2020年からの警告~変われない日本
1998年2月に日経新聞に「2020年からの警告」というタイトルで、「何もしないと2020年はこうなるかも」という分析がされていました。今から25年前の頃です。
この頃は、バブルが崩壊して、銀行の不良債権問題とかが明らかになり、それまでバブル経済で浮かれていて、「あれ、ちょっとヤバいな」と思い出した時ですかね。
なんせ、96年秋頃から、米英の優良銀行(JPモルガン、クレディスイスなど)が、「倒産保険(クレジットデリバティブ)」を邦銀にかけだしたくらいですから。
【政治・経済】
よって、当時の日本は、「金融」の話しで持ちきりでした。当時の橋本内閣は2001年を目標とした「6大改革」をうちだします。1行政 2金融システム(日本版ビックバン)3 経済構造 4 社会保障 5 財政構造 6 教育 の6つです。
特に「金融」は欧米に比べ遅れていて、株式委託手数料の自由化などその内容は「欧米の70-80年代型」でしたし、欧米は電子マネーにも対応する「2001年のビックバン」に既に動いていました。特に、米国政府は電子マネーの普及に向け、警察に不正防止のための暗号解読権を与える準備に入っているが、日本は、暗号技術や電子マネーに関する議論は省庁間の縄張り争いの段階でした。
この頃から電子マネーって言われていたのですね。当時シンガポールから帰任したばかりで、海外では普通にレストランとかでクレジットカードを使っていたので日本で使うと手数料がかかるとかですごく嫌な顔をされたり、カード使えませんとか言われていました。さすがに今はそんなことはないですが、まあ、電子マネーとかは、遅れましたね。
当時のある上位都市銀行の予測では、行員数が21世紀前半は、機械化や電子化により、行員は今の5分の1ですむ。銀行業務は全く姿を変えるが、現実にこの変化を長期計画に盛り込んでいる銀行は少ない。
と現在の状況を的確に言い当ててはいますね。
96年11月の米国政権の新アジア政策の内部文書報告によると、日本の行政改革や規制緩和のペースはとても遅く、世界のスピードについていけず、衰退の道を歩む可能性がある。また、シェルグループの2020年までの長期予測では、今後二十数年を改革しないと生き残れない改革競争の時代で、日本は、その競争の最後尾についた段階であるとこれまた的確に25年前に予想されていたことになります。
豊田章一郎・経団連会長の97年1月3日の新年メッセージでは、「超高齢化社会が目前に迫り、現状を放置すれば、日本経済は破局に向かう」と警笛を鳴らしました。
日本の総人口は、2008年から減少に転じ、2020年には国民の4人に一人が65歳以上の高齢者という世界最高国になり、14歳以下の子供の数は、現在より3百万人減って高齢者数の半分という少子国になると当時予測されていました。
実際は、四分の一ではなく三分の一(29%)になり、子供の数は、5百万人減で高齢者の50%でなく40%になって、高齢化は加速しました。
現状の仕組みを変えずに放置すれば、財政・年金などの既存のシステムは破綻し、2020年の労働者一人当たりの国民負担額(税金と医療、年金など社会保障負担の合計額)は618万円と95年(209万円)の約3倍になるという予測に対しては、所得が上がっていないので金額では3倍にはなりませんでしたが、国民所得に対する国民負担率は25%強から44%強と約2倍弱です。
構造改革が進まなければ、2024年以降は、実質GDPの成長率が毎年マイナスになる。2025年には、経常収支が赤字に転じ、財政と併せて「双子の赤字」を抱えるという予測に関しては、まだかろうじて経常収支は黒字ですが、円安や資源価格高騰そして競争力低下によって赤字に転落する可能性はあります。
世界では人口が爆発的に増え、食糧やエネルギーの需給が逼迫。地球規模で環境問題も深刻になる状況下、日本は活力の乏しい国になる可能性があるという予測は、その通りになったかもしれません。
日本のゼネコンは民間工事より2、3割単価が高い「公共事業」に頼り、高コスト体質に染まっていて、韓国勢は人件費だけをみても現場監督クラスで日本の4分の1であるなので、国際競争力がなくなるであろうと予測されました。
これは、皮肉にも人件費だけをみると日本の賃金は25年間上がらなかったのでその通りにはなりませんでした。今、韓国は人件費高で国際競争力がなくなって中小企業は大変なようです。
通信業界も規制に安住していたため、海外の大手通信業界から国内市場を侵食されるという予測は、今も規制があるので海外勢に浸食はされてないですかね。
電機などの消費材メーカーも、度重なるモデルチェンジをして国内の旺盛な需要を満たしていたが、国内需要が冷え込めば日本でもうけ海外で損する構図がくずれてくるという予測は、本当にそうなって、特に家電は、ほぼ全滅しました。
映像ソフト業界(マンガ、アニメ、ゲームソフト、CG)は世界でも高い評価を得出しているが、特にマンガ、アニメ業界は体質が古いため、人材が海外に流れ出している。この業界の産業インフラ(映像作品の商品化権が少ない、フリーのプロテューサーがいない、映像専門の保険会社がない)が不足している。
この予測も残念ながらその通りになってしまいました。今、日本のマンガを書いている人たちは、中国アニメ会社の下請けをしているそうです。
業構造審議会は、96年11月の報告で「知識創造立国」を目指すことをうたった。構造改革を進めると、コンピューターソフトやコンテンツ産業の市場規模は、95年の約8兆円から21世紀初頭に50兆円に拡大すると予測。
当時、日本では、コンピューターは国産OSのNEC,富士通で、ソフトは、一太郎、Lotus123とかでしたね。それが、Windowsになり、Word,Excelとかにとってかわられました。
【防衛】
外国による武力侵略のような「血の流れる脅威」と並んで、大量の難民漂着や不法入国、政府や企業の活動を混乱させるコンピュータ犯罪、酸性雨による自然破壊など「血の流れない脅威」への備えが大切になる。
世界中の軍隊が姿をかえる(防衛革命)のは、2020年頃、大部隊よりも、衛星情報をもとにした情勢分析や警察との連携で、血の流れない脅威にも効率よく対応する仕組みが重要。日本はここでも出遅れている。
21世紀にかけて起こりそうな混乱要因は、南北統一の可能性を含めた朝鮮半島での激変、中台関係、中国国内の情勢変化ーー大量の難民発生ーー日本には備えがない
自分で自分の国を守ろうとしない日本への不満は米国議会で根強く、今後米中が急接近し、相対的に日本の存在感が低下すれば、在日米軍の引き上げも考えられる。
日本の防衛は25年前にこういうふうに論じられていて、ずっと「9条」の問題を話して、何も進んでいない状況が続いています。
【教育】
日本の学生は、OX式設問では、成績がいいが、物事を否定的にとらえるなど他面的に考え、自分の言葉で表現する能力は、国際平均を大きく下回る。
2014年の受験者総数は少子化で今より3割も減り、合格率は90%を超える。2020年には、数字の上では、入試は意味をなくす。
日本の教育は、正解がない場合の課題解決能力は養われないとは、ず~と言われている事です。「ゆとり教育」とかやりましたが、単純に学力が下がっただけでしたね。
【技術】
通産省工業技術院の東アジアにおける産業技術に関する動向調査(96年12月)ーー21世紀初頭に日本は半導体・鉄鋼で韓国、エレクトロニクスで台湾、電子機器組み立てで、中国、研究開発機能でシンガポールに抜かれる可能性が高い。
これも残念ながらその通りになってしまいました。台湾の半導体工場が日本にできる時代になってしまいましたね。
【高齢化】
厚生年金の支給開始時期を2013年までに65歳へ徐々にひきあげる方針、それに伴い、65歳までの定年延長が制度化される。 企業にとってはかなりの負担となる。
これは、その通りになりました。
当時の私は、40歳になったばかりで、日本は高齢社会になると言われても、一番人口の多い団塊の世代はまだ50代になったばっかりで、高齢者がそんない多くなかったので、ピンとこない時期でした。
しかし、自分が60歳の頃は、日本の人口の四分の一が高齢者で、定年が65歳になるだろうというのだけは、この記事を読んだ時に「ああそうなんだ」と思った事を覚えています。当時は一時定年とかで、55歳で管理職を降りる制度とかもあった時代です。
よって、「サラリーマン人生は長い」という事を再認識し、40歳でもまだまだ先は長いので頑張ろうと思いました。
しかし、それ以外の事は、「課題がわかっているのだから25年もあれば、その課題に対する答えを見出して、日本は成長するのだろう」と思っていましたが、びっくりするくらい変わらなかったのですね。
小さい改革は行われたので、まだ日本は破綻していません。失われた30年は32年目に突入しましたが、既得権益を守る人が多いので、今後も劇的には変革は行われないのでしょうかね。
日本への外国人観光は、25年前は予測されていませんでした。当時、日本は「技術立国」と言われ、「観光立国」は欧州など、技術競争に負けた国の施策のような位置づけでした。しかし、日本の今後の成長には「観光」は外せなくなってきました。
まあ、こういう「観光立国」の方針とかは、小さな変革かもしれません。
しかし、劇的な変革は期待できない今、今後の日本の成長にはこのような小さな変革を少しづつやっていくが重要なのかもしれません。
「人生百年時代がくる」という長期予想は、ほぼ間違いなくそうなると思いますので、ちゃんとその時代に備えておくことも重要でしょう。