2024.3.8『漁港の肉子ちゃん』西加奈子
愛情に真っ直ぐ生きる肉子ちゃんの姿に、心を打たれるばかりの作品だった。
自分への愛、他人への愛。あらゆる方向に真っ直ぐ走る愛情は、否応無しに多くの人の心を揺さぶる。
誰に対しても等しく、正直に生きる肉子ちゃんが眩しく感じるとともに、弱冠11歳にして自らの境遇を認識しながら、ずる賢い自分がこのままでいいか、迷いながら生きていくキクりんにも共感できる点が多く感じた。
また、彼女らが暮らす港町の人たちの優しさに相当助けられたのではないかと思う。身寄りのない街に移り住んで心細さもあったに違いないが、サッサンをはじめとする周りの人々に恵まれて、金銭的な豊かさは無くとも健やかに生活が出来ている様子には妙な懐かしさと安心感があった。
特に後半で肉子ちゃんの過去とキクりんの出生が明らかになってゆくシーンには心が大きく動かされた。水商売に縋るしかない状況でも朗らかに、愛情を持って接する肉子ちゃんに心を開くみう、そうして子を宿して母になっていく姿、本当の姉妹のように優しく側で寄り添う肉子ちゃん、皆の愛情が結集しているような、そんな気持ちになった。そして、自分の境遇を幼き頃から理解して知らず知らずのうちにどこか人に遠慮をしていたキクりんを、家族なのだからと強く訴えるサッサンを想像するだけでも涙が浮かぶ。どうしてここまで愛を持っていられるのだろう。自分にとっては眩しいほどの真っ直ぐさだが、こういった心を持って人に当たっていくことが、幸せになるのではないかと強く思える。
変でもいい、人と違ってもいい。
世の中の普通に当て嵌まらないとしても、素直に真っ直ぐに生きてゆくことを肯定する、西さんの人間性には毎度自分自身の考えを正すきっかけになる。
大人になって、あらゆることを理解できるようになってより一層心に染みる作品にこれからも出会っていきたいと強く思える作品だった。