2024.3.17 『本日は、お日柄もよく』原田マハ
人は言葉を使って感情を表現できる生物。様々なシチュエーションでスピーチをする場面も少なくない。想いを届けることは大変で、意図した通りに伝わらないことがほとんど。それゆえに相手に想いを伝えるためには工夫を凝らさなくてはならない。
そんなスピーチを主題にした本作品は、文章から登場人物の心がひしひしと伝わってくるようで、読み進めるうちに幾度も涙が込み上げてきた。音声は無いスピーチの文章かのに、その人の声が鮮明に聴こえてくるような感覚のまま、気づけば虜になっている。言葉を巧みに操るテクニシャンとはまた違う、血の通った想いを言葉として伝えることの大切さがじんわりと沁みた。
ドラマティックな展開はある意味で現実離れしすぎている側面もあるものの、一つひとつが丁寧な文章で構成されていたことから、寧ろ没入してしまったように思う。
作中での『いますぐに、まっすぐに』というワンフレーズは、シンプルでありながら社会を形成する人間にとって非常に重要なメッセージが詰め込まれている。素直で誠実な心を持ってタイムリーに行動することは、仕事においてだけでなく家族や友人との関係性の中でも大切なことで、私の生活の中でも活かしていくべきテーマだと思う。
人の前に立つ機会は多くはないが、人の心を掴んで真摯に向き合っていくことが求められる日常において、正しく想いを伝えられるように意識して言葉を使わなくてはならない。最初の一言や第一印象で話を聞く気が削がれてしまっては、どれだけ緻密に練った戦略でも上手くハマらず結果にはならないと思う。情報を集め、作戦を練り、実行に移す。その中で相手の選択に大きなウエイトを占めるのは言葉を使った表現(≒プレゼンテーション)でもある。作中で天才コピーライターと称されていた和田日間足が実際の職場に居れば、その辺りを多く学べたのかなと想像もしたが、意図を持って言葉を使う習慣をつけたいと思ただけで、学びは多かった。
全体を通して、言葉が持つ力を再認識させられるような作品だった。