税理士試験と共に過ごした日の記録⑦法人税法その3
前回に引き続き、今回は法人税法理論編だ。
法人税法の理論の配点は100点中50点。ひたすら法人税法の暗記量が問われる。
正直、いかに整った解答ができるかよりも、いかに法人税法の条文や通達を暗記しているかの戦いになる。
試験では、例えば、受験者である自分が顧問税理士として顧客から相談が入る。それに対して、適切な返答をする、といった設定があるものの、結局解答用紙に書くことは、問いに関連する条文等を漏れなく正確に書くことが求められているように思う。
不合格だった令和4年度、私の理論の勉強方法は「手を動かすことによる暗記」だった。
大失敗だった。
勉強の方法は人それぞれだが、こればっかりはやめたほうがいい。と言いたい。
手首が尋常なく強いか、もしくは一回書けばすべて完璧に暗記できるという才能があるわけでなければ、別の方法を取ったほうがいい。
法人税法の暗記量は膨大である。
本当に人間に課す試練か?と言いたいぐらい多い。
大原の理論の教科書の冒頭部分には、これから理論の勉強に挑むためのポイントがいくつかまとめられていたが、
最終的には「辛いのはみんな一緒です!頑張って覚えましょう!頑張るしかないです!!!」といった内容が書かれていた。
正しい内容は忘れてしまったが「辛いのはみんな一緒!」は絶対に書かれていたと思う。
辛いです。
そんなわけで、頑張るしかないのは至極もっともなのだが、どんなに頑張ったところで、腱鞘炎になったら勉強が中断されてしまう。
ただでさえ辛い勉強に痛みまで加えられたら、やってられない。
今から10年以上前に法人税法に合格された方々は「とにかく書いて覚えた」と言われるかもしれない。私は実際そういわれたので令和4年度においては「私の勉強方法は間違ってない!」と思ってしまった。
しかし、法人税法は(法人税法だけではないが…)年々複雑になり、暗記の量は増えている。
実際、10年以上前に法人税法を合格された方は、私が持っていた教本を見て当時の2倍ほどの厚さがあると驚いていた。
なお、私に「とにかく書いて覚えた」と言った方は、受験生時代、しっかり腱鞘炎になっていたことが後に分かった。
そういうことは先に言ってほしい。
さて、要は法人税法に挑むためには、書いて覚えようとするのは無謀ということだ。
高校時代の試験も、大学受験でも、全て暗記科目はとにかく書いて乗り越えてきた私にとって、勉強方法を変えることはかなり怖かったが、さすがにこればかりは同じ方法だとうまく行かなそうだ、と思い、令和5年度では勉強方法をかなり見直した。
以下は実践した方法である。
1.声に出して読む
大原では講座の教本と別に、市販されている理論の勉強のために要点だけが記載された「理論サブノート」がある。(TACにも同じようなものがある)
これをひたすら、声に出して読む。
書くことはせずにひたすら読んだ。
始めのうちは、目で追いながら読み、だんだんと、目を外し、条文等を頭に浮かべながら読み上げられるかを試した。
集中して黙読することで視覚的に暗記することも大切ではあるが、声に出すことで読み飛ばしも防げるので、声に出した。
ただ、意外と、声に出して読むことは疲れるので、疲れて勉強が嫌になるくらいなら、黙読でもいいと思う。
とにかくいつでもサブノートを見つめていた。
ちなみに、サブノートは重要箇所が赤字になっており、赤シートをかざすと消すことができる。
しかし、この赤字部分だけの暗記では足りない。
最終的には、全文一字一句覚えることが理想であるので、私は赤字部分に加えて頭に馴染んだところを、緑ペン(これも赤シートをかざすとその部分が塗りつぶされて文字が見えなくなる。100円ショップでもどこでも売っている、お馴染みの勉強グッズだ)でなぞり、
なぞった個所をどんどん増やしていった。
試験直前ではほぼ全文が塗りつぶされていた。
2.大項目⇒小項目⇒内容の流れで覚える
1を繰り返していると、少しずつ、少しずつ、条文や通達が頭に馴染んでくる。
しかし、それでも膨大な量を頭に定着させることは難しい。また、いざ暗記したものを答えるときには、その問いに関する条文のどの部分を書けばよいかをパッと選ばなければならないし、当然漏れてもいけない。
ただ、お経のように暗記するのではなく、各論点ごとに整理した状態で暗記していなければ解答の際に使えない。
そのため、各テーマの大項目から覚えて、次に小項目、最後に条文等の内容という流れで覚えた。
例えば減価償却資産、という論点(大原であれば当時5の8と言われていた)でいうと
1️⃣タイトルは減価償却資産
2⃣このテーマには大項目が5つある。
3⃣大項目は1減価償却資産の意義、2取得価額、3標準原価、4評価換えをした場合の取得価額、5資本的支出
4⃣1減価償却資産の意義は小項目なし。2の取得価額の小項目は⑴購入した場合 ⑵自己が建設等した場合…
5⃣1減価償却資産の意義の内容は、「減価償却資産とは、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産で償却すべき次のもの… 」2取得価額の内容は、「減価償却資産の取得価額は、次のそれぞれの金額と… (1)購入した場合…
といった流れである。
どの予備校でも同様であると思うが、理論用の教科書には各論点(交際費等、役員給与、寄附金等)ごとの関連条文等が、暗記しやすいようにまとめて掲載されている。タイトルや大項目小項目というのは、これを基にしたものだ。
この流れで覚えることで、整理して暗記することができ、定着しやすくなった。
最初から細かな条文まで完璧に覚えようと思っても、なかなかうまく暗記ができず、焦りや不安感、いらだちを覚えて勉強が嫌になってしまう。
各論点の大項目ぐらいなら、わりと簡単に覚えることができるので、自信がわいて、やる気につながった。
また、試験の時に、緊張や焦りから、細かな条文がすぐに浮かんでこなくでも、まず大項目だけを書くことで、その先を思い出すことができた。
3.アウトプットはワードを使う
とにかく読んで暗記をしていたが、実際に覚えられたかどうかは、短文であればある程度書かずにできるけれども、細かな用語も漏れなく暗記できているかは、実際に文字に残ってなければ確認ができない。
そこで、定期的にワードに打ち込み、アウトプットができるか確認した。
↓令和5年度、当時の実際のもの
![](https://assets.st-note.com/img/1731470449-XIBcqMwFkCgzJyf8LxpUbiml.png?width=1200)
迷った場所や間違えた場所は太字することで、自分が覚えきれていない場所を認識した。
4.法人税法の理論に必要な感覚
2月ごろまでは予備校で用意されているミニテストや、確認テスト等はカリキュラムに則って受け、解説を丁寧に確認するといった、最低限のことはしていたが、計算とは異なり個別問題を繰り返し解くということはしていなかった。
その代わりに定期的なアウトプットとして③を繰り返し行い、とにかく条文等を丸暗記することに時間を割いていた。
そもそもの暗記ができていなければ、問題を解いても大した意味は無いように思えたからだ。
理論の問題演習は、かなり暗記が仕上がってきた4月ごろにやっと着手し始めた。
これは実際の試験を想定したやや難易度の高いもののみを実際にペンを持ち、書いた。
このとき、時間をかなり意識して行った。
理論は暗記する量が膨大だが、解答に求められている論点は1つ(たまに2、3個複合の時もあるが)で、問題によっては解答欄が、1ページ丸ごとのときもあれば、2行しかないときもある。
どの論点を問われているか、論点の中でどの項目を問われているかを速やかに判断しなければならない。
書かなければならない量は膨大なのに、試験時間は短い。
短い制限時間の中で、部分点がもらえそうな要点だけでもねじ込むためには、どこを書き、どこを削ればよいか、という感覚も必要である。
何度も書いてきたように、税理士試験は採点基準が明らかにされていないため、実際はわからないが、採点者も人間である以上、汚いよりは見やすい文字で書いている方が心証は良いだろうし、当然のことであるが、解答の文字があまりに汚かったら採点すらしてもらえない。
文字は落ち着いて、丁寧に書くことを癖付けなければならない。
また、すべて書ききれなくても、要点を何とか書いて「私はわかってるんですよ!」ということが伝われば、多少拙い解答であっても点数になるかもしれない。
練習でやらなかったことが本番でできることはないので、このようなことを念頭に置いた練習も重要であったと思う。
5.無理なものは無理…だけれど、せめて…
計算では無理なものは無理だから、ある程度諦めるところも出てくると書いた。理論についても同じで、無理なものは無理なところはある。
予備校では、過去の傾向などから、テーマや項目の重要度をランク分けしてくれたりもするが、最終的にはすべて覚えることが当然、理想とされている。
しかし、私も全ての項目を一字一句覚えることはできなかった。ある程度諦めた部分がある。
しかし、諦め方には注意が必要だ。
理論では、基本的に1つのテーマが一つの大問とて問われ、毎年3、4個の論点が出題される。このとき、その1つの論点を丸ごと覚えていなかった場合、致命傷になり、その年の合格は極めて難しい。
過去1度も出題されていないし、実務ではそれほど使う項目でもない。予備校の重要度のランクも低い、といって覚えていなかった論点が、たまたま出てしまった。
終わりである。
実際に、知り合いの税理士の方で、受験時代、模試では常に上位1割に入っており、その予備校では成績が1位。合格は確実と言われていたにもかかわらず、たまたま、まさか出ないだろうと暗記していなかったたった3つの論点のうち、2つがその年どんぴしゃで出題され、不合格だった。という方がいる。
問題を見た瞬間、愕然として目の前が真っ白になったという。
そのようなことが無いようするには、全ての論点について、せめて大項目は覚え、なんとかその論点の中心となる重要な条文だけは、一字一句正確にとは言わずとも、覚えておく必要がある。
その上で、それほど重要ではない論点については細かな内容や手続規定などは、時間が無ければ完璧に覚えることは諦めることも戦略ではある。
とにかくどんなにマニアックな論点でも丸ごと飛ばすのは危険である。
もちろん完璧に覚えた論点のみが出題されることもあるだろうが、試験当日、万が一を考えて不安を抱えていると、できるはずの問題も解けなかったり、全く関係ないところでうっかりミスをしてしまったりする。
ほぼすべての論点が完璧で、一部の論点が抜けている、というより、全ての論点の暗記度が7割のほうが、より落ち着いて試験に臨めると思う。
こういった意味でも、②に書いた、大項目⇒小項目⇒内容の流れで覚える暗記方法は有効だった。
こうも長々と書くのは、実際に私が令和5年度の試験で、そう心から感じた出来事があったからだ。
ここまでが、令和5年度に行った理論の主な勉強方法であるが、長くなったので、試験直前期と試験当日の記録は⑧に続く