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デビル・ミーツ・ガール

 聖堂の天蓋を見ていたシスターの視界は、自分を犯そうとした兵士の噴き出す血で真っ赤に染まった。

 頸部から上を失った死体はシスターの上に覆い被さる。
 塞がった視界の中で他の兵士たちの断末魔の叫びが響いたかと思うと、途端に静寂が訪れる。少女が首なし死体を押し退けようと腕に力を込めると、死体は聖堂の宙を軽やかに舞い、ゴシャッと鈍い音を立てて落下する。自分ではない誰かが放り投げたのだと彼女は一瞬で理解した。

 シスター・アリスの目の前には、殺されたはずの幼馴染のケリィが佇んでいた。
 少年の顔にあったはずの無数の挫滅創は消え去っていて、胸にナイフが深々と突き刺さったまま平然と立ち上がっている。ステンドグラスから戦火の赤い光が差し込んで、彼の肉体と衣類をより深く赤く染め上げている。

「は、早く手当てを!」
「あのなぁ。人の心配よりもまず自分の心配しろよ」

 ケリィはため息まじりにアリスの胸元を指差す。修道服は胸元から縦一文字へ破かれていて、胸の谷間から下腹部まで露わになっていた。
 慌てて体を隠す彼女を尻目に、少年は雑然と胸中のナイフを引き抜く。穿孔から鮮血がどぷっと溢れ出る。徐にシャツを脱いで彼女に差し出そうとして、屈託のない笑みを浮かべた。

「悪い、これじゃ着れないな」

 投げ捨てられた血染めのシャツがビチャリと音を立てる。彼の胸の刺し傷は塞がっている。背中には二対の蝙蝠の翼が広げられる。痩せっぽっちだった身体には薄くも靭やかな筋肉が覆い、今までの彼よりも背丈が少し伸びていた。

「ケリィ、いえ、あなたは……誰なんですか!?」
「悪魔。魔物と人間の混血って言ったほうがわかりやすいな」
「そんな、魔物はかつての大戦で滅ぼされたと!」
「だから俺は孤児だったんだよ。俺の半分は死んで、そして俺の半分が目覚めた。君の救いを求める声が聞こえたから」

 悪魔は閉ざされた教会の扉を開け放つ。

「君のために、殺し尽くそう」

【続く】

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ナタ
私は金の力で動く。