HATSUMEはなぜCOMPにスポンサードされたのか? ゲームの道を選んだ真意とCOMPの本音【HATSUME&COMP 鈴木優太インタビュー】
「プロゲーマーになる」というのはどんな決断なのだろうか。
ただのプレイヤーからすれば、プロゲーマーがどういうプレッシャーを背負い、どういう目的を掲げ、どういう目標を設定して日々活動しているのか、なかなか見えてこない。
見渡してみればプロゲーマーと呼ばれる人たちは増えているものの、脳味噌の奥で煮えたぎる想いを率直に語ってくれている記事は少なく、ようやく見かけるようになってきたかなという段階だ。
またそれだけでなく、スポンサー企業がプロゲーマーについて語った言葉もほとんど見当たらない。企業はなぜゲーマーをスポンサードするのか。何が目的で、何を期待しているのか。正直、よく分からないことが多い。
プロゲーマーになって活動したいと考える人にとって、そうした情報があれば有益だろう。もちろん、一般プレイヤーやファンにも、プロゲーマーの真の動機や行動原理を知りたいという気持ちがあるはずだ。
僕も気になる。特に、実績がまだないのに企業からスポンサードされプロと呼ばれるようになったゲーマーが、どんなことを考えているのか。
誰のことを言っているのかといえば、2017年4月に「完全食COMP」を販売するCOMPにスポンサードされたHATSUMEさんである。
『ストV』を主戦場とし、7月にはEVOにも参戦した彼女。だが、実力はトップレベルとは言いがたく、実績もほとんどない。にもかかわらず、彼女はなぜCOMPとの契約に至ったのだろうか。そして、COMPはなぜ彼女を選んだのだろうか。
ということで、スポンサードの発表からさまざまな反響を呼んだHATUSMEさんと、COMPの鈴木優太さん(代表取締役CEO)にインタビューを試みた。
大学かゲームか
――僕はHATSUMEさんと数回会ったことがあるだけで「e-sports SQUAREのスタッフでいまは格ゲーをやってる」という印象しかなく、COMPとの契約発表はすごく驚きました。
発表後、いくつかインタビュー記事が出てましたよね。関心があったので読み通したんですが、どれもHATSUMEさんの根っこに迫っていかない内容で物足りないなーと思ってました。だから、ちゃんと話を聞きたいとは考えてたんです。
今回の契約はおめでとうございます。しかし、過去に変な形で注目を浴びたこともあっての発表だったので、いろんな反響があったと思います。どういうふうに受け止めました?
HATSUME:
発表する直前まで「絶対荒れるんだろうな……」と不安を感じてて、厳しい意見もあるだろうなと思ってたんです。実際、「こいつ誰?」とか「なんでこんなやつが」という反応はありましたが、それが気にならないくらい、応援してくれる人が多かったことにびっくりしました。「将来が楽しみ」と期待してくれる人もいて、とてもありがたかったですね。
――家族はどうでしたか?
HATSUME:
そもそもスポンサードを受ける以前の話で、大学に行くかどうか迷ってた時期がありました。自分のやりたいこと、つまりゲームの道は大学に行かなくてもできると思ってましたし、自分なりにいろいろやりたかったんです。
それを家族に素直に話したところ、理解してくれました。でもやっぱり心配はしてて、私もそういう気持ちは察してました。そんなときにCOMPとの話が進んで、「地道に頑張ってきてよかったね」「大学に行くのとは違う経験ができそうだね」と言ってくれました。父もCOMPに興味を持ってくれましたし。
母はいまも大学に行ってほしかったとは言ってますが、強制はしないんです。高校生のときも「嫌だったら学校に行かなくてもいいけど、卒業だけは絶対しなさい」と言ってくれてました。放任というか、ちゃんと相談すれば自分の好きなようにしていいと。なので、今回の契約は誰より喜んでくれてますし、応援してくれてます。
――大学とゲームで天秤にかけたわけですよね。なぜゲームだったんですか?
HATSUME:
どうするか悩んでたのは、ちょうど2016年の夏頃です。実はAO入試を受験するつもりで、マネジメントやマーケティングの学部に行こうと思ってました。
それはesportsチームをどうマネジメントすれば選手を輝かせられるのか、esportsをどうマーケティングすればより多くの人に知ってもらえるのかと考えてたからです。選手じゃない形でesportsを支えていく仕事をしたかったんです。
入試はプレゼン形式だったので、かなりしっかり資料も作ってました。でも、1週間前になって「あれ? 私って裏方でいいのかな?」という思いが唐突に脳裏をよぎったんです。
もともと自分は選手として強くなって表舞台に立ちたいという気持ちでゲームをしてたはずなのに、なんでこの時点で一歩引く準備をしてるんだろう、と。受験が、あたかも選手としてやっていけないときの保険のように思えてきたんです。
入試の準備をすればするほど、その気持ちが抑えられなくなりました。だから、ちゃんと自分に向き合って考え直したんです。本当に大学で勉強してチームを支える仕事をしたいのかと。それは違いました。
実は大学に通いながらゲームに取り組み、卒業する頃にトッププレイヤーになってプロ契約できればいいなと思ってたんです。で、それが叶わなかったときは大学で学んだことを活かしてesportsの裏方の仕事をすればいい。
それってまさに保険なんです。でも、そんなことをするくらいなら、最初から大学に行かずにゲームの道に進めばいいんですよ。吹っ切れたのはその考えに至ったときでした。私はもっとゲームに向き合う時間がほしかったんです。
私がプレイしてる『ストV』を始め、格ゲーでトップを走ってる人は昔からのプレイヤーがほとんどです。格ゲーというものを理解してて、どう動けばいいのか体に染み込んでるわけですよ。そういう人たちに、私のような新参者が大学に行きながらの4年間で追いつけるかといえば、かなり難しいと思います。
でも、もし密度の高い時間が取れるなら、たとえ彼らと肩を並べるとまでは行かずとも、同年代やいま同程度の実力のプレイヤーよりは強くなれるんじゃないかと考えました。自分がここまでゲームが好きなら本気で取り組むべきで、それで人生損するならしょうがないです。納得のうえです。
――大学に行かないと決めた時点で、プロというのはどれくらい視野に入ってたんですか?
HATSUME:
強くなれば自然と選択肢ができるはずなので、プロになるのを目標にすべきではないと考えてました。プロになったあとどうするのかということもありますし。
プロたる者、なんて一切気にしなくていい
――HATSUMEさんは大学ではなくゲームの道へ進むことにしたわけですが、具体的に何をしたいんですか?
HATSUME:
自分が大学を卒業するはずだった年齢までに、大学に行けばよかったと後悔しないくらい、そして鈴木さんに後悔させないくらいゲームで実力をつけて、いろんな大会で勝ちたいです。
何をしたいかと言われても、私は「強くなりたい」以外にはありません。『ストV』をもっと多くの人に知ってもらいたいとか、いっぱいイベントや番組に出たいとか、そういう気持ちは強くなりたいという気持ちほどは大きくないんです。
――強くなってどうしたいんですか? ただ強くなりたいんですか?
HATSUME:
私はテストでいい点取るのはもちろん、引きこもりだったので部活で活躍することもできませんでした。でも、自分の人生で何か一つ優れたものを持ちたいんです。
それがゲームです。小さい頃からやってるからこそ、ゲームを極めたい。なので、強くなったからこそ見えてくる景色を見たいというのはありますが、強くなってお金を稼いだり有名になったりしたいという気持ちはありません。
――なんと言うか、リュウみたいですね。強くなるだけならプロにならなくてもいいと思いますが、HATSUMEさんはなぜプロにならないといけなかったんですか?
HATSUME:
いまじゃないとダメだったかというと、正直そんなことはなかったんじゃないかと。こう言うと失礼かもしれませんが、時期尚早だった気もします。
鈴木:
まあいいんじゃない?
HATSUME:
鈴木さんはそう言ってくれますけど、特に格ゲーマーからは反感を買うだろうと思ってました。自分でも、弱いプロが居るゲームってどうなんだろうと考えてしまいます。
それにはどこからがプロなのかという問題もありますよね。本音を言うと、私は自分がプロゲーマーになったとは考えてません。ただ、周りから見ればどんな契約内容であれ「スポンサードされたらプロ」という認識が一般的です。なので、私が自分をどう捉えているかどうかはさておき、プロとしての姿勢や振る舞いは追求しないといけないです。
あと、最近「お金のためにプロになった」と言われることが多いんですが、私はお金のためにゲームをやってるわけじゃないです。お金がほしかったら大学に行って丸ノ内のOLになって自分で稼いだり、男の人を捕まえて結婚したりすればいいじゃないですか。
プロになることはある意味で退路を断つことでもあります。ゲームに挫折したから大学に、あるいは就職したい、という気持ちが出てきても、後ろにCOMPや鈴木さんがいれば、また気持ちを新たにできると考えてます。中途半端に生きるよりは、これでよかったんだと。
鈴木:
僕自身もそういう思惑がありました。HATSUMEさんがトッププレイヤーでもなく実績もないのに契約したのは、これでもっと本気になれるはずだと感じたからです。プロの定義やプロたる者なんて考え方は一切気にしなくていいんですよ。
人間誰しも、自分で人生を作っていくしかありません。HATSUMEさんからすればプロ契約が退路を断つことであり、それが成長に繋がるのであれば、僕たちをそういう道具として使ってもらってさえ構いません。
――ただ、契約したということは「スポンサードに対する価値の提供」という責任が伴いますよね。何をしなければならないと考えてますか?
HATSUME:
COMPのプロモーションをしなくちゃいけないという意識はありますが、そのためにも強くなる必要があると思ってます。大会で活躍するにも、多くの人に一目置かれるためにも、やはり強さが欠かせません。結局は強くなることがCOMPや鈴木さんへの貢献になると思います。
――鈴木さんはHATSUMEさんにどんな期待をもって契約したんですか?
鈴木:
わりと気軽な気持ちです、「面白そう」って(笑)。そもそもCOMPには「夢を持って頑張ってる人のサポートをする」というコンセプトがあり、これからスターになろうとしてる若い人たちをサポートしたいと考えてたんです。
これまでいろいろな人と会ったんですが、HATSUMEさんはほかの人と比べて圧倒的に存在感がありました。まだ荒削りな部分もありつつ、「これをやるんだ!」という熱量が異常に強い。それに驚かされました。
夢を掴もうと頑張ってるのも伝わってきたので、利害を超えて応援したいと思うようになりましたね。7月のEVOでは257位に入りましたし、『ストV』のLPも1万5000を越えました。最近始めたにしてはけっこうポテンシャルがあるんじゃないでしょうか。
HATSUMEさんが日々成長し続ける限りはどんどんお付き合いを深めていきたいですね。将来的にはもっと活躍してもらって、さらなる広告効果を期待したいという気持ちはありますが、いまはとにかく成長してほしいです。
――HATSUMEさんがどういう状態になったら成功ですか?
鈴木:
中田英寿みたいな存在になることですね。実力があるだけでなく、人間的にも尊敬されていて、「こういう人になりたい」と思う人が世の中にたくさんいる状態です。ロールモデルといいますか、憧れられる存在になればサポートしてよかったと思います。HATSUMEさんは強くなることが最優先だと言ってますが、その中で人間性も深めていってもらいたいです。
女性がもっと気軽にゲームを楽しめるようにしたい
――「強くなる」というのは明確ですばらしいことだと思いますが、僕はどうしても手段、言いかえれば何か目的を成し遂げるための目標のように感じてしまいます。COMPのために強くなるのもそうですよね。なので、1人のゲーマーとしてのHATSUMEさんがどんな目的を持ってるのかを知りたいです。
HATSUME:
それはたぶん、鈴木さんに自分をプレゼンしたときのことが繋がると思います。私は小さい頃からゲームをしてきて、esportsをプレイしてきました。esportsを明確に意識したのは高校生の頃で、自分なりにesportsをもっとよくするための考えもあったんです。だから、esportsをもっとよくすることが大きな目的だと言えます。
でも、ただの一プレイヤーでしかない高校生の話なんて誰も相手にしてくれませんし、そんな機会もありませんでした。でも、縁があって鈴木さんと出会い、自分の想いをプレゼンする機会に恵まれました。
これまで私が考えてきたことに、プロじゃないとできないことを加えて全力でプレゼンしたから、鈴木さんに響いたんだと思います。
――esportsをよくするためにプロじゃないとできないことって、例えば何ですか?
HATSUME:
私が考えてるのは女性ゲーマーの地位向上です。自分が女性の格ゲーマーだというのは大きなポイントだと思ってます。
私には小中学校で先生に「女の子なのにそんなにゲームをやってるの?」と責められた経験があります。高校生のときも、友達にゲームをしたいから帰ると言うと、「ゲームよりカフェ行こうよ」なんて言われました。自分の好きなことを好きなようにやってて何が悪いんだよって当然思いますよ。
だから、女性がもっと気軽にゲームを楽しめるようにしたいです。そのためにも、自分が大会で活躍して、あるいは番組に出たり配信をしたりして、本気でゲームに取り組んでる姿を見せたい。女性でもプロゲーマーになれるし、活躍できるんだと思ってもらえるようにしたいです。
そういうことを実現するには、表に立つ人間にならないとダメです。だから私は手っ取り早く目立てる立場になることを選びました。
――なるほど。それも踏まえて、HATSUMEさんが考える「esportsがよくなってる状態」を教えてください。
HATSUME:
esportsってゲームを真剣にやることなので、それを後ろめたく感じなくていい世界にしたいです。例えばいまも、格ゲーを本気でやってることを会社や学校、家族にも隠してる人っていると思うんです。それはアングラの世界で生きてる人が周りの人に話そうとしないのと同じ心境だからですよね。社会的に認められてないから、とか。
でも、もしesportsがいいものとして認識されていれば、むしろ自分からやってることを話したくなるはずです。子供が親に「ゲームの大会で優勝した」と言えば、親は「すごいね」って喜んでくれる世界です。
そこに辿り着くまでに超えるべきハードルはたくさんあるとはいえ、それが私の考える「esportsがよくなってる状態」です。もちろん、みんなが無理してesportsやゲームをやる必要はないです。
ただ、いきすぎるのもよくないですよね。子供が親に「esportsで何億円も稼げるからやりなさい」って言われる世界はなんだか悲しいじゃないですか。
私としては、お金稼ぎのためにゲームをやる人は増えてほしくないです。もちろん理想の状態のためにはお金も必要ですけど、お金だけになってほしくない。
――esportsやゲーマーの社会的地位の向上で言うと、ウメハラさんやときどさんなど格ゲーマーたちが大きな貢献をされてきたと思います。HATSUMEさんとしては彼らが1つの理想像というか、目標なんでしょうか。
HATSUME:
たしかに偉大な人たちではありますが、目標というと少し違います。そもそも、私は特定の誰かを目標にしようとは思ってないんです、誰もやってないことをやるのが好きなので。
でも、もし挙げるとしたら、チョコブランカさんは私のやりたいことに近いことをされていると思ってて、とてもリスペクトしてます。Project Gaming Girlsなど、女性がゲームをやりやすい環境を作ろうとされてますよね。そしてリスペクトしてるからこそ、私はチョコさんを越えないといけないと思ってます。
強くありつつ、強さ以外でも慕われる存在になりたい
――先ほど鈴木さんから憧れられる存在になってほしいという話がありましたが、HATSUMEさん自身はファンやCOMPにとってどういう存在でありたいですか?
HATSUME:
以前は誰からも愛される、応援されるプレイヤーになりたいと思ってました。でも、それって無理ですよね。今年のEVOで優勝したときどさんレベルにならないとアンチは減らないんですよ。
最近、ものの見方は人それぞれだということにやっと気がつきました。ここに来るとき野良猫を見かけてかわいいなーって思ったんです。だけど、野良猫って駆除される対象でもあるじゃないですか。なんでなのかなと考えたら、猫に迷惑をかけられている人もいるからです。
自分が好きで尊敬する人も、別の人からすれば苦手な人なのかもしれません。だからこそ誰からも愛されるのは無理だと気づいたんです。
でも、なるべく多くの人に好きになってもらうのは努力次第です。一生懸命ゲームに取り組めば、応援しようと思ってもらえる可能性が高まります。なので、私は応援したくなるようなプレイヤーになりたいですね。ファンからも、鈴木さんからも、「めっちゃ応援したい」と思われたいです。
それと、強くなるのは当然として、強さ以外でも慕われるプレイヤーを目指してます。「ゲームの強い人が正義」という考え方はありますが、そうは考えてない人からすれば、強い人が強いという理由だけで偉そうにするのは反感を買います。私がもし本当に強くなったとしても、それを武器にして人と接したくはないんです。特に自分と同じ道を歩んでる人には優しくしないといけないと思ってます。
コミュニティに貢献するとか、海外と日本のプレイヤーを繋ぐとか、初心者にアドバイスするとか、強さ以外でも大事なことってあるはずです。強くありつつ、そういうところでも応援される存在になりたいですね。
鈴木:
4月に契約してからこの数か月でHATSUMEさんは成長した、と言いたいところですが、エビデンスがあまりないのでまだ言わないでおきます(笑)。でも、少しずつ成長してると感じますし、そういう考え方をもって取り組んでもらえるなら安心ですね。自分では人間的に成長してると感じてますか?
HATSUME:
だいぶ大人になったと思います。
鈴木:
ほう……?
――すごく怪しんでますね(笑)。
HATSUME:
最近、私が出てる記事や配信を全部見て、Twitterも読んで、そのうえで叩いてくるアンチの人がいるんですよ。昔だったら嫌だなと感じましたけど、いまはむしろ、その人は私のことを好きなんじゃないかと思えるようになりました。COMPも買ってくれてるみたいですから(笑)。
鈴木:
そんな人がいるんだ(笑)。正直まだまだ至らないところもありますが、この年齢でこの状態ってすごいなと純粋に思います。
――いまさらなんですが、HATSUMEさんが最初にCOMPに出会ったのはいつ頃ですか?
HATSUME:
2016年の9月頃です。ゲーム友達が使ってて知りました。StanSmithさんがツイートされてましたし、C4 LAN 2016 Fallにも協賛してて、いろんな形で目に入ってきてましたね。なんかよさそうだなと思って友達にもらって飲んでみたら、豆乳好きというのもあっておいしかったんです。
ブログでレビューを書こうと思いながらなかなか書けなかったんですが、COMPの飲み方のツイートをしてたら鈴木さんにリツイートされました。後日直接お会いしたときに、そのことを覚えてもらってたんですよ。
鈴木:
最近目立ってるゲーマーにツイートされたな、ってことが記憶に残ってました。
2018年はEVO32位、LP3万を目指す
――HATSUMEさんが成し遂げようとしてる目的はかなり長期的なもので、時間がかかると思います。もう少し短期的な、この1、2年の目標って何ですか?
HATSUME:
『ストV』に関しては、LPにこだわってます。すでに大会で活躍してる人はLPにそこまで価値を感じてなくて、LPを稼ぐためじゃなくて大会で勝てる動きをしないといけないとおっしゃってます。でも、それはすでに強いから言えるわけで、私のような立場では簡単には頷けません。
『ストIV』やそれ以前の実績がないならLPが低いと注目されませんし、大会で勝ってもまぐれだと言われてしまいます。なので、自分の実力の一番分かりやすい指標としてLPを上げていきたいですね。
――来年のいま頃までに、どれくらいですか? ぜひ宣言してください。
HATSUME:
1年経てばLPの価値観も変わると思いますが、3万LPを目指します。ちなみにいまは1万5000なので、2倍です。だいたい100上げるのに1時間勝ち続けないといけないので、負けも含めれば相当な時間がかかりますね。
あと、来年もEVOに出場して、32位以内に入りたいです。これはすごく難しいことだと思ってます。日本人のトッププレイヤーだけで32人以上いますし、そこに海外勢が加われば途方もない順位で、64位ですら厳しいかもしれません。でも、やります。
鈴木:
この1年、血反吐を吐いて死に物狂いでやればいけますよ。
HATSUME:
血反吐どころか血涙かもしれませんが……(笑)。今年のEVOも試合はけっこうしんどくて、途中で投げ出したくもなりました。さらに言えば、この半年で150回くらいは格ゲーを辞めたほうがいいんじゃないかとすら思ったことがあります。
でも、私の後ろにはファンや鈴木さんがいて、支えてくれてます。EVOという世界大会でそれなりに戦えた経験も大きいです。そうしたことを思えば、辛くなったときに踏みとどまるだけじゃなく、より前に踏み込んでいくことができました。
同級生がスタバで「新作おいしー」って言ってるときに、私は「ザンギエフきっつ……」って言いながらゲームをしてるわけですが、まったく後悔はありません。
COMPにとってesportsは重要な存在
――鈴木さんにも訊きたいんですが、esports業界に足を踏み入れて約1年、esportsってどうですか?
鈴木:
最初になぞべーむさんにお会いした昨年の8月頃、僕はesportsのことを何も知りませんでした。そのあといろんな人に会ったりイベントに行ったりして、選手への印象がかなり変わりましたね。ゲームを本気でやってる人たちだとは思ってたんですが、その「本気」の度合いは相当強烈なもので、イメージが大幅にアップデートされました。
COMPではレーシングドライバーの小林丈晃さんをスポンサードしてて、それと同じ世界観ですよね。esportsでも、その道を極めようという人たちのストイックさが最も頭に残ってます。もちろん取り組む姿勢は人それぞれですが、気軽に遊ぶ人たちから本気で取り組む人たちまで、多様なレイヤーが形成されてるのは印象的でした。
フィジカルスポーツもマインドスポーツも、プロの世界はとどのつまり興行でありエンタメです。esportsを含めゲームはコンテンツとしてレベルが高く、同じような興行になる可能性はとても高いですよね。すでにそうなってもいます。
だからこそ、その世界の情報をキャッチアップしておくことは想像以上に重要だなと日々痛感してます。
COMPは会社として寝食を惜しんで何かを極めようとしてる人をサポートしたいと先ほど言いましたが、esportsは僕らのそうしたメッセージを伝えるべき領域として、とても有望で価値がありますね。
――印象に残ってる人はいますか?
鈴木:
1人は当然HATSUMEさんです。ただ、会ったことのある人は皆さん濃いですよね。例えばC4 LANを主催してる田原さんはFPSでプロゲーマーになって、そのあと就職してマーケターになり、面白いことをやりたいといまはCyACでいろんなことをされてます。ゲームを伝えていくことを生業にしてしまったStanSmithさんの存在も僕はけっこう衝撃的でした。
esportsって、いろんなバックグラウンドを持つ人たちが集まってますよね。僕はその人の深い動機を知りたいんですが、皆さんともそれを持ってるわけです。さまざまな分野から盛り上げようとしてる人たちを目の当たりにして、esportsの吸引力ってすごいなと強く感じてます。
最初に協賛したC4 LANには本当にもうなんと言ったらいいか……(笑)。あれが成立してるのがそもそも異常で、とんでもないことですよ。しかも、その上にはDreamHackという尋常じゃないLANパーティがあるそうじゃないですか。電気を使いすぎて街全体が停電になったという話は信じられません(笑)。
HATSUME:
C4 LANの印象としてはフジロックみたいなものですか?
鈴木:
フジロックは、お客さんは着の身着のまま行っても大丈夫じゃないですか。重いものはせいぜいキャンプ用品でしょう。LANパーティは家から精密機械のデスクトップPCとモニター、それとデバイスも持ってくわけですから、常軌を逸してますよ! そういう世界観に震えましたし、COMPが必要だと判断してくれた人たちには感謝してます。
話題性と実力を発揮させていくであろう原石
――esports業界の人からの声がかかることってありました?
鈴木:
けっこうありましたね。あと、こちらからアプローチしてるチームもあります。
――あのチームですよね、僕も察してます(笑)。
鈴木:
そうした話はありつつも、esportsに関しては横に広く展開するより、まずはHATSUMEさんを軸に考えてます。これからさらに多くの人と出会うかもしれませんが、いまあるご縁を大切にしたいですね。スポンサードするにもリソースを割かないといけないので、会社としては事業を成長させるのが最優先です。
――アプローチがあれば話は聞く、という体勢ですか。
鈴木:
もちろんです。HATSUMEさんにしてもそうでしたから。彼女には問題もあると分かってましたが、「なんとかなるんじゃないか」と最終的には僕が直感で決めました。
逆に、スキャンダルごときで潰れるような人には魅力はありません。強い人はスキャンダルなんてふっ飛ばしてなおその場に立ってますからね。HATSUMEさんはそういうポテンシャルがありました。まあ大丈夫だろう、と。
実はそれ以上のことは言えないんですよ。その人がどれくらい本気で嘘偽りがないかと、伸び代があるかが大事です。
――HATSUMEさんはそういう理由を聞いてたんですか?
HATSUME:
私でよかったのかなと思わなかったわけじゃないですが、鈴木さんは過去に私が叩かれてたことを調べてくれてて、そのうえでやりましょうと言ってくれたんです。すごく安心したのを覚えてます。
鈴木:
ビジネスの視点で考えると、HATSUMEさんにはそもそも話題性がありました。それと、現状そこそこ強い。伸び代があるということです。つまり、今後話題性と実力を発揮させていくであろう原石なんですよ。
だから、いまこのHATSUMEさんという人を掴んでおけば、「将来意外とワンチャンあるんじゃね?」って思ったんです。
HATSUME:
本心を言えば、私も実はそうなんです。StanSmithさんがCOMPのことをツイートしてるのを見て、「COMPはめっちゃゲーマーにプロモーションしたそうにしてる」って感じたんです。あの頃から急にゲーマーがツイートするようになったじゃないですか。
鈴木:
これはおいしいなと?
HATSUME:
おいしいなと(笑)。この先何かあればいいな、仲よくなれればいいなって気持ちがあってレビューを書こうとしてたんですよ。結局書く前に直接会うことになったんですが。
鈴木:
心の深い部分に迫ってますね(笑)。
HATSUME:
我ながらうまくいったと思ってます。この人生で一番うまくいった計算なんじゃないかと。『ストV』にしても、やってみたら面白くてはまっちゃいましたけど、長く続けていったらどんないいことがあるかなとは考えましたね。
強くなりたいというのが最上位としても、続けていくモチベーションの1つとしては大事なことでした。『ストV』やCOMPとは運命の出会いでありつつ、打算もあったというのが本当です。
鈴木:
僕はいま、HATSUMEさんからそういう話を聞けてさらに好感を持ちました。
――ここまで胸の内を曝け出してくれるゲーマーはほとんどいないでしょうから、僕としても嬉しいですね。
やってみないと分かんない
――最後にHATSUMEさんから、本気でゲームをやるか、あるいは学業と並行して取り組むか、くすぶってる同年代の人たちにメッセージをいただけますか?
HATSUME:
ちょっとでも迷ってるなら学校に行ったほうがいいですね。ゲームは学校に行きながらできますから。ウメハラさんも本でおっしゃってるように、お勧めできない生き方です。私はそういう選択をしちゃったんですが、本気でやりたい気持ちがあるなら同じような選択をすればいいと思います。
誰も責めないでしょうし、支えてくれる人もいるはずです。後悔しない自信があるなら、ぜひゲームの道に進んでください。
鈴木:
当時悩んでたHATSUMEさんは吹っ切れたわけですよね。どういう判断をしたんですか?
HATSUME:
私はいい暮らしをしたいとか、結婚したいとか、そういう願望が全然ありませんでした。大学に行って就職するって、そういう幸せが先に続いてますよね。私はお金がなくなって餓死してもいいからゲームをしたかったんです。それで死んでも「よかった」と思える人生にできるという確信がありました。
いまは大学に行ってたらできなかったであろう経験ができてます。私は特別にメンタルの強い人間じゃないので、人と違うことをするのがかなりきつかったのは事実です。でも、ゲームに専念しなかったことで後悔はしたくないと考えて、最終的に決めました。
鈴木:
起業した身から言えば、リスクを取らないことがトータルとしてリスクになりつつありますね。リスクを取らないときが100だとすると、リスクを取れば0になることもありますが、1万になることもあります。リスクを取ったときの期待値は100より大きいんですよ。
今後、リスクを取らない人生がどんどんコモディティ化して価値がなくなっていきます。だんだん、リスクを取らないとまともな生活ができない水準にまでなるでしょう。もはやリスクを取るという選択しか残されてないくらいです。なので、そういう考え方ができる人は、ぜひやってみたらどうでしょうか。
幸いなことに、リスクを取って0になることはありません。自己破産できますし、生活保護もあります。死にはしません。だとすれば、1万の期待値にかけることもできるでしょう。それで1000に収まったとしても、100よりは全然いいんです。
HATSUME:
やってみないと分かんないですからね。
インタビューを終えて――志を持った原石の価値
今回の取材はHATSUMEさんがすでに持っている言葉を流暢に話す場ではなかった。こちらの質問にいちいち深く考え、自分があまり言葉にしたことのない思考や意識を絞り出すように表現しようと格闘した場だった。だから、記事にもその痕跡を少し残した。そのため、ところどころ矛盾を感じる発言もあるだろう。しかし、そこに彼女の真意を読み取ってもらいたい。
彼女の行動力は言うまでもなく生半可なものではない。鈴木さんを始めトッププレイヤーにも積極的にコミュニケーションし、自分の存在を覚えてもらおうと必死に動いているのは誰が見ても明らかだ。同じことができる人はそう多くない。だからこそ、彼女が言うように、それができる自信があるならどんどんゲームの道に挑戦すればいいと思う。
HATSUMEさんの本音に接して、不愉快に思う人も好感を持った人もいるだろう。実力もないのにスポンサードを受けたことが苛立たしいと思う人も、伸び代や将来性に期待して応援したくなった人もいるだろう。どちらにしろ、彼女の言葉、そして今後の言動をきちんと見定めて評価してほしい。僕としては、取材で本音を語ってくれたことに心から敬意を評したい。
僕自身、COMPが大好きだからこそ、HATSUMEさんへのスポンサードには不安があった。彼女が中途半端なところで辞めたり、泣き言を垂れ流してフェードアウトしたりしてCOMPの評判を落としたら、どう責任を取るのか?
だが、HATSUMEさんと鈴木さんへのインタビューを終えたいま、それは杞憂に終わりそうな予感がある。鈴木さんが原石と呼ぶ理由も理解できる。強くなって目的を果たすためなら誰にどんなことを言われようが何でもやる、という志はすでにまばゆい。COMPの名をプレッシャーにして、突き進んでもらいたい。
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HATSUME @hatsumememe
鈴木優太 @aheahe_comp
COMP.JP @comp_official / 公式サイト
取材・執筆・撮影
なぞべーむ @Nasobem_W
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◆C4 LAN 2016 FALL直後(2016年10月)の鈴木さんへのインタビュー↓
すべてのゲーマーに完璧な食生活を――完全食COMPが国内最大級LANパーティ「C4 2016 Fall」に協賛した理由
◆RAGEのプロデューサーである大友さんへのインタビュー↓
RAGEのプロデューサーにesportsに対する本音を訊いたら、ガチで全力だった【CyberZ 大友真吾インタビュー】
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