2024.2.12 『先生、私の隣に座っていただけませんか?』堀江貴大
漫画家の夫婦を軸にして、不倫を題材にしたストーリー。
登場人物は主人公の佐和子と夫の俊夫、編集担当の千佳、佐和子の母、そして自動車教習所教官の新谷の5名。少ないことが逆に各キャラクターを引き立てられていたように思う。
俊夫の不倫に気付いた佐和子が、母のケガを機に夫婦二人で実家に帰り、そのタイミングで佐和子が自動車教習所に通い始める傍ら、描き始めた新作のテーマが「不倫」。それも現実が細かくトレースされたもので、漫画と実写がクロスオーバーして展開するのが楽しく思えた。
ところどころ挟まる俊夫(柄本佑)の良い塩梅にファニーな演技が、いい意味で作品を軽めていたようにも思えて、かなり見やすかった。
タイトルがダブルミーニングになっているのだろうと思ってはいたが、タイミングとして絶妙なかたちで心にスッと入った印象。明確なことは結局分からなかったラストシーンも、個人的にはそれでこそ作品として完成しているのだと思う。
全体を通して、余白が多い作品で想像する余地が多かったことも、漫画と不倫を題材にしているからこそなのだろうか。不倫は結局「嘘」の積み重ねにすぎない。する側もされる側も、相手にバレないように嘘を重ねていくのだと思う。幸せを誓って夫婦になるのに、騙し合うことになるのは人の愚かさそのものではないだろうか。(とは言うものの世の中に不倫モノが溢れているのはそれが人の本質的な部分なのだとも思う)
つまるところは、人間関係において誰が何を正しく言っているのかは一定以上想像に任せるしか無い部分も多い。
はっきりと分からないことは、はっきりとしないまま片付けるのも自己消化のひとつなのかもしれない。
はっきり描かれていなかったところで特に印象的だったのは佐和子の母親(風吹ジュン)のミステリアスさと鋭さ。特に俊夫と千佳が静かに燥いでいるシーンは唸ってしまった。作中で父親の存在が描かれていなかった(仏壇も無く死別もしていなさそう)のは、もしかすると不倫の末に離婚してしまったのかもしれない…
と想像に浸れるのが、本作の魅力の一つだと感じた。