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スペイン旅行2024 7日目 トレド(2)
トレドの朝焼けを楽しんでから再び旧市街へ。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が混在し、様々な文化が融合して現在の姿になったトレドを体感しました。
朝は早起きしてホテルの外へ。
朝焼けの旧市街を見に行きました。
スペインは日の出が遅いので、日本よりも朝焼けが見やすくて助かります。
少し歩いて坂を下りて、道路沿いの草むらに良い場所を見つけました。
朝晩は冷え込むので少し寒かったですが、澄んだ空気の中、徐々に光がさしていく旧市街を眺めるのは良い時間でした。
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戻る前に、パラドールの外観を撮影。
トレド積みの建物が素敵ですね。
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パラドールは新規会員登録特典で朝食一回無料券がもらえます。
ですので、パラドールのみ宿泊予約サイトではなく、公式サイトから予約しました。
朝食はチェックインの時に手続きが必要で、少しごたごたしたので不安でしたが、ちゃんと予約されていました。
ビュッフェ形式で、さすがスペイン、何種類かのチーズと生ハムが揃っていて嬉しかったです。
料理の名前の書いたプレートもあったので選びやすくて助かりました。
チーズの横に、membrilloと書かれた濃いオレンジ色の羊羹のようなものがありました。
調べてみると、これはマルメロ(西洋カリン)のペーストで、スペインではチーズと合わせて食べるそう。
そこで早速、チーズと一緒に食べてみると…その美味しさにびっくり!
塩味に甘味、少しの酸味が加わってまろやかになり、食べやすくなります。
他には、前からずっと食べてみたいと思っていたアロス・コン・レチェarroz con lecheがありました。
これは米を牛乳で煮込んだような料理で、おそるおそる食べたのですが、酸味があってヨーグルトのような印象で食べやすかったです。
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右下はサクサクのパイみたいなので美味しかったですが名前は忘却(スマホ撮影)
帰る前にロビーをパシャリ。
エル・グレコの十二使徒のレプリカです。
本物は後ほどグレコの家で見ます。
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チェックアウトの際、バス停はどこですかと尋ねたところ、少し降りて道路を渡ったところの看板の横にあると。
行ってみると、別の施設の大きな看板の横に、細いポールが立っていて、そこがバス停でした。
ポールに小さい時刻表が貼ってあったのですが、パッと見、全くわかりません。
しかも時間過ぎてもバス来ないし。笑
他に待っている人もおらず、とても不安でしたが(なぜなら前日にバスを乗り間違えているので)、無事に来ました。
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ソコドベール広場で降車し、荷物を預けて、観光を再開。
旧市街のほぼ反対側、南西の方へ向かいました。
グレコの家 Casa Museo del Greco
エル・グレコの暮らしたユダヤ人街juderíaの家屋を改装し、16~17世紀当時の様子を再現した美術館です。
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収蔵作品の写真は撮っていないので(撮影は可能です)、下記リンク先のWikipediaをご参照ください。
エル・グレコが23作品、他にもムリーリョやスルバランの作品が展示されています。
特に有名なのは、晩年の名作、救世主と十二使徒の連作です。
私が特に気に入ったのは、聖ペテロの悔悛です。
キリストの逮捕後に、「自分は無関係だ」と主張したペテロが、それを予言した主の言葉を思い出して涙を流すシーンで、これをテーマとした宗教画を描いたのはエル・グレコが初めてだそうです。
有名なものはイングランドのボウズ美術館所蔵の作品ですが、グレコの家版はそれよりも後に描かれたもので、身に着けている衣服の色に大きな差があります。
私はキリスト教徒ではありませんが、画面左上を仰ぎ見る聖ペテロの目に光る涙に引き込まれ、思わず祈りたくなるような気持ちになりました。
グレコの作風の変遷を感じることのできる展示もありました。
マニエリスム後期の巨匠とされていますが、その作風は大きく変化しています。
ざっくり言うと、ポスト・ビザンティン美術→ヴェネチア・ルネサンス方式→マニエリスムといった流れです。
完全にその形式に染まるわけではなく、過去に学んだ描き方を一部踏襲し、独特の画風を確立しました。
エル・グレコとはイタリア語でギリシャ人を意味するGrecoにスペイン語の男性定冠詞elをつけた筆名で、本名はドミニコス・テオトコプロスΔομήνικος Θεοτοκόπουλοςです。
ヴェネチア共和国の支配下だったクレタ島出身で、イタリアのヴェネチアでティツィアーノ・ヴェチェッリオに弟子入り、その後スペインへ渡り、トレドを終の棲家としました。
エル・グレコはトレドを愛し、宗教画の背景にも度々トレドの風景を描いています。
純粋な風景画は2作品しか現存せず、どちらもトレドを描いたものですが、その片方はグレコの家で見ることができます。
手前の地図を持つ青年が印象的で、画面に独特の歪曲があり、魚眼レンズを通して見たような景色にも思えます。
茶色がかった雲と緑っぽい青色の空のコントラストが好きです。
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サンタ・マリア・ラ・ブランカ教会 Santa María la Blanca
12世紀に建立されたムデハル様式のシナゴーグsinagogaで、200年余りの間はユダヤ教徒の礼拝所として使われましたが、1391年のユダヤ人弾圧の後はカトリックの教会となりました。
この優れた建築は、スペインの他のシナゴーグにも影響を与えたそう。
トレドのユダヤ人街には10ものシナゴーグがあったそうですが、現存するのはこちらと後述のトランシト教会のみです。
内部には美しい装飾が施された白いアーチがいくつも並んでいました。
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ユダヤ教徒のためのシナゴーグですが、イスラム教徒の石工が建てたそうです。
様々な宗教が混在していたトレドを象徴する文化財のようにも思えます。
サント・トメ教会 Iglesia de Santo Tomé
11世紀のモスクの跡地に建てられた教会で、少なくとも12世紀にはその記述があります。
しかしながら、14世紀初頭には荒廃した状態であったため、オルガス伯のゴンサロ・ルイス・デ・トレドGonzalo Ruiz de Toledoが再興しました。
その際に再建されたミナレットはトレド・ムデハル様式で、四角柱の形状をしており、トレド積みとムデハル様式のアーチが組み合わさった美しいものだそうです。
…「だそうです」というのは、リサーチ不足で塔を見なかったからです。
本当に後悔。
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さて、聖母マリア礼拝堂の中に、目的の絵画があります。
エル・グレコの作品の中で最も有名なものの一つ「オルガス伯の埋葬El entierro del Conde de Orgaz」です。
内部の撮影はできないので、Wikipediaをご参照ください。
このオルガス伯というのは勿論、先ほど出てきたゴンサロ・ルイス・デ・トレドのことです。
非常に信心深い人で、また正義感に溢れた騎士であり、サント・トメ教会の再興に尽力しました。
その遺体は、本人の希望によりサント・トメ教会に埋葬されましたが、その際に奇跡が起こりました。
聖ステファノと聖アウグスティヌスが天から降臨し、たくさんの参列者の目の前で、手ずからオルガス伯を埋葬したのです。
「オルガス伯の埋葬」はその出来事から約200年後にエル・グレコがアンドレス・ヌニェスdon Andrés Núñez de Madridから依頼されて描きました。
これは、エル・グレコが独自の作風を確立した作品であると見なされています。
上半分が天界、下半分が地上と明確に場面が分かれていて、天界の聖人や天使は体の動きが強調されたマニエリスム的な描き方がされている一方で、地上の人々は直立が多いです。
これによって、天界の神聖さを強調しているとのことです。
ここまでが予習で、これからは実際に見た感想です。
それほど広くない礼拝堂に入ると、祭壇の大きな絵がすぐに目に入りました。
柵まで近寄って見てみると、上半分は見上げる形になるので、実際に天界の様子を見ているかのような錯覚に陥りました。
天界の描き方には不安定感があり、重力が無視されています。
この表現により、天界の人々の神聖さが感じられます。
一方で、下半分はほぼ等身大の人々が並んでおり、今まさに埋葬が行われているような気持ちになりました。
総じて言うと没入感がありました。
静かに眺めるのはとても良い時間でした。
余談ですが、礼拝堂の後ろ側に磔刑のキリストの像がありました。
それも見事なもので、しばらく眺めていました。
写真がないのが寂しいので、出口のショップで3枚組のポストカードを購入。
余談ですが、私は美術品のポストカードを集めるのが趣味です。
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クリスト・デ・ラ・ルス教会 Cristo de la Luz (Mezquita de Bab al-Mardum)
トレドの旧市街に10あったモスク(メスキータ)のうち、最も保存状態が良いものです。
建設は999年。
12世紀のトレドのレコンキスタ後はカトリックの教会に改装されました。
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決して広くないメスキータの中には、ところ狭しと柱が並び、それらを美しいアーチが繋いでいました。
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モスクなので、ミフラーブ(メッカの方向を示す印)が残されています。
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レコンキスタ後に付け足されたというロマネスク-ムデハル様式の後陣。
キリスト像やフレスコ画が残されています。
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外に出て改めて建物を見てみると、コルドバのメスキータのような赤と白のアーチが並んでいるのがわかりました。
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中庭は開放感がありました。
14世紀に建設されたムデハル様式の門Puerta del Solと繋がっており、門の上部を近くで見ることができました。
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ここで昼食。
またしてもGoogle Mapで検索して選んだ店です。
トレド産のクラフトビールが取り揃えてあるようで、その中の1本を選択。
タパスはハムのクロケッタとパタタス・ブラバスpatatas bravasを選択。
パタタス・ブラバスはスペインの名物料理で、マドリード発祥と言われています。
(日本語のサイトではバルセロナ発祥という説もありますが、スペイン語のWikipediaの方が引用が信用できそうなので、私はそちらを信じます)
揚げたじゃがいもにブラバスソースsalsa bravaというスパイシーな赤いソースをかけたものです。
この店のブラバスソースにはアリオリソース(ニンニク入りのマヨネーズ)が混ぜてあり、まろやかな味でした。
食事を終えて、再度ユダヤ人街へ。
ルートが最適化できなかったので、行ったり来たりしていますね。
トランシト教会 Sinagoga del Tránsito (Sinagoga de Samuel ha-Leví)
14世紀、ペドロ一世Pedro Iの財務官であったサムエル・ハ・レビSamuel ha-Levíによって建設されたムデハル様式のシナゴーグです。
現在はセファルディ博物館Museo Sefardíとなっており、ユダヤ教について学ぶことができます。
Sefaradとはヘブライ語でイベリア半島を指す言葉として聖書に出てくるそうで、sefardíというのはイベリア半島に住んでいたユダヤ人のことです。
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木の天井との境目の帯状の装飾、模様のように見えますが、よく見るとヘブライ語ですね。
神、ペドロ1世、サムエル・ハ・レビを讃える聖句が刻まれていると「地球の歩き方」に書いてあったのですが、おそらくこれのことかと思います。
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1階がユダヤ教の歴史やイベリア半島のユダヤ教徒について、2階はユダヤ教徒の文化についての展示です。
聖書に従って準備された食卓などが再現されていました。
シナゴーグ時代は、2階は女性専用の礼拝室だったようです。
ヘラクレスの洞窟 Cueva de Hércules
ローマ時代に貯水槽として利用されていた遺構です。
最も古い部分は一世紀後半頃に造られたと考えられています。
19世紀までサン・ヒネス教会Iglesia de San Ginésが建っていたそうで、通りの名前に残っています。
トレドの近くにヘラクレスが宮殿を建て、その中にスペインを脅かす厄災を隠したという伝説があるそうで、それが名前の由来かと思われます。
この遺跡には無料で入ることができます。
中には大きな石が積み上がっていて、ローマ時代の建築技術の高さに驚きました。
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電車の時間が近づいてきたので、観光はここで終了。
事前に調べていた見たい場所はだいたい回れたかと思います。
帰りはアルコ・デ・ラ・サングレの前のバス停からトレド駅までバスに乗りました。
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バスを降りてから、駅に一番近い横断歩道と逆方向に歩こうとしていたようで、バスの運転手さんがクラクションを鳴らして教えてくれました。
さり気ない親切に助けられた旅だなあと思っています。
電車まで少し時間があったので、駅舎内で待機。
この駅には中距離列車AVANTしか停車しないので、改札はありません。
昔使用されていた改札と思われるゲートとステンドグラスが趣あって素敵でした。
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床もアラブ風のタイル張りで、私の好きなデザインでした。
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トレド駅はプラットフォームに荷物検査エリアが設置されているスタイルでした。
電車の乗り方にも慣れて、スムーズにこなせるようになりました。
トレドに別れを告げて、マドリードへ。
アトーチャ駅からはメトロに乗り、オペラ駅で降りて予約したオスタルヘ。
このあたりで膝の痛みを自覚した気がします。
マドリードは思ったより坂が多いので、キャリーを引っ張っての上り下りがきつかったです。
オスタルの住所につきましたが、外からは分かりづらく、うろうろしていたら、親切な男性がここで合ってるよと教えてくれました。
同じ建物に別のオスタルが入っていたりするので、大変わかりづらいです。
目当てのオスタルは2階でしたが、階段しかないので荷物を持ち上げるのがつらかったです。
フロントにいたのは大柄でかすれ声の男性だったのですが、とても親切で、ものを受け取るときは必ず<<Permiso.>>(失礼します。)と声をかける丁寧な人でした。
オスタルは部屋も共用のバスルームも清潔感があって良かったです。
Wi-fiも使えますし、問題としてはテレビの電波が入らないことくらいでした。
合計6泊、マドリードの滞在が始まりました。