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欧米では直接請求者の署名簿の縦覧は無い

直接請求における署名簿の扱いについて、諸外国ではどうなのか?

調べると「国民投票」に関する資料が見つかりますが、これには国や自治体のアクションからスタートするものがありますので、このエントリでは直接請求と等しい乃至類似の扱いの「国民発案」に関するものを取り上げます。

まずはオーストリア・スロバキア・スイス・スペイン・フランス+αにおける国民投票制度について報告している衆議院 欧州各国国民投票制度調査議員団 報告書 平成18年2月について。

オーストリアの「国民請願」における署名

オーストリアの「国民請願」では(法定された内容についての署名ではなく、内容自由のもの)、有権者数の1000分の1の署名(このときは8032名)が集まれば、当該請願を支持する署名を実施することとなり、(8032人を含む)10万人の署名が集まれば、議会は当該案件について審議をしなければならないとされています。この説明の中に署名簿の審査として「縦覧に供する」というような記述はありません。

内務省のHP(http://www.bmi.gv.at/wahlen/)では、すべての国民請願の案件について掲載されています。

資格のある電子署名(「Handy-Signature」または市民カード)を使用したインターネット経由での署名も可能のようです。

スロバキアの国民投票における署名請願

スロバキアの国民投票では、35万人以上の署名をもってなされる請願が要件であり、法律によって有権者名簿が作成されて公示されることとなっていますが、署名簿はそのような法律上の規定はありません(手続の具体的な方法まで法律レベルで規定されているので、署名簿の縦覧制度も無いだろう)。

有権者=選挙人名簿については、日本でも「特定の者」について資格の有無を確かめるために「閲覧」制度が存在しています(かつての縦覧制度は個人情報への配慮から閲覧制度へ統廃合された)。

スイスにおける国民レファレンダムと国民イニシアティブ

スイスの国民レファレンダムと国民イニシアティブにおいて署名簿の扱いに関する規定がありますが、公務所がチェックした後は縦覧という手続はありません。

署名者と提出者は異なる概念であり、国民イニシアティブの場合、「提出者」の氏名は連邦官報で公表されるが、「提出者」とは 『7人以上 27 人以下の投票権者からなる国民イニシアティブの提出者』なので、憲法上「10 万人の有権者」によって発動するイニシアティブの署名者の氏名が明らかになる事はありません。

投票に関しては、スイスは郵便投票や電子メール投票を行う自治体もある。

アメリカカリフォルニア州における直接請求

カリフォルニア州における直接民主制 山岡規雄 を参考にします。

州民発案の手続は、①州司法長官へ提案を提出した後、②必要な署名を得たかどうか州務長官が認証し、③その後州民投票に至る。
中略
④州務長官は、集められた署名の数を審査し、州民発案の要件が満たされていることを確認した後、少なくとも 131日を経てから実施される総選挙又は総選挙に先立って州レベルで実施される特別選挙の際に当該州民発案を州民投票に付託する(州憲法第 2条第 8 節(c)項)。⑤州民投票において、賛成票が反対票を上回れば、その州民発案は承認される。一度承認された州民発案は、それが立法府による修正を認めていない限り、他の州民発案又は州議会の発案による州民投票によらなければ改正することはできない(州憲法第 2 条第10 節(c)項)

この手続の詳細が書かれているはずの法律の紹介がないのでよくわかりませんが、これだけだと日本のように住民の側で署名簿を縦覧させる手続はなさそうです。

韓国は「請求人名簿」の閲覧制度がある

韓国 地方自治法 第13条の3(条例の制定及び改廃請求)
地方自治団体の19歳以上の住民(公職選挙法第18条の規定により選挙権を有しない者は除く。以下、この条及び第13条の4において19歳以上の住民という。)は、市・道及び第161条の2の規定により50万以上の大都市においては19歳以上の住民総数の100分の1以上70分の1以下、市・郡及び自治区においては19歳以上住民総数の50分の1以上20分の1以下の範囲内において当該地方自治団体の条例が定める19歳以上の住民数以上の連署をもって、当該地方自治団体の長に条例の制定または改廃を請求することができる。ただし、次の事項はその請求対象から除くとされる(改正06・1)。
① 法令に違反する場合
② 地方税・使用料・負担金の賦課・徴収または減免に関する事項
③ 行政機構の設置・変更に関する事項または公共施設の設置を反対する事項
2. 地方自治団体の19歳以上の住民が第1項の規定により、条例の制定または改廃を請求するときは、請求人の代表者を選定してこれを請求人名簿に記載しなければならないうえ、請求人の代表者は条例の制定または改廃案を作成して提出しなければならない(改正06・1)。
3. 地方自治団体の長は、第1項の規定により請求があったときは、請求を受け付けた日から5日以内にその内容を公表しなければならないうえ、請求を公表した日から10日の間、請求人名簿及びその写本を公開された場所において閲覧できるようにしなければならない(改正06・1)。

紹介されている条文は条例の制定改廃に関する直接請求のみですが、規定のしかたが日本の地方自治法の直接請求に関するものと似ています(「連署をもって」や「請求代表者」を決めることなど)。

ここで、「請求代表者を選定してこれを請求人名簿に記載」すること、「請求人名簿を閲覧できるようにすること」という規定があります。

請求人名簿」が請求代表者の名前が載っている名簿に過ぎないのか、請求代表者の名前+署名者の名前が載っている名簿なのか判然としませんが、韓国におけるリコール法の制定 白井 京 で紹介されている住民投票法第12条(請求人名簿の審査、確認等)第 7 項に関する説明を読む限りは後者のものと理解できます。

まとめ

1:欧州の直接請求(国民発案)において、署名簿が日本で言う「縦覧に供」されるという規定があることは確認できない
2:韓国の場合には請求人名簿の閲覧制度があり、ここには署名者の名前も載っていると考えらえる

欧州の署名簿の効力審査は、公務所のみが行っていると言えます。

こうしてみると、現在愛知県選管が「縦覧に供」する運用として、署名していない者には署名簿を全部渡さず、職員の方で縦覧希望者の名前を確認して無ければその旨を伝えるだけという方針を採っていることは、比較法的にも問題ないということがわかります。

以上

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