2024.2.10 『カフーを待ちわびて』原田マハ
読了後にも長く、じんわりと感動が残る優しい作品だった。舞台となった沖縄の離島。やはり沖縄の人はただ優しいのではなく、感謝の心が根底にあるのだと改めて感じる。
主人公は生まれつき右手に障害をもつ男性、明青。幼くして父を亡くし、母が蒸発し、祖母に育てられた過去を持つ。祖母の亡き後は裏で暮らす巫女のおばあを共に見守り合って、祖母に遺された商店を営み、少しずつ寂れてゆく島で生きている。
どことなく自分と重なる箇所が多かったが、全てが自分ごとのような感情移入ではなく、明青という一人の人間に入り込んでしまった。
自分のもとから人が、家族が、少しずつ離れてゆく感覚。心を許した親友すら疑ってしまうような寂しさに慣れ、染みついた「待ち癖」が彼の人生を不自然なまま穏やかにしているようで、薄い布が頼りなく風に煽られるような不安定な心持ちで読み進めていた。
ただ、そんな中しきり出てくるのは愛犬カフー。タイトルにもある「カフー」は、沖縄の方言で「果報」、つまり幸せな報せという意味で、不安定な物語の道筋を照らしていたのは彼の存在があったからだと思う。
少しずつ沈み掛かっているまま、家族の幸せを待っているだけの明青。そんな彼の元に結婚したいとやってきた謎の多い美しい女性、幸。素性のわからないまま二人と一匹の暮らしが始まる。
展開とともに二人の過去が少しずつ明らかになっていくなか、見知らぬ島で明青だけを頼りにしていた幸が女性と仲睦まじげな明青を見て海へと沈んで行くシーンは特に印象的だった。
闇に包まれた夜の海に身を預けて、助けや祈りを待ちわびていた幸のもとに現れたカフー。そしてそれが明青を意味していたのだと思う。
漠然とした幸せと、幸のことを待ちわびていた明青と、か弱く心細いなかで明青を待ちわびていた幸が二人が運命的に重なったシーンは、本作の真意のようにも思えた。
『カフーを待ちわびて』のタイトルが常に手元に感じられたからこそ、物語に入り込めたのかもしれない。
沖縄の青く美しい空や海の明るさが、幸せを照らしていくような優しい作品だった。
「希望なんて、目に見えるもんじゃないさ」