ラムザイヤー教授の芸娼妓契約論文(1993)と吉見義明氏による「慰安婦契約」論文批判
ラムザイヤー教授が30年前に書いた芸娼妓契約に関する論文があります。
序説では以下の注意書きがあります。
ラムザイヤー教授が売春を合法とする立場ではなく、産業の歴史研究である、というのは当然でしょう。また、規範的な判断でもありません。
この点で吉見義明 氏が岩波「世界」令和3年5月号で書いたラムザイヤー論文批判の中で、研究不正なのでIRLEに論文掲載禁止を要請する論拠とする、人権侵害の容認・助長云々は、根拠が無いし、研究活動というものそれ自体を毀損する主張です。
さらに重要な指摘が
訳者あとがきの最後のパラグラフと言うのは以下
要するに、ラムザイヤー論文を全否定してしまっては、【現代の】酌婦稼働契約の実態把握と女性保護のための法的環境整備を検討するための視点を欠くことになるということ。
最判昭和30年10月7日の判例が出て金銭消費貸借契約(親-業者)と売春稼働契約(娘-業者)は密接に関連して相互不可分とされて芸娼妓契約全体が無効とされた後も(それ以前から、売春稼働契約の部分は無効という判断が出ていたが)、そういう契約が成立している前提で論じることは何ら問題ありません。
司法による法的評価が加えられて初めて有効無効が問題化するのであって、それが無い段階での一定の労使関係の実態は現実に存在している。
吉見義明氏は「世界」の論稿で「契約主体は業者と女性というのは誤り」と書いているが、民法学上は芸娼妓契約というものはそのように(契約主体は女性であり成立しているが全体としても無効)整理されています。
それに、女性が契約主体でなければ売春宿で衣食住の提供・前借金返済時の廃業・チップを貰った際の扱いなど、女性の権利が担保できません。
契約が無効になった際に業者側が女性側に渡した前借金に関して不法原因給付であるとして民法708条に基づく返還請求をしても、そのような請求は公序良俗違反であり不可能とされましたが、この結果となるのは、まさに女性が契約関係にあったが無効と評価されたからです。
そして、吉見氏は「契約書が提示されておらず論証の体をなしてない」などと強弁していますが、契約成立には契約書は必要では無く、契約の存在の立証にとっても必要ではありませんから、法的に見るとかなり乱暴な主張をしています。
西岡力 氏も、朝鮮人慰安婦は文字が読めない者が多かったから、書面での契約書ではなく口頭での契約が主だったと思われることや、軍が契約関係をきちんと整理させ、朝鮮人慰安婦を悪徳業者から守っていた例を紹介し、契約書がなくとも契約関係が推認できる事情があることを指摘しています。
慰安婦問題に関するラムザイヤー教授論文撤回を求める経済学者声明の事実関係の誤りについて 西岡力(歴史認識問題研究会会長、麗澤大学客員教授、モラロジー研究所教授)
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