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「結婚しまして、妻になりました。」

この世界に対しての恐れは、恋人が死んでしまわないかだけ。
素晴らしい人は、早く死ぬ気がする。根拠のない不安を取り除けないわたしは、とても弱虫だ。
できるだけ長生きしてもらって、一緒に子供の成長を見守りたい。毎日祈っている願い事はそのひとつだけです。
他にはもう、本当に何も要らない。

そう思うと、わたしたちのお酒好きも大概にしなければね(妊婦であるわたしは断酒中だけれど)。
恋人が深酒をした時の酒癖はひとつ、「感動的に語る」。
今夜は別々に過ごしているけれど、先ほどから恋人のLINEがとても熱く感動的。
言葉を尽くして愛する気持ちをたくさん伝えてくれるのは嬉しいけれど、果たして飲みすぎていないだろうか。
心配だけれど、離れているから確認できない。

2018年8月12日

胎児にもすでに感情のようなものが芽生えているらしいと聞いた。
まだ見ぬ母を恋しく思う時、子は、小さな小さな未完成の手を子宮の壁にそっと置いていると言うのだ。
想像すると、本当にたまらない気持ちになる。

まだ喋ることも泣くこともできず、ただただ小さな手を子宮に置くという原始的な方法でがんばっている、我が子。
早くその手を握ってあげたいし、抱きしめてあげたい。

妊娠23週目になった。
会えるまでのあと4ヶ月を、短くも長くも感じる。

2018年8月13日

最近、恋人とのLINEのトークが、「素麺のストックなくなりました」とか「頂き物のフルーツ味見して感想言いたいから取っといて」とか「胡瓜美味しく漬かってました」とか、以前よりだいぶ所帯じみたものになってきた(笑)
まあ、これもまた愉しい。

昨夜はわたしが眠っているなか、夏休み前最後の営業を終えてうちに来た恋人は、疲れているのにすぐにキッチンに立ち、翌日の従姉妹たちとのホームパーティのための料理の仕込みをしてくれて、眠りについたのはもう朝方だった。

二人でよく眠って昼前に目を覚ますと、恋人の男性器がとても元気な様子をしていたので、まだ半分眠りながらそれを触り、「性的興奮ではなくて目覚める時の生理的な現象でこうなっているの?」と質問したら、「目覚める時の現象に、今少しずつ性的興奮が加わってきていることろだよ」と丁寧に説明してくれた。

そしてわたしに触られながら、彼は淡々と必要な電話連絡を始めて、わたしが夏休み中に行きたがっているプラネタリウムの予約と、「コウノトリ学級」なる妊婦とその夫の研修クラスの予約を、速やかに済ませてしまった。

スマートで丁寧な通話の最中も、わたしは恋人の性器を優しく触り続けた。
そんなふうにして、わたしたちの夏休みが始まった。

2018年8月16日

このような話題が多く申し訳ないが、記録として書いておく。
妊娠6ヶ月半ほどになり、さすがにセックスが少し難しくなってきた。
乳首は痛く、お腹も身体も重いので積極的に体制を変えられない、激しく動くとお腹は張ってしまうことなどから、快感への集中力が途切れてしまいがち。

従って、どちらかと言うと恋人を喜ばせたいという欲が多く、すごく丁寧に愛してあげる。
すると気持ちが良くなりすぎた彼はますますわたしを欲するが、応えることが難しい…という悪循環に陥る。

辛くなって中断しても、もちろん嫌な顔ひとつしない彼だけれど。
きっとこの時期も、あとから懐かしくて愛おしい思い出になるのだろう。

◆       ◆       ◆

昨年の夏休みにもお邪魔した、本当に素晴らしいお寿司屋さんへ。恋人の店の隣に位置することから、大将とは顔馴染みだ。
味覚の芸術作品と言えるような一貫一貫を、心ゆくまでゆっくりと味わって、幸せを噛み締める。

帰り際、店の外に見送りに立ってくれた大将と女将さんに、「昨年二人でお邪魔した時には彼女は恋人だったのですが、結婚しまして、妻になりました」と話した恋人は、わたしの腰に優しく手を回していた。
それを聞いた大将と女将さんから、たちまち微笑みと祝福が溢れた。

嬉しくて、なんだか妙に照れたわたしは、クールダウンのために「公園を通って帰ろう」と提案。
恋人から、「うん、あの樹に挨拶もして行こう」と、さらなる提案。
わたしたちは、二人で「あの樹」と呼んでいる大きな欅に、礼儀正しく一人ずつ抱擁とキスをしてから、満ち足りた心を共有しつつ、手を繋いで言葉少なめに家を目指した。 

愛する人が隣にいること。
愛する人がずっと元気でいるように祈ること。 わたしの幸せは、どんどんシンプルなものになる。

2018年8月19日

恋人の実家を初訪問した。
彼が子供の頃の写真をたくさん見せてもらって、お腹の子はこの顔に似るだろうかと想像しては胸が踊った。

今はお義父さんとお義母さんがひっそりと暮らしているこの家だけれど、恋人と妹の子供時代の息吹が隅々まで染み付いている、大切な場所だ。
いつか、こんなふうにわたしたちも老夫婦になって、子供が新しい時代を生きるのをずっとふたりで見守りたい。

絆は受け継がれてゆく。


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