税理士試験と共に過ごした日の記録④簿記論その2

簿記論に合格していた。

合格、不合格の手ごたえはずっと五分五分だった。
正直、五分五分より悪いかもしれないと思ってはいたが、自分が合格を信じていないと本当に落ちてしまいそうだから、五分五分と言っていた。

さてそんな不安でいっぱいだった結果を踏まえて簿記論について辛うじて思いつく、私がやって良かったことを振り返りたい。
なお、これについてもまずは予備校のカリキュラムを愚直に行うことが前提である。

まず、基礎期の知識の徹底的に定着させること。
個別問題を繰り返して解いた。手順としては
①1度目は宿題にもなっているので当然解いている。
②2度目は復習で週末に解く。
③3度目は、財務諸表論の時は苦手な部分だけを行っていたが簿記論では知識の定着がなされていないために総合問題で点数が全く取れなかった。そのため2月以降にもう1度すべて解きなおした。
この③以降、問題のページに印をつけ始めた。
印付けのルールは、制限時間内に解くことができ、1か所も間違えなければ、何も印をつけない。
それ以外の場合には1つ印をつける。
④4度目は印が付いた問題のみを解き、印付けを行う。
⑤印が2つ付いた問題のみを解く。
3つ印が付いた問題は、試験直前まで繰り返し解いた。
また、論点をまとめた苦手項目ノートを作りいつでも確認できるようにした。
かつ、印が1つでも付いた問題についても、解くまでではしなくても定期的に見直しを行った。
教科書をどんなに読んでいたとしても手を動かすことができなければ意味が無い。全ての論点について個別問題を見て、どのような処理を行うか、ということを考え込まずに瞬時に手が動くまで、要は反復練習を行うのだ。

私はこれを2月以降にやり始めたため、以降必要な勉強時間が格段に増えてしまい、本当に大変だった。もっと早くからこの反復練習を行なえばよかった、と思っている。
簿記論の試験問題は多種多様で、トリッキーで、いじわるだ。
けれど答えを出すためには、結局1つ1つの簿記のルールに則って「処理」するだけだ。
だからどんな問題が出たとしても淡々と「処理」できる、計算マシーンになるしかない。

私はもともと大学時代に会計分野を専攻していたわけでもなく、小学校のころから算数は大の苦手だ。勉強の才能があるわけでもない。
だから計算マシーンになるには「馬鹿みたい」に「狂ったよう」にひたすら反復練習するしかなかった。

次に直前期については、演習問題(制限時間が20分~30分、または60分程度に設定されている複合知識が問われる問題)を、これまた数多くこなすこと。
時間が無い場合にはそれぞれ分けて解いたが、できるだけこれらの問題を制限時間2時間になるよう組み合わせるか、
過去問や大原で出される予想問題、模試、確認テスト等制限時間が2時間に設定されている、まさに本番形式の問題を試験直前まで繰り返し解いた。
それだけやれば解き方を覚えてそうなものだが、毎回なにかしらのいじわるなひっかけにしっかりとひっかかり、焦って大騒ぎしていた。

本番形式での演習を数多くこなすことは、その問題の正答だけでなく試験本番での自分の最適な動きを考え、定着させることに役立った。

簿記論は大問1、2は毎年大きく形式が異なる問題、大問3は細かな簿記の処理を1つ1つ積み重ねてBS、PL、キャッシュフロー計算書等の資料の完成を求めるまさに「総合問題」といった流れが多い。
大問3の形式については、日商簿記等でもお馴染みであり、稀に難問が出たとしても、おおむね基本的な簿記の処理で対処可能である。

大問1、2が何度も繰り返すようにいじわるでトリッキーな問題が出る場合が多い。
そして過去問と似た形式のものが出る可能性はかなり低いと思う。

しかしだからといって、過去問を解くことに意味が無いわけではない。
一見手も足も出ないように思える大問の中で、あまり時間をかけずに解くことのできる小問を見つける練習。そしてどの程度の「解けなさ」であれば速やかに飛ばし次の問題に取り組むか、時には大問ごと飛ばす決断を下す練習は本番でかなり有効だったと思う。
特に私が受けた令和3年の簿記論においては。

以上の通り、簿記論の勉強法についても、結局は「とにかく手を動かして、とにかく大量に問題を解く」に尽きる。
これをやればあなたも10日で絶対合格!のようなノウハウなど無い。
もし、あったとしても私には合わないと思う。

私が受けた年の簿記論は、日々の記録③で記載した通り、3分の2はぱっと見では何もわからなかった。
パニックになりながらも自然と、今まで練習で培った「解かずに次に進む」基準を信じ、大問1、2は完全に飛ばし、速やかに大問3にたどり着き、練習通りの時間を使い、練習通り1つ1つの簿記の処理を落ち着いて行った。
そしてある程度の時間をもって再度わからなかった大問1、2に戻り、練習で培った「解ける問題」を探し出し、1つでも多く解答用紙に答えを書いた。

税理士試験は合格者には点数は通知されず、配点や模範解答等も開示されないため、何が良くて合格できたかは、まったくわからない。
だから想像でしか無いが、私は難問だらけの中で、ひたすら練習通りの処理ができたことが合格につながったのだと思う。

簿記論試験の合格のためには計算マシーンになるしかない、と書いた。
試験当日まで1年間、予備校のカリキュラムを愚直にこなすことができている時点でその努力は相当なものであり、おそらく全員が計算マシーンに仕立て上げられている。
そして、その段階で初めてスタート地点に立つことができるのだ、と試験を振り返った今では思う。

その後合格するかどうかは、精神力と運だ。

精神力については「練習通りの処理をすれば大丈夫」そう思えるほどの努力に裏付けされた自信があるからこそ、本番でどのような問題が出たとしても練習通りの処理を行なえる。

上記通り予備校から与えられるカリキュラムをこなした段階で「合格レベル」に到達することは可能であるが、一方で他の受験生も同様に「合格レベル」に達しているのである。
だからこそ私はずっと不安であったし、最後まで、過度であったかもしれないほどの勉強を続けることができた。
予備校のカリキュラムをこなすことはあくまで「スタート地点」だという意識をもって、さらなる独自の努力が、より確実で早期の合格につながると思う。
この「独自の努力」は、より勉強時間を確保する、より効率的な勉強方法を考え実践するでも、決まったものはなく、合格するために必要な自分に合った勉強だ。
私は昔から試験に向けた自分の勉強スタイルがあり、その通り行ってたまたまうまくいったが
本来はそれこそ予備校の担当の方に相談し、一緒に考えるのも良いと思う。
そのようなフォローもまた安くない講座の料金に含まれているのだ。
活用しないのはもったいない。

運については、そのままだ。
どれだけ努力したとしても問題との相性がどうしても合否に影響してしまうということは否めない。
私はあまり計算スピードが速くないためスピード勝負の膨大な量の基本的な問題が出されるような年だったら、合格できていなかったかもしれない。
そして見たことのない問題だらけの年だからこそ、実務経験者やより簿記の処理が得意な受験生との差がぐっと縮まったのではないか。
最後は悲しいかな、運が合否を左右する。
私にとっては令和3年の簿記論受験は運が良かった。

と、私はずっと考えてきた。

だが、今回この記録を書いていて、ふと上記ほどの努力ができていれば相性の悪い問題でも対処することができるのではないかと思った。
簿記論を受験した年、私は運が良かったとずっと思ってきたが、よく考えれば問題の3分の2がほぼわからなかったのだから、本当は運が悪かったのかもしれない。
それでもなんとか対処できたから、合格できたのかもしれない。

私の周りにはかつての簿記論受験生の方々が数多くいる。
その全員が口をそろえて「最後は運だ」という。

あれほど独特で、意地悪な簿記論試験を合格確実だ!と思いながら試験を終える人は滅多にいないだろう。
だれもが合格通知が来るその瞬間まで、不安でいっぱいだ。

だから合格できたのは、ただ運が良かった。
そういっているだけなのかもしれない。

運が良かった。と言えるのはそれだけの確かな努力があったのだ。
そう、改めて胸を張りたい。

⑤に続く

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