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法律嫌いが司法試験に合格するまで

論証パターンなるものを最初に見たときに「なるほどそういうものか」と思えるか「なんだこの詭弁は」と思ってしまうかで、それ以降の学習方針はかなり変わってくると思う。前者の人は予備校にどっぷり浸かればそのうち合格するだろうが、後者の人は法学自体に疑念を抱いてしまっているため、そのままでは上手く学習を進めていくことができない。面白いと思える教材を慎重に選び、(詭弁と割り切りつつ)多少は納得できる形で論証を組み立て、ダルさとシンドさを回避する工夫を尽くしていかないと、心を壊すだけだ。普段は表出しないが一定数存在するであろう「そういう人」に向けて、同類が歩んだ道程を示したい。

1 入門書

・ピンポイントシリーズ(主要七科目)

基礎的な条文や概念の説明に紙面を割いた、字義通りの「入門書」である。論点を浅く列挙するだけの地雷入門書も多いなかで、本書はガチの初心者がいきなり読んでも理解できる良心的な作りになっている。同人誌並みに薄いため容易に通読できる。

2 基本書

・呉明植の基礎本シリーズ(憲法、民法総則、物権法、債権総論、債権各論、刑法総論、刑法各論、刑訴法)

説明不要の良書。

・櫻井橋本の行政法

櫻井橋本夫妻による愛の結晶。ラブ・パワーで行政法を乗り切ろう。

・コアテキストシリーズ(商法総則・商行為法、手形小切手法)

隠れた名著。二色刷りで説明もコンパクト。呉基礎本シリーズの商法・手形小切手法バージョンといった感じ。

・リーガルクエストシリーズ(会社法、民訴法、親族相続)

会社法、民訴法、家族法については基礎本シリーズの代わりとなるような教材を見つけられなかったので、次善の策としてリークエを使った。会社法はコアテキストシリーズを使っても良かったかもしれない。

3 短答対策

・伊藤真の速習短答過去問シリーズ(主要七科目)

肢別本はエグつまらんけど、全分野を本番形式でやるのはシンドい。そんなわがままの末に辿り着いた良書。正答率が高いものは問題形式で、低いものは肢別で掲載されている。基礎的な内容については問題形式でサクサク解いていき、込み入った話だけ肢別をじっくり見ていく、というスタイルが怠惰な性格に合っていた。短答対策はこれと過去問数年分しかやらなかったが、予備試験でも司法試験でも合格者平均点をラクラク超えた。

4 論証集

・趣旨規範ハンドブック(公法系、民事系、刑事系)

論文式に必要な知識を過不足なく掲載し簡潔に説明した論証集の決定版。ただし憲法はビミョいので他の書籍で補った方が良いと思う。私は合格思考を使った。

・司法試験合格答案作成ノート

超上位合格者による論文試験の書き方のまとめ。これ自体は論証集ではないが、問題提起方法やあてはめ方は非常に参考になったため、自作論証集に追加していた。独り善がりな学習に陥るのを防ぐという点でも、過年度合格者のノートを参照するのはオススメだ。

5 判例集

・新判例ハンドブックシリーズ(憲法、民法総則、物権法、債権法Ⅰ、Ⅱ、親族・相続、会社法、商法・手形法、刑法総論、刑法各論)

B6判の1頁に事案の概要と判旨と解説がまとまっている。判例百選の長ったらしい事案と解説を読む気になれなかったので、百選掲載判例を新判例ハンドブックで検索するという使い方をしていた。(もはや百選は「出題可能性の高い判例リスト」と化していた。)百選に載っているものは新判例ハンドブックにも大抵載っている。行政法、刑訴法、民訴法はシリーズ対象外であるため、代わりに以下の教材を使った。

・判例ノートシリーズ(行政法、刑訴法)

・判例インデックス(民訴法)

6 事例問題集

・伊藤塾の問題研究

論文対策は流石に予備校でやった方が良かろうと思い、大枚はたいて講座を買ったものの、そこまでの価値を見出せなかった。旧司レベルの短文事例問題集で、参考答案がついているものであれば、市販の教材を使っても予備校と同程度の学習効果を得られるはずだ。これとか。

ただ、最近は安くて良質な講座も多いらしいので、独学に拘らずに調べてみることを勧める。

7 進め方

⑴ 基礎固め(短答対策)
・入門書を通読 → 基本書にマーク・書き込み
・速習短答過去問を解く → 基本書にマーク・書き込み ×計3周くらい
※1周目:読むだけ
※2、3周目:解いてみる

⑵ 記述対策(論点の習得)
・論証集を軸に自己流の論証を作成
※基本書で体系的位置や記述を確認 → 論証集の表現を修正
※判例集で典型事案とあてはめ方を確認 → 論証集に追加

⑶ 記述対策(論点の応用)
・事例問題集 ×計3周くらい
※1周目:読む → 論証集の表現を洗練させる
※2、3周目:答案構成 → 問題提起方法・あてはめ方について論証集に追加
・判例集の事案を読んで、問題提起、論点、あてはめを口頭で再現する

⑷ 過去問演習
・制限時間×1.5で起案(3年分)
・制限時間内に起案(5年分)
・その他は答案構成のみ

⑸ 自作論証集を何度も読み返す

こんな感じの作業を学部三年からローにかけての3年間くらいやっていた。ナンバリングは便宜上のもので、必ずしもこの順番通りに進めていたわけではない。実際のところ各段階は時期的にかなり重なっていたし、分野によっては各段階を行ったり来たりするなど、パッチワークのような進め方をしていた。

あと、判例学習は必須ではない。短文事例演習によっても問題提起方法やあてはめ方を十分に習得することができるからだ。ただ私の場合、抽象的な法理論や解釈の話よりも、実際にどのような紛争があったのかという方に興味があったので、知的好奇心を維持するために敢えて遠回りをした。判例学習がなければ鬱にでもなっていただろう。

ただの愚痴

この3年間を振り返るたび、東京大学に入って良かったと心から思う。前期教養課程に在籍していた2年間は、資格試験には一瞥もくれずに興味の赴くまま勉強できた。この2年間の経験が間違いなく世の中に対する解像度を上げてくれた。学部三年から予備試験に向けて作業を始めたとき、脳のあらゆる機能が停滞していく気がして気持ち悪かったのを今でも覚えている。スタートの遅れは合格年度の遅れに直結したものの、もし学部の4年間をこんな作業に丸々費やしていたらと思うとぞっとする。



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