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アビガン=ファビピラビルの新型コロナウイルスに対する有効性安全性論文と承認に関するソース置き場

富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン錠」(一般名:ファビピラビル)への新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の効能・効果追加ついて。

2020年内に治験が行われ、同社が許認可申請していますが、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会)は継続審議とし、2021年1月現在は未だ許認可が出ていません。

アビガンに関する現在地について、論文と承認に関するソースなどを置いておきます。

アビガンの説明書き

アビガン錠説明書き

警告」と書かれているのがわかりますが…

1:動物実験において初期胚の致死及び催奇形性が確認されていることから、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと
2:妊娠する可能性のある婦人に投与する場合は、投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認した上で、投与を開始すること。その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間はパートナーと共に極めて有効な避妊法の実施を徹底するよう指導すること
3:本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導すること

といったようなことが書かれています。

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/medley-medicine/prescriptionpdf/400022_625004XF1022_2_02.pdf

そして、【効能又は効果】は『新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る。)』と書いてあります。

したがって、他の手段を尽くしてもダメだった場合の最終手段として利用されることが想定されていたものです。それは後掲の論文でも指摘されているように、新型コロナウイルスの治療薬として利用する場合でも同様です。

アビガンに新型コロナ治療薬としての効果があるとする報道・論文

アビガンに新型コロナ治療薬としての効果があるとする報道・論文がありますが、報道には特定の患者における症状改善という個別事例の話に過ぎないものが流れることがあります。「症例報告」という形式も個別事例の話です。たとえば以下の事例。

新型コロナ 「フサン」と「アビガン」併用投与で症状改善 東大
2020年7月8日 7時46分

対して、医学論文は一般的・一定の範囲の集団に対して効果が科学的に認められると言えるかどうかを問題にしており、「効果があった」という表現があらわす実態は前者とは相当異なります。

ですから、Twitterなどで論者が話をしているのがいずれのものを指しているのかという点は要注意です。

新型コロナにアビガンが効果があるとする論文:初期のプレプリント2つ:中国論文は一旦撤回後に再掲載

2020年3月に「アビガンは新型コロナに効果があるとする論文が出た」と騒がれたのは以下の2つの論文(片方はプレプリント)

以下は中国の論文で、一旦撤回されましたが再掲載されました。

ただ、この論文は非盲検の研究であったことなど、これだけで許認可が出るような科学的根拠として扱うには慎重になるべきとされていたため、治験が重ねられてきました。

なお、この間、日本は世界各国にアビガンを無償供与。台湾が含まれていないことについては台湾の周志浩執行官から「日本から提供の申し出があった。ただ、今回は遠慮した」と発言があり、日本から声はかけていたというのが判明しています。

藤田医科大学を代表とする日本医療研究開発機構(AMED)による研究

アビガン藤田医科大学2

ファビピラビル観察研究中間報告(2020 年 5 月 15 日現在)
藤田医科大学ファビピラビル観察研究事務局

ファビピラビル観察研究中間報告(第 2 報)(2020 年 6 月 26 日現在)
藤田医科大学ファビピラビル観察研究事務局

本観察研究は医療施設の判断によりファビピラビルが compassionate use として適応外使用された症例について医療施設に情報提供を依頼し集計しているが、この compassionate use を行うかどうかについては日本感染症学会が公開している「COVID19 に対する薬物治療の考え方」を参照の上判断することが推奨されており、現時点での最新版では具体的には以下の通りである。
ー 中略 上掲図参照 ー
以上より、compassionate use の対象となる患者は医療現場において最善の支持療法を行っても予後が不良である場合が多いと考えられ、ファビピラビルの適応外使用が倫理的にも適切であると判断された高齢者、あるいは基礎疾患を持つ患者に偏っているため、疫学研究などから悉皆的に感染者の致死率を推定する場合の対象患者とは異なっている。なお、本邦で新型コロナウイルス感染症の治療薬として緊急承認されたレムデシビルで行われた compassionate use の致死率は 13%であった

このように、対象者の属性が偏っているため、致死率が高く出た可能性があります。

アビガン藤田医科大学

薬害オンブズパースン会議代表 鈴木利廣 藤田医科大学アビガン「観察研究」中間報告における死亡者を踏まえた意見書(新型コロナウイルス感染症に関して)2020年7月2日

結局、これらの観察研究からは、科学的な安全性を示すことができないため、この研究をもとにアビガンを承認することはできない、ということを指摘されており、以降の報告はありません。
※「安全性が無い」ということを意味しない

藤田医科大学はこれとは別に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究課題の一環として「多施設非盲検ランダム化臨床試験」も行っていました。

本研究には3月上旬から5月中旬までの間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者計89名にご参加いただきました。このうち44名がファビピラビルの通常投与群(1日目から内服)、45名が遅延投与群(6日目から内服)に無作為割り付けされました。遅延投与群の内1名は割り付け直後に不参加を希望されたため、臨床的評価は通常投与群44名、遅延投与群44名で行いました。また、ウイルス量に関する評価は、研究への参加時に既にウイルスが消失していたことが後日判明した19名を除外し、通常投与群36名、遅延投与群33名で行いました。研究参加中に重症化または死亡した方はありませんでした。
 事前に規定された主要評価項目である「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」は、通常投与群で66.7%、遅延投与群で56.1%、調整後ハザード比は1.42(95%信頼区間=0.76-2.62、P値=0.269)でした。
 事前に規定された副次評価項目である「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」は通常投与群で94.4%、遅延投与群で78.8%、調整後オッズ比は4.75(95%信頼区間=0.88-25.76、P値=0.071)でした。
 事前に規定された探索的評価項目である「37.5℃未満への解熱までの平均時間」は通常投与群で2.1日、遅延投与群で3.2日、調整後ハザード比は1.88(95%信頼区間=0.81-4.35、P値=0.141)でした。
 ファビピラビル投与に関連する有害事象としては、血中尿酸値の上昇が84.1%、血中トリグリセリド値の上昇が11.0%、肝ALTの上昇が8.5%、肝ASTの上昇(いずれも検査値異常)が4.9%に見られました。これらの異常値は、内服終了後(16日目または28日目)に再度採血された患者(38例)のほぼ全員で平常値まで回復していることが確認されました。また、痛風を発症した患者はいませんでした。
 以上より、通常投与群では遅延投与群に比べ6日までにウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向が見られたものの統計的有意差には達しませんでした。有害事象については、検査値異常としての尿酸値上昇がファビピラビル投与中の患者の大半に見られましたが、投与終了後には平常値まで回復し、その他重篤な有害事象等は見られませんでした。本研究の詳細なデータにつきましては、なるべく速やかに論文発表できるよう準備を進めてまいります。

こちらの研究では「安全性」には問題ないとしながら、新型コロナウイルスに対する「有効性」については、その傾向はみられるものの、統計的な有意差を認めるまでには達しなかった、とあります。

論文化したものについては以下。

富士フイルムのアビガン国内臨床第III相試験

富士フイルム富山化学は、本年3月、非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象に「アビガン」の国内臨床第III相試験を開始。症状(体温、酸素飽和度、胸部画像)の軽快かつウイルスの陰性化までの時間を主要評価項目として、「アビガン」投与の有効性安全性ランダム化プラセボ対照単盲検比較試験*1で検討しました。
156例を解析対象とした主要評価項目の中央値は、「アビガン」投与群で11.9日、プラセボ投与群では14.7日となり、非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者に「アビガン」を投与することで早期に症状を改善することを、統計学的有意差(p値=0.0136)をもって確認できました。また、調整後ハザード比*2は1.593 (95%信頼区間1.024 – 2.479) を示しました。
さらに本試験では、安全性上の新たな懸念は認められませんでした

厚生労働省に許認可申請されている根拠となる治験は富士フイルムの国内臨床第III相試験ですが…

■NEWS 新型コロナ治療薬としての「アビガン」承認、継続審議に─「有効性を明確に判断できない」No.5046 (2021年01月09日発行) P.69 登録日: 2020-12-23 最終更新日: 2020-12-25

厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会 審議の概要について 令和2年12月21日(月)

審議結果は、現時点で得られたデータから、有効性を明確に判断することは困難であり、現在実施中の治験結果の提出を待って、再審議(継続審議)するとしています。

「単盲検」試験による結果に疑義があるとされたためです。

なお、アビガン開発者による緊急寄稿(4)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアビガン承認に向けて(白木公康)を参考までに置いておきます。

まとめと私見:日本でアビガンが承認されない理由

1:アビガン=ファビピラビルは、もともと最後の手段的に利用されるものだった
2:安全性についての知見も蓄積しておらず、新型コロナウイルスに対する有効性についても傾向はみられるものの、承認するに足りるエビデンスが乏しかったため、春の段階では治験の実施を待つ他なかったと思われる
3:日本政府がアビガンを海外に無償供与したのはその意味でも「実績」「エビデンス」を作るためであり、承認に向けた動きとして有効だったと思われる
4:厚生労働省でアビガンの新型コロナに対する効能・効果が許認可されず継続審議となったことについての評価はわからないが、仕方なかったのではないか

日本政府・厚生労働省を悪者にする論があったりしますが(それ自体問題なのかは私には分からない)、こうした事を踏まえて居た人がどれだけいただろうか、とは思います。

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Nathan(ねーさん)
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