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多摩スタンダップコメディクラブの魅力

ここ最近、毎月第二土曜日は「多摩スタンダップコメディクラブ」に通っています。これは、しらいわよしこさんがご自宅を開放して開催しているユニークなイベントです。
多摩湖畔にあるしらいわさんの自宅リビングでは、出演者によるスタンダップコメディや、世界初の“しゃべれないスタンダップコメディアン”次郎くんのパフォーマンス、その回ごとの特別企画が繰り広げられます。たとえば、前々回は小田切拓さんによるパレスチナの話、今回は次郎くんの超短編映画「IQ18次郎の毎日」上映と生春巻きパーティでした。さらに、そこで振る舞われるおいしいご飯も毎回の楽しみの一つです。

しらいわさんは「まだ誰も気づいていないかもしれないけれど、ここで新しい歴史が始まっています!(笑)」と話していましたが、私も本気でそう感じています。今回は、私自身がこの会で受けたインパクトある影響について、3つ挙げていきます。


1. 資本主義とは違うレイヤーの“豊かさ”

「金を稼ぐのヤツがエライ」、「自分の価値を最大化しろ」、などなど、そういった従来の資本主義でカチカチになった頭が解きほぐされるような場。いや、しらいわさんと次郎くんにとってもお金のことは切実な問題なのですが、でもしらいわさんに接していると、それだけじゃない可能性を感じてくるのです。

こうやってご自宅を開放して美味しい料理でもてなしてくれると、私の方もカンパだったり何かの形ですごく応えたくなってしまう。それから、次郎くんが販売するグッズをはじめ、パレスチナの石鹸やオリーブオイル、アフリカの布で作ったバッグなど、それを購入することで寄付行為にもなる魅力的なものが素敵な棚に並べられていて、しらいわ邸を訪問したらいつでも買えるようになっていること。なんか時給いくらで何時間稼いで…みたいな世界とはまた違った可能性が広がっているように思える。

そしてしらいわさん自身がシングルマザーで介護士のお仕事をしつつ次郎くんの介助をするという、それだけ聞くとキツキツで厳しい生活を想像してしまうのですが、横で見る限り、エネルギッシュにあちこち動いていてなおかつ楽しそう。「私もやってみたい!」と思わせるようなポジティブさがあるんです。


2. 次郎くんとのコミュニケーションが進化!

当初、次郎くんと話すのはちょっと緊張した。次郎くんの言いたいことがわからなかったらどうしよう、わからなくて何度も聞いちゃって気まずい思いをしたらどうしよう、と心配していた。最初はそういう場面もあった。「わからなくてごめんね~泣」と思っていた。けれど、その後しらいわさんのインタビュー映像で「次郎は人が自分の言いたいことをわかってくれなくても怒らない。でもわかってくれたらとても喜ぶ。喜びしかない」と言っていて、まずそれを聞いて安心した。そうか、わからなくても次郎くんは気を悪くするとかないんだ!と。

その後、しらいわさんのインタビューと同じ企画(おくやまプロジェクト)で次郎くんもお母さんのよしこさんの通訳つきでインタビューを受けていた。そこでの次郎くんの話が面白すぎてついつい文字起こしなどしてしまい、それでじっくり話を聞いているうちに、次郎くんが少ない語彙やジェスチャーを駆使しまくって言いたいことを表現していること、次郎くんの言いたいことはよしこさんが通訳するものの、インタビュアーさんの質問については通訳はそんなにいらないらしいことがわかった。

そして次郎くんが使っている単語の意味もわかってきた!バッチはバス、チチは男性介助者、ダンは死ぬ、ンッンー♪はピンポン。ちなみに次郎くんを前に勝手に不安になったり安心したりしているのはもっぱら私だ。
そして、先日のスタンダップコメディクラブでは、次郎くんと安心して楽しくコミュニケーションをとることができた。電車の乗り換えでやらかして遅れた私を笑顔で「アウトー!」と声をかけて迎えてくれた。よしこさんによると、次郎くんはダメな大人が大好きとのことで、なんかダメさをダメ出しされないで肯定してくれるってうれしいいい!


次郎君はお小遣い欲しさに参加者を駅まで送ってくれるのですが笑、その道中、「バッチ」という言葉が出てきて「ああああ!それ知ってる!バスでしょ!!」と、嬉しかった。ついでに次郎君は駅までの近道まで教えてくれた。これでいつも迷っていた困りごとが解消された。


3. 笑いは命を救う

しらいわさんはシングルマザーで3人の子を育てた。末っ子の次郎くんはIQ18の知的障がいだ。参加していた新井千保さんの息子さんの悠生くんは高次脳機能障害と難治性てんかんを持っている。しらいわさんと新井さんは「無理心中をした人としなかった人との違いはなんだろうと思う」という。しらいわさんの命をつないだのはギリギリのところの「笑い」だった。新井さんはこの日のスタンダップコメディで悠生くんの発作が起きたときの「悠生くんの発作は牛で喩えると特A級ですね」という看護師さんのコメントを交えたネタで笑いを取っていた。

ちなみに、ママたちのネタを息子さんたちはどうとらえているのか。悠生くんは一緒になって笑っている。次郎くんからはたまに「ブッブー!」とダメ出しが入る笑。人を貶める、傷つける笑いではなく、信頼関係に基づいた笑いなのだ。


笑いはなぜ人を救うのか。自分の状況を笑いにすることは、自分の状況を俯瞰することだからだろう。そして深刻な問題を語るときこそ笑いが必要になる。深刻な問題を深刻なまま語って、聞いてくれる人は聞いてくれるけど、関心の輪の外にいる人たちにはいつまでも届かない。深刻な話を聞いて深刻な顔で頷きながら「早くここから逃れたい」と思う人もいるだろう。

しらいわさんの「この前、次郎が不審者だって通報されたんです」(聞いてる方は深刻顔)「何もしてないのに『何かあったら困るから』って!」(深刻顔)「この次郎が暴力振るうはずないじゃないですか!」(深刻顔)「私以外に」(ママに殴りかかるポーズをする次郎くん。聞いてる方も緊張がゆるんでパッと笑顔)という話が大好き。

深刻な問題こそ笑いが必要なのだ。笑いは、自分の状況を俯瞰し、外の世界へ語りかける力を持っている。深刻な話をそのまま語っても、関心のない人には届かないけれど、笑いを交えることで垣根を越えられるのだ。


私もスタンダップコメディ作りにハマり、しばらくこちらに通うつもりです。
「笑い」「創造性」「共感」が詰まった多摩スタンダップコメディクラブ。ここでは毎回、新しい発見と感動があります。しらいわさんが言う通り、ここで新しい歴史が始まっているのかもしれません。ぜひ一度、参加してみてください。
もし行ってみたいなという方がいらしたらご一報くださいませ。あ、別にスタンダップコメディをやらなくても大丈夫です!観客としてでもぜひぜひ。
誰でもウェルカムな空間です。



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