2024.1.2『手のひらの京』綿矢りさ

京都に生まれた三姉妹のそれぞれを描いた話。
家族の優しさと京都が持つ特有の強さが柔らかく表現してされていて、常に緊張感が漂っていた印象。
自分自身が故郷を離れて暮らしているからこそ気づけた京都の魅力が丁寧に言語されてより腹落ちした。
家族、恋人、友人、仕事、環境、故郷。
大切にするべきもののは、目の前のものだけでなく、骨身に染み付いた自分の背後の景色かもしれない。

三女の凛を軸にしたストーリーが特に心に残っている。
「自分で選んだ道や」と声に出して己を励ますシーンや、就職で東京に行くか迷いの最中での
「一度目覚めたこの気持ちを無視するなんて、もう無理だ。大気に張っている薄い膜を突き破って、私は外へ飛び出す。なにかを得るためじゃなく、なにかを失うために。つけた先から足跡が消えてもいい、私の香りはどこにも残らなくていい、存在を消したい。死ぬのとは違う形で、息を吹きかけられたろうそくみたいに消えたい。」という一説には、未だに存在が消えないように留まる自分と対照的な強さを感じた。

登場人物の会話には、遠回りをして核心に少しずつ迫ってゆく雰囲気があって馴染みを感じた。詰め将棋のような会話は、使い様によっては相手を萎縮させることを深く理解しなおす必要がある。

ただ、全体を通して故郷のことをまた一つ好きになることができたように思う。それゆえに第二の故郷とも言える北海道のことも、同じ様に愛おしく思えるよう大切に日々を刻んで生きてゆきたい。

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