱音「おや?みゆきちゃん、もしかしていま僕って言いかけた?もしかして満更でもな...」
「もうやめなさいよ」
深幸「あ、燐(りん)...」
燐「朱音、男に飢えてるからって、ちょっとやりすぎだよ。」
朱音「だって〜みゆきちゃんかわいいしぃ〜。
ちょっとからかいたかっただけだってぇー」
燐「朱音に言われたら本気かもと思われちゃうじゃん。あんたならやりかねないし。それと詰め寄りすぎ」
朱音「そんな事ないよ〜」
そう言う割には、目が本気だった。顔は笑ってたけど、目が全然笑ってなかった。
深幸「あ、あはは」
燐「みゆきもなんか言い返せばいいのに。困ってるなら。」
深幸「あはは〜ちょっとビックリしちゃって、まさかそんなこと言われるとは思わなくって」
朱音「そう?みゆきちゃんは結構女子の中で人気だよ?中性的で背もそんなないから襲うのにはもってこいだってね!」
深幸「じ、冗談はやめてよ...」
燐「みゆき、あんたもそんなんだからこんな事言われるのよ?嫌なら強く言い返しなさいよ」
深幸「あはは...あ、喋ってたらこんな時間!早く家に帰らないと!」
朱音「みゆきちゃんいっつも帰るの早いよねぇー
もうちょっとお話してこうよぉー」
深幸「ごめんね、早く帰らないとお母さんに怒られちゃう。」
燐「ほんっと、過保護よねあんたの家。女の子なんかそんな過保護にしたって大した事起きないのに」
深幸「大事にしてくれてるだけ有難いから...それじゃ、また明日ー!」
そそくさと逃げるように帰る。
朱音「あっ...早っ...」
燐「即帰ってったわね。まあ、いつも通りだけど。」
朱音「はぁ...あ、燐。なんであんなに過保護なんだと思う?みゆきちゃんのお母さん。」
燐「...? さぁ?ほんとに大事なんじゃないの?」
朱音「実はさ、これ...噂なんだけど...みゆきちゃんが本当は男の子で!だから過保護に育てられてるんじゃないかって!」
燐「ちょ...声が大きい!」
朱音「大丈夫だよ、この時間は誰もいないし。
そんでさ、名前も神代深幸って、なんだか男の子っぽくも取れなくも無い名前だし!性格も見た目も中性的だし!体育の時は必ず休んでお着替えシーンとか誰も見た事ないじゃん!?帰りもそそくさと帰って遊べもしない!謎に満ちてるの!ロマンでしょ!?」
燐「ま、まあね。でも噂でしょ?ただの。まぁ、確かに謎に満ち溢れてるけど。」
朱音「なにより!中学2年生にもなってまだ薄い胸元!スラッとしたボディライン!中性的で可愛いお顔!全てが完璧よね〜...(恍惚)」
燐「あんたねぇ〜第一、みゆきがホントに男の子だったら、どうして普通に生活してるのよ。」
朱音「そう、そこが問題なのよ。けど、一抹の望みを捨てきれないじゃない!
...実際さ、もし、もしもみゆきちゃんが男の子だったらさ、燐は平常でいられる?私は無理だね。」
燐「な、なにを...」
朱音「あ、今想像したよね!?えっちなこと♡」
燐「してない!」
朱音「はあ〜ぁ、女の子でもいいからみゆきちゃん犯したいなぁー」
燐「あんたの場合男も女も関係なさそうね...」
呆れた物言いでため息をついた。
朱音「今度、確かめて見ようかな〜」
燐「...どうやって」
朱音「そりゃあ、もう...」
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深幸「意外と遅くなっちゃったな...」
息を切らしながら家にたどり着く。
深幸「お母さんは...今日も遅番か。」
自分の部屋についた途端、スクールバッグを無造作に放り投げ、ベットに横になる。
(最近、朱音のセクハラが目立つようになってきたなぁ...
燐が助けに入ってくれるけど、どんどんエスカレートしていってる...今日のお誘いだってどうせ、下心丸出しなんだろうなぁ。救いは容姿がいい事くらいか...。)
(誰にも僕が男の子だって事をバラすわけにはいかない。バレるわけにもいかない。母のためにも。僕の為にも。)
深幸「それにしても今日は疲れた...主に朱音のせいだけど...
あ、ご飯...でも眠いな...このまま...」
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ジリリリリリリリリリリ
深幸「ふぇ!?」
いつの間にか目覚ましの音が鳴り響いていた
深幸「あ!もうこんな時間...!?そのまま寝ちゃった...!」
時計は08:06分を指していた。
深幸「まずい!遅刻するー!!」
急いで支度する。
深幸「行ってきまーす!」
まだ就寝中の母に聞こえるように言って自宅を後にした。
学校までは電車で40分ほど。
深幸「ちょっと急がないとなぁ...」
最寄りまで小走りで向かう。
深幸「あっ....はぁっ....はぁ....な、なんとか、着いた」
何とか滑り込みセーフで校内に入れた。
うちの学校は8:45分までに門を跨がないと遅刻扱いになる。
結構ギリギリだった。
朱音「あっみゆきちゃーん♡珍しいねー!遅刻なんて!」
深幸「してないよ...ギリギリだけど...」
朱音「汗ばんでるみゆきちゃんもいいねぇ...舐めてあげたいくらい♡」
深幸「朝から元気だね...朱音。」
朱音「そりゃあもう。朝からみゆきちゃん見れて幸せーって感じ。もう舐めまわしていい?」
深幸「目が笑ってないよ...」
朱音「冗談冗談」
深幸(今日は朝から飛ばすなぁ。なんかいい事でもあったのかな。)
朱音「あ、チャイム、また後でね。みゆきちゃん♡」
深幸「ま、またねー...」
深幸(朝から疲れるなぁ...)
それから普通に授業を受け、体育も普段通り休み、あっという間に放課後を迎えてしまった。
深幸(捕まる前にさっさと帰ろう...)
そそくさとクラスを後にする。
朱音「あ!みゆきちゃん居た!!!」
深幸「げっ」
人気のない廊下を歩いていると最悪なのに捕まった
朱音「探したよみゆきちゃんー!」
抱きつこうとする朱音を受け流す。
朱音「あっ....みゆきちゃん、いつも避けるよね....」
深幸「だってそんな勢いで抱きつかれたら普通に痛そうだし...」
朱音「それくらいみゆきちゃんへの愛が大きいって事だよ!」
深幸「そうですか...」
半ば呆れ顔で言う。
朱音「そ!れ!よ!り!」
深幸「もうちょっと静かに喋れない...?」
朱音「なんでそんな早く帰ろうとしてるのかなぁ〜?」
深幸「.....い、いつも早く帰ってるじゃん...」
朱音「ん〜?いつもクラスで少し勉強してから帰るよね?
今日はいつもより1時間も早いよ?どしたのかな〜?」
深幸「きょ、今日は用事があって....」
朱音「過保護のお母さんがいるのにこれから用事ってなにかな?放課後はいつも寄り道せずすぐ家に帰るよね?」
深幸「なんでそんなこと知って...」
朱音「当たり前じゃん。みゆきちゃんの事だもん。それに、考えてることも分かるしね。」
朱音「みゆきちゃん、私の事、避けてるでしょ?」
深幸「.......」
朱音「最近つれないよねぇー昔はよく私とお話してくれたのにいつの間にか私しか喋らなくなっちゃった。私が怖いのかな?苦手なのかな?」
深幸「そ、そんなこと」
朱音「じゃあ、私とお話...しよ?ここだとアレだし、場所移動しようか。」
深幸「えっ....ちょっと....」
半ば強引に手を引っ張られ、近くの空き教室に連れ込まれる。
深幸「なんでここなの...クラスに戻ろ?」
嫌な予感がしつつも引き攣り気味の顔を出来るかぎり自然な笑顔で進言してみる。
朱音「ここでしか出来ない会話なの。人のいないここでしか...ね。」
流石に危機感を感じ、逃げ出そうとする...が
深幸「あ、あれ、か、鍵がっ.....」
朱音「この教室はね...内側から開けれない扉で出来てるの。出るには私が持ってるこの鍵でしか開けられない。」
.....ま、まずい。
かなりまずい。
喰われる。
その表現が1番しっくり来る。
状況を把握するのが遅かった。軽率だった。
どうやって逃げよう?
朱音から鍵を奪おうったって体格差がある。
僕の方が身長も小さいし、なにより普段運動してないから、非力だし脚も遅い。逃げるのも出来なさそう。
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