小説を書きました!
ずっとNOTE更新していませんでした!
何故かというと、小説を書いていたからです!
2ヶ月かかりました。いや〜、小説を書くってすごい大変。何度も挫けそうになりましたが、ようやく最後まで書ききることができました。
3/26に池袋のシアターグリーンというところで、販売させていただきます!
もし良かったら来てください。
序盤をNOTEで公開したいと思います。良かったらお読みください!
『名前のない遺書』
ごめんなさい。たくさんの人に迷惑をかけてしまいました。死んでお詫びしたいと思います。今までありがとう。さようなら
十月十九日月曜日、朝七時四十分頃、三年三組の教室で、生徒が登校する前の教室。金曜日の夕方に並べたはずの机と椅子が少し乱れている。一昨日の漢字検定で使われたことを思い出した。早めに見に来たおかげで時間にゆとりがある。ゆっくりと一つ一つの机を並べ直していく。
足立区立恵華中学校の三年三組の教室で担任の荒川航太は教室を整えていた。教室をきちんと整理すると生徒が落ち着く、ということは多くの先生達の間で常識となっている。心から信じているわけではないけど、朝と帰り、必ず二回、教室の整理整頓をしている。もう十年以上続けていて、すっかり習慣になっている。
机を綺麗に並べ終えたあと、窓を開けた。朝の空気の入れ替えは気持ちが良い。特に今日は秋晴れで爽やかな風が入ってくる。最後に教室を見回して、職員室に戻ろうとしたとき、黒板に白い封筒が立てかけられているのが見えた。手に取ると何も書かれておらず、封はされていない。生徒の忘れ物かな? そう思って中を見ると便箋が一枚入っていた。開いた瞬間、目を疑った。短いメッセージが定規で書かれていた。それは遺書だった。
教室で遺書が見つかった。その話はまたたく間に教師達の間に広がった。遺書はその教室の黒板に立てかけられていた。荒川はすぐに校長に報告し、遺書を見せた。
「こんなものが教室に、荒川先生、何か心当たりはありますか?」
「いや、ありません。名前が書かれていないし、定規で書かれているので、誰の字か全くわかりません」
「とにかく、先生達に知らせて情報を集めましょう」
その直後、臨時の職員会議が開かれた。校長が立ち上がり話し始める。
「本日、生徒が書いたと思われる遺書が発見されました。発見したのは担任の荒川先生です。荒川先生、お願いします」
「はい」
荒川は動揺を抑えながら立ち上がった。
「今日の朝、いつも通り空気の入れ替えをするために教室に行きました。机を並べ直したりして、その後、窓を開けました。そのとき黒板に白い封筒が立てかけられているのが見えました。なんだろうって思って見てみました。外側には何も書いていませんでした。封がしてなかったので、開いて見てみました」
「そのときの文章がこちらになります」
校長先生が用意していた遺書のコピーを学年ごとに一部ずつ配布する。
「え?」
「嘘だろ」
中身を確認した先生たちは、皆、驚きを隠せない様子だ。
「イタズラじゃないの?」
そんなつぶやきも聞こえてきた。独り言を言ったり、横の先生と会話をしたり、職員室が騒がしくなってきたところで、校長先生が再び話始めた。全員が注目する。
「ご覧いただいた通り、荒川先生が発見した手紙の内容は遺書です。イタズラの可能性ももちろんありますが、まずは本校の生徒全員の安全を確認する必要があります。担任の先生は教室に行って、出欠をとってください。それを職員室の先生に伝えていただいて、いない生徒には必ず家庭に連絡してください。何か質問のある先生はいらっしゃいますか?」
一人の先生が手を上げる。
「それを書いたのはうちの生徒で決まりなんですか?」
「現時点ではまだわかりません。ですが、本校の生徒の安全確認が最優先だと考えています。その他の可能性については、安全確認が済み次第、話し合えればと思っています。よろしいでしょうか?」
先生たちがうなずく。確かに、いろいろな可能性がある。もちろんイタズラの可能性も。ただ、もし本当の遺書で、考えたくはないけど、遺書に書いてあることが実行されてしまっていたとしたら。先生たちもそれを何より心配している。そして、最も不安を感じているのは、自分のクラスで遺書を発見した荒川だった。荒川は気持ちを引き締めた。自分のクラスで見つかったということは、自分のクラスの生徒が書いた可能性が一番高い。そして、万が一の可能性も……
「ないようですので、先ほどの説明の通りでお願いします。また、生徒に心配をかけないように遺書が見つかったことに関しては、生徒には伝わらないようにくれぐれも、よろしくお願いします」
先生達はいつも通りの準備に取り掛かる。
「大変なことになりましたね」
隣の席の女性が荒川に話しかけた。木村朝美、荒川より三歳年下の同僚だ。
「そうですね。でも、まずは校長先生の言う通り、生徒の安全を確認しないと」
職員室を出て、三年三組の教室に向かう。
「先生おはよう」
教室に入り生徒たちと挨拶を交わしていく。よかった、とりあえずいつも通りのクラスだ。何か生徒の間で問題が起こっている様子はない。チャイムが鳴った。出欠確認の時間だ。
「みんなー席についてー」
できるだけいつも通りの声掛けをする。チャイムが鳴り終わる頃には教室にいる全員が着席した。教室を見渡し、空席を二つ見つける。
「いないのは、えーと、山下数馬と星優花の二人かな」
星は事前に欠席連絡が入っていた。
「数馬は誰か見なかったか?」
生徒が口々に答えてくれた。
「また寝坊じゃないですか?」
「いつものことじゃないですか?」
「なんか昨日も夜中までゲームしてたみたいですよ」
「そうか、もうすぐ来るかな」
たしかに、数馬は遅刻の常習犯で、朝はいないことが多かった。いつもなら気にも留めないが、今日は違う。すぐに報告するべきだろうか。 すると、廊下を走っている音がした。だんだんと近づいてくる。教室に入って来たのは数馬だった。これで連絡が取れていない生徒はいない。荒川はほっと一息ついた。そして、気持ちを通常モードに切り替えた。
「数馬、また寝坊か」
「すいません、昨日、遅くまで勉強してて」
「嘘つけ! 夜中までゲームしてたくせに!」
「馬鹿! 言うな! あっ……」
数馬もみんなもいつも通りだ。
「まったくしょうがないな。もう受験生なんだからな」
「すいませーん」
「じゃあ、号令」
指示を出すと、学級委員の新藤涼が号令をかける。
「起立、気をつけ、礼」
いつも通りの朝の会が始まった。その後も生徒たちはいつも通りだ。いつもよりも少し短く朝の会を終えて、足早に職員室に向かった。
「いない生徒は星優花だけでした。朝、保護者から欠席連絡が入っています」
荒川は職員室の所属学年の先生たちに報告する。
「欠席理由は聞いてる?」
三年の学年主任の坂田先生に聞かれて、慌ててメモを確認する。
「体調不良とのことですが……電話を取ったのはたしか……」
「私です。お母さんからの電話で、朝からお腹が痛いということでした」
隣の席の木村先生が答える。
「星さんか。最近ちょっと休みが増えてるよね?」
優花はたしかに週に一度くらい欠席することがある。ただ、今回の件とは関係ないだろう。保護者からの連絡で安全確認は済んでいる。
「まあ、いいか。他のクラスの生徒の様子はどう?」
恵華中学校の三年生は四クラスある。他のクラスは、連絡が取れていない生徒が何人かいるため、手分けして連絡をしている。職員室のドアが開き、校長先生入ってくる。職員室の様子を見まわしてから指示を出した。
「各学年の主任の先生方、現時点での状況を報告してください。また、授業がある先生は授業の準備をしてください。まだ、連絡がついていない生徒に関しては、空いてる先生で手分けして、連絡を続けてください」
電話をする先生たちの声が響く中、荒川は授業の準備を始めた。こんなときでも授業はするのか。気が乗らなかったが、仕方ない。連絡は他の先生に任せよう。
他のクラスの授業の様子もいつも通りだった。職員室以外、学校は日常そのものだった。なんかだか朝の驚きが嘘みたいだ。ただ、何も起こらないならそれに越したことはない。
授業の合間の休憩のたびに、職員室の先生に様子を聞いた。他の先生たちもいつもより活発に情報交換をしている。朝、連絡を取れなかった生徒たちの安全確認が少しずつ進んでいく。そして、四時間目が終わった時点で、全学年の全員の安全確認が取れたようだ。まずはひと安心といったところだ。
四時間目が終わると給食の時間だ。荒川は教室に入り生徒たちと一緒に給食の配膳を行っていた。途中で数馬が近づいてきた。
「荒川先生! さっき警察が来ていたけど、なんか事件があったんですか」
「警察?」
驚いて荒川の手が止まる。何かあったのか。いや、生徒の全員の安全確認は取れたはずだ。
「さぁ、何にも聞いていないけど」
「えー? 本当ですか?」
数馬は納得いかないという顔をしていたが、すぐに諦めて自分の席に戻った。遺書が見つかったことは生徒には伝えないことになている。そして、こういう大きな出来事があったときは必ず、先生たちは生徒に本当のことを言わない。生徒もそれを知っている。
配膳が終わり、給食を食べ始める。食べている途中に木村先生が教室に入って来た。
「荒川先生、ちょっと良いですか?」
荒川が廊下に出ると木村先生がささやくように話しかけてきた。
「荒川先生、校長先生がお呼びです。校長室に行ってください」
「わかりました」
何かあったのだろうか。教室を木村先生に任せて、校長室に向かった。
校長室に入ると校長と副校長の横に警察官が二人立っていた。数馬の話は本当だったのだ。副校長が話し始めた。
「先ほど、本校の全ての生徒の安全確認が取れました」
「それは良かったです」
「実は遺書が発見されたと聞いて、すぐに警察に連絡しました。遺書が本校の生徒が書いたのか調べてもらうためです」
警察官の一人が続けた。
「遺書を見ましたが、定規で書かれているので筆跡を知調べることができません。そこで、遺書が置かれていた状況から犯人を絞り込むことができればと考えています。遺書が発見された前後の様子を教えていただけますか」
「わかりました」
荒川は今日の朝、教室で遺書を発見したときの話、金曜日の夕方には黒板には何もなかったという話を伝えた。警察はメモをしている手を止めて質問した。
「遺書が置かれた時間は金曜日の夕方以降から、月曜日の朝までということですね」
「はい、それしか考えられません」
荒川は、はっきりと答える。警察は続けて質問する。
「土日に学校に誰か入ったという記録はありませんか」
副校長が答えた。
「土曜日に漢字検定が行われています。三年三組の教室も使用されています」
それは荒川も聞かされていた。だから、いつもより早く教室を見に行ったのだ。まれにだが、漢字検定などの後の教室は乱れていることがある。
「そのときに、置かれたのでしょうか」
警察は質問を続ける。
「いや、確信はないですが、漢字検定が終わった後、全ての教室を見て回りました。黒板に手紙があったということはないと思います」
副校長は記憶をたどるように答えた。それが本当なら、教室に遺書が置ける時間はさらに絞られることになる。
「夜間に教室に忍びこむことができる可能性はありませんか?」
「コンピューター警備が採用されているので、その可能性はありません」
今度は校長が答えた。荒川がこの学校に来る前は、生徒が夜、校庭に入り込んで遊んでいるときに警備会社に連絡が入り、生徒が警察に捕まるという事件が起きたことがあるらしい。学校にこっそり忍び込むのは無理だろう。
「ちょっと良いですか?」
副校長が手を上げて発言した。警察は「どうぞ」と答えた。
「今、思い出したのですが、漢字検定の終了後に、忘れ物を取りに来た生徒がいました」
「それは、誰ですか?」
「いや、ごめんなさい、名前までは思い出せません、名簿で名前を確認したとき、本校の生徒だったような気がするのですが」
「男子ですか? 女子ですか?」
「女子生徒です。水色のワンピースを着ていた気がします」
「わかりました。もしかしたら、その生徒が置いたのかもしれないということですね。もし、その生徒が特定できれば話を聞いてみてください。他に何か思い出したことがあればまた、お話を伺わせてください。他の先生方も今後も捜査にご協力いただくかもしれません。そのときはよろしくお願いします」
警察官の二人は校長室を出ていった。
「では僕も教室に戻ります」
そう言って、荒川は校長室を出て教室に戻った。ほとんどの生徒はすでに食べ終わっていた。荒川は途中だった給食を食べようとすると、チャイムが鳴った。給食終了の時間だ。チャイムが鳴り終わるとすぐ、放送が入った。
「先生方に連絡します。この後、臨時の会議があります。職員室にお集まりください。生徒のみなさんに連絡です。今日は昼休みの校庭解放は中止にします。教室で静かに過ごしましょう」
「えー まじかよ!」
「何でだよー!」
口々に文句を言う男子生徒たちの中から、また数馬が近づいてきた。
「先生、やっぱり何かあったんですね?」
そう言ってニヤリと笑った。荒川はそれには答えず、首を傾げて残りの給食をかきこみ、急いで職員室に向かった。
先生たちが職員室に集まるとすぐ校長は話し始めた。
「生徒の安全確認ありがとうございました。先ほど、本校の全生徒の安全確認が取れました。」
先生たちはほっとした表情を見せる。
「ですが、遺書を誰が書いたのかがはっきりしていません。状況的に本校の生徒である可能性が高いと言えます。もちろん、ただのイタズラという可能性もありますが、本当に思い詰めている生徒がいるかもしれません。そこで、今日から放課後に、担任の先生は生徒一人一人と面談をお願いします。今週の金曜日までに全生徒と面談をしてください。生徒に聞く内容は今からお配りするプリントに書かれています。よろしくお願いします」
校長が話し終わると、坂田先生が手を上げて発言した。
「放課後だけではなく、日中も使って、なるべく早く面談をした方が良いのではないですか? それと放課後は合唱コンクールの練習が入っています。どうするのでしょうか?」
「日中の授業がある中で、生徒と面談をしていくというのは現実的でないと判断いたしました。放課後でお願いいたします。放課後の合唱コンクールの練習は来週に延期をお願いいたします」
坂田先生は納得いかない様子だったが、再び発言することはなかった。
「それでは、面談をよろしくお願いします。なお、何度もお伝えしておりますが、遺書の件はくれぐれも内密にしてください」
会議のあと、放課後の面談の進め方について学年ごとに話し合った。坂田先生が不服そうに語った。
「放課後の面談、一人五分として、一日に六人くらいだから、三十分か。こっちの負担も考えて欲しいよな」
たしかに負担かもしれないが、生徒の命にかかわる問題だ。それくらいは仕方ないというのが大方の先生の意見だろう。
「合唱コンクールの練習も来週からで間に合うのかな。まぁ、しょうがない。とりあえず、帰りの会で全員面談をやることを生徒に伝えてください。今日からやるということなので、生徒の都合を聞きながら順番を決めて、あとは質問項目はこの紙に書いてあるそうです」
質問項目が書いてある紙を確認する。
①学校生活は楽しいですか?
②学校生活で何か悩んでいることはありますか?
③学校以外で何か悩んでいることはありますか?
④友達で何か悩んでいるなどの話を聞いたことはありますか?
「これに沿って面談を進めてください。面談の後は職員室で面談の内容を私に報告してください。そんな感じでどうですか?」
三年の先生たちがみな、了解し、学年の打ち合わせが終了した。
帰りの会で、面談があることと合唱コンクールの放課後練習が来週からになったことを伝える。
「え~ メンドクサイ」
「なんでそんなことするんですか?」
「合唱の練習しないの?」
生徒が一斉に質問や文句を口にする。そんな中、数馬が立ち上がった。
「俺は面談、今日が良い」
みんな驚いて、一斉に数馬を見た。数馬はニヤニヤとこちらを見てくる。数馬のおかげで教室は落ち着き、初日に面談する六名が決まった。
他の生徒が下校し、最初の面談の生徒と一緒に机の並びを面談用にする。教室の前方中央の席をくっつけた。他の面談の生徒は同じフロアにある図書室に待機している。一人ずつ面談を進めた。①の学校生活が楽しいという質問にはそれぞれ、楽しいです、とか普通、別に、などいろいろな答えが返ってきたが、全員が悩みはないと言っていた。もちろん本当に悩みがないのかは分からないが、生徒たちの「大丈夫です」
という言葉には少しだけ救われる。
予定通り、一人五分ほどで、五人の生徒との面談が終わった。次は数馬の番だ。数馬は、今日の最後にしてほしいと希望していた。警察が来ていたことを聞かれるのだろう。校長から遺書のことは言わないように伝えられている。どう返そうか。あれこれ思案しているうちに数馬が教室に入って来た。
「ねー先生! 何があったんですか?」
「特に何もないよ。生徒の悩みを聞くのも先生の仕事なんだよ。数馬は何か悩みないの?」
話をそらそうとしたが、数馬は質問には答えず、怪しむように荒川を見つめ反論した。
「警察が来た日の放課後にいきなり生徒全員と面談なんて絶対おかしいじゃん。しかも合唱コンクールの練習を延期してまで」
「警察は、ほら、あれだ最近地域で不審者の目撃情報が多いから、気を付けてくださいって話だったらしいよ」
「そんな話、電話でできるじゃん!」
荒川の急に思いついた嘘はすぐに論破されてしまった。しかし、荒川は疑問に思った。数馬はどうしてこんなに気になっているのだろう。警察が来たから面白がっているということだけではない様子だ。面談をやると生徒たちに伝えたときも数馬が手を上げなければ、すんなりいかなかったはずだ。
「なぁ、数馬、逆に数馬は何か知っているんじゃないのか?」
「え?」
数馬の顔から笑みが消えた。
「なんでそんなこと聞くの?」
「うーん、なんでそんなに気になるのかなって。何か知ってることがあるなら話してくれないか?」
「先生も本当のことを話してくれる?」
荒川はしばらく考えた。生徒には絶対に話すなと校長には言われている。ただ、数馬の知っていることがこの事件に大きく関わっているかもしれない。そして、その情報がもしかしたら遺書を書いた生徒を救うことになるかもしれない。
「わかった。話す。だから数馬も知っていることを話してくれ」
数馬がうなずき、話し始めた。
「洋子がイジメられているかもしれない」
「え? 洋子が?」
荒川は信じられなかった。上杉洋子、このクラスの学級委員で成績も優秀。バレー部の部長も務めている。明るい性格でいつも前向きにクラスを引っ張ってくれていた。そんな洋子がイジメられている?
「どうしてそう思うんだ?」
「洋子の上履きがなくなったことがあったじゃん?」
確かに、二学期が始まってすぐ、洋子の上履きがなくなったと聞いた。ただ、放課後、荒川と数人の生徒で探したらすぐに見つかった。あまり使われていない体育館の下駄箱に入っていたのだ。そのとき洋子は「こんなとこに入れたかな?」と言っていたのを思い出した。そして探してくれた生徒の中に数馬もいた。
「あのときはすぐに見つかったから俺たち、はしゃいじゃって、よっしゃあ~! とか言ってたけど、なんであんな使われない下駄箱に入っていたのか、疑問に思わない?」
たしかに、あの下駄箱は体育館の入り口から離れていて、保護者会や卒業式など、お客がたくさん来るときしか使われない。そして、あんなところにあってどうしてすぐに見つかったのだろうか。
「あのとき、見つけたのはたしか……」
「優花だったと思う」
星優花、洋子といつも一緒にいる生徒だ。洋子ほど成績が優秀というわけではないが、真面目にコツコツ努力できるタイプで、掃除や給食当番などを率先してやってくれる。サポートが上手な優花はリーダータイプの洋子と良い相性だと感じていた。優花も洋子と同じバレー部に所属していた。優花は最近、休みが増えてきている。
「優花と洋子、最近あんまり仲良くない感じなんだよね。あんまり一緒にいるところ見ないし。休みも増えてきたし」
確かにそうだ。お互い別の友達と過ごすことが増えている。
「あの日、上履きがなくなった後くらいから、洋子が探し物してることが増えたんだよね。教科書とかノートか、筆記用具とか。ほとんどすぐに見つかるから、あんまり気にしてなかったんだけど。でも最近本当にちょっと暗くなった気がして、心配してたんだ。だから、洋子のことが心配で何かあったのかと思って、荒川先生に聞きたかったんだ」
「ありがとう、数馬。そうか、もっとちゃんと生徒のことを見ないといけないよな」
「荒川先生は良く見てくれてるよ。みんなそう言ってる。でも、先生から見た部分が俺たちの全てじゃないってことは知ってて欲しいかな」
荒川は窓の外を見た。数馬の言う通りだ。先生は生徒より経験が多い分、ついつい分かった気になってしまうことが多い。でも、生徒には生徒の世界があって、ただ見ているだけじゃ、生徒の気持ちを理解したり、生徒の立場に立って考えることなどできない。それを生徒に気付かせてもらった。それだけでもこの面談をやって良かったと思う。ただ、まだ何も解決したわけではない。荒川は気持ちを切り替えて数馬の話をいったん整理した。
「まず、洋子の上履きがなくなった。もしかしたら隠された可能性もある」
「うん、その可能性は高いと思う」
「上履きを見つけたのは優花。その後、優花と洋子の仲が悪くなった」
「前みたいな仲良しって感じじゃなくなったと思う」
「洋子のものが少しずつなくなることが多くなった。すぐに見つかるから、誰かが故意にやっているかは判断が難しい」
「そうだけど、しっかり者の洋子があんなに頻繁に物をなくすとは思えないんだよね」
「そして、洋子の元気が最近なくなってきた。親友だった優花は学校を休みがちになる」
「うん、そうだね。洋子も優花も何かあったんだと思う。何があったのかは分からないけど」
荒川はうなずく。数馬がここまで真剣に話してくれた。そして、今回のこと知りたいと思ったことも、興味本位ではなく、クラスメイトのことを心配しているからだ。その思いにはきちんと応えようと決意する。
「じゃあ、先生も知っていることを話すよ。ただし、絶対に内緒にして欲しい。約束できるか?」
「約束する」
数馬は真剣な目で荒川を見つめた。荒川は、今日の朝、この教室で遺書が見つかったこと。とりあえず、この学校の生徒全員の生存は確認できたこと。警察からの助言もあって、急遽生徒全員との面談が行われることになったことを話した。数馬は混乱したのか頭を抱えた。
「その遺書を書いたのはこのクラスの人ってこと?」
「まだわからない。ただ、先生はその可能性が高いと思っている。そう思って生徒と面談している。だから、数馬が教えてくれたことは本当に重要だ。ありがとう」
「ねぇ先生、俺にできることは何かない?」
荒川は少し考えてから答えた。
「洋子と優花が困っている様子だったら、助けてあげてくれ。そして、最初に約束したけど、先生から聞いた話は絶対に内緒にしてくれ。他の生徒に不安を広げたくない」
数馬は力強くうなずいた。大丈夫、数馬は約束を守ってくれる。そう確信していた。数馬が教室から帰っていき、今日の六人との面談が終わった。荒川は面談用にくっつけていた座席を元に戻した。すると遺書が置いてあった黒板が目に入る。犯人はなぜ、遺書を書いたのだろうか。まるで見当もつかなかった。
職員室に戻り数馬から聞いた洋子と優花の話を三学年の先生たちに報告した。
「あの上履きのときの話か。すぐに見つかったから気に留めてなかったな」
坂田先生は悔しがるような素振りで話した。
「その件と遺書が関係しているかは分からないけど、洋子と優花のことはよく見ておいてください。洋子と優花との面談はいつ?」
「洋子は三日目の水曜日、優花は今日休んだので、まだ決まっていません」
「その二人の面談の様子はまた伝えてください」
荒川が返事をして、他のクラスからの報告が始まった。特別な報告はなかった。やはりあの遺書は、うちのクラスの生徒が書いたのだろうか。今のところ考えられるのは洋子。そして、優花。もちろんまだまだ圧倒的に情報が足りない。
次の日の放課後の面談では特に新しい情報は出て来なかった。三日目の朝、荒川はいつものように教室の様子を見に来ていた。今日は洋子との面談がある。何を話してくれるだろうか。そんなことを考えながら窓を開け空気を入れ替える。今日は雨予報だ。雨が入ってくるかもしれない窓をあけておくか閉めようか悩んでいると、何人かの生徒が教室に走り込んできた。
「おはよう、どうしたんだ? そんなに慌てて」
「先生! この教室から遺書が見つかったって本当ですか!」
「え?」
まさか、数馬が……荒川は背中にジワリと汗が噴き出てくるのを感じた。
ここまでとなります!
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ではでは、お読みいただきありがとうございます!