見出し画像

トシリズマブ(アクテムラ)のCOVID-19肺炎に対する効果

抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体(IL-6の作用を抑制)であるトシリズマブ(商品名アクテムラ)は投与14日時点の死亡や人工呼吸器管理に至るリスクを減らしたが、28日時点の死亡率では通常治療と差を認めなかった。

Effect of Tocilizumab vs Usual Care in Adults HospitalizedWith COVID-19 and Moderate or Severe PneumoniaA Randomized Clinical Trial
JAMA Intern Med. Published online October 20, 2020. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6820

【概要】
 トシリズマブ(Tocilizumab)は炎症に関わるサイトカインであるIL-6の働きを抑える、抗IL-6受容体抗体として関節リウマチをはじめとする炎症性疾患で適応を有しております。

 本研究は2020年3月~4月にフランスの9つ大学病院で行われました。COVID-19感染者のうち、研究参加時点で3L/min以上の酸素投与を要するが人工呼吸器や集中治療室での管理までは必要としない人対象とし、トシリズマブ投与群(TCZ群)と通常治療群に1:1の比率でランダムに割り付けました。
 通常治療は治療する医師の裁量で抗菌薬、抗ウイルス薬、ステロイド、昇圧薬、抗凝固薬などを用いています。TCZ群は通常ケア+TCZ投与ということになります。
 トシリズマブの投与方法は初日に8㎎/㎏を点滴静注します。3日目の時点で酸素投与量が50%以上減らすことができない場合に追加で400㎎(固定量)を点滴静注することになります。
 (症状が順調に改善した場合は3日目に投与しないことになります。)

 主要評価項目は①4日目時点でWHO-CPS(WHO clinical progression scal)スコア6点以上の症例と、②14日目時点の非侵襲的換気療法や人工呼吸器管理を必要としない生存者です。
 WHO-CPSは下記表にある通り、感染していない場合を0として、以後病状が悪化するにつにつれて点数が上がっていき、死亡例が10と表現します。6点以上では非侵襲的換気療法、高流量酸素療法、気管挿管+人工呼吸器管理、ECMOなどが必要となります。

画像1

Lancet Infect Dis 2020; 20: e192–9から引用)

【結果】
 TCZ群64名、通常治療群67名の合計131名が登録されましたが1名は試験への参加撤退のためにTCZ群63名、通常治療群67名で解析を行いました。
 試験参加者の平均年齢は63歳、男性の比率70%、BMI約27です。
 TCZ群63名のうち、実際にTCZを初日に投与を受けたのは60名、3日目も投与を受けたのは28名(47%)です。TCZ群に割り当てられた63名のうち3名が病状の悪化や技術的な問題、試験参加の撤退などで投与を受けませんでした。
 
 主要評価項目である4日目時点のWHO-CPSスコアが6点以上であった症例はTCZ群で12例、通常治療群で19例でした。絶対リスク差は-9%、90%信頼区間-21%-+3.1%で事前に定義した有効性の水準を達成できませんでした
 14日目時点の死亡例または非侵襲的換気療法や人工呼吸器管理を受けた症例はTCZ群で24%、通常ケア群で36%でした。事後ハザード比は0.58、90%信頼区間0.33-1.00で事前に定義した有効性の水準を達成しました
 28日時点の死亡数はTCZ群で7名、通常治療群で8名で有意差は認めません。

画像3


 重大な有害事象はTCZ群で20名(32%)、通常治療群で29名(43%)でした。トシリズマブは易感染性が懸念される薬剤ですが、本研究でトシリズマブ群で感染症の合併が多い結果は認められませんでした。(Table3)

画像2



【個人的感想】
 死亡率や短期的な目線での呼吸状態の悪化を抑制することについて、有意差がなかったものの、Figure2やARDSの死亡数を見ると多少効果があるようにも見えます。効果なしと決めるにはまだ時期尚早の印象もあり、今後の研究を待ちたいところです。
 人工呼吸器装着率に差が出てくるのであれば、同じ生存率でも治療後の身体機能に差が生じる印象をもちます。(ADLや筋力など)

 (国内ではトシリズマブはCOVID-19感染症に保険適応外であるため基本的には使用できません。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?