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2025年1月武蔵野美術大学卒業制作展「飛んできたサッカーボールを風船で返す」
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2025 1 サッカーボール、風船
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ステイトメント
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概要
武蔵野美術大学と朝鮮大学校は真隣である。特に油絵学科のアトリエと朝鮮大学校のグラウンドと寮は一番近くに併設されており、時々壁の向こう側の彼らと関わることがある。挨拶したり、ゴミ捨てないでってお願いしたり、捨ててる奴らに言っときますって返してくれたり、謎の音楽が流れてきたり。そんな分断された生活の中で、壁を平然と超えてくる存在がある。サッカーボールだ。そしてその飛んできたサッカーボールに対して私は風船を返す。サッカーボール同様遊んでて楽しいし、サッカーボールよりも可愛いから。
三人の先生の考え
私は北朝鮮に関心があった。だから小説を読んだり動画を見たり記事を読んだりした。元来興味があったのか、それとも大学の立地上隣に朝鮮大学校があるからなのか、順序はもう分からないが、とにかく私は挑戦についてとても関心があった。卒制を制作するにあたり思案するなかで、朝鮮大学校を題材にした作品は武蔵美独自で特別なものなのではないかと気がついた。武蔵美にいる今しかこの作品は作れないと思った。
企画時点でA先生に相談したところ、「政治的意味を持たれてしまう」という意見を受けた。私はこの作品に政治的意味を持たせるつもりはなかったし、「壁越しでの交流が楽しい、出来ればもっと関わりたかったという思いを込めている」と主張しても納得はしてくれなかった。A先生からはB先生への相談を勧められた。B先生は数年前に武蔵美と朝鮮大の間に階段を架けるプロジェクトに関わっていた先生だ。B先生は「良いじゃないの!やりなよ!朝鮮大の子も喜ぶんじゃない?」とA先生とは打って変わってとても楽観的な意見だった。「Aさんは朝鮮関係についてあまり詳しくないから、怖いんじゃないかな」確かに、私は朝鮮関連のことに興味があって調べて色々知っているから許容が出来ていることでも、知らなければそうはいかず、躊躇してしまうかもしれない。これはこの作品の課題だと思った。
C先生は実際に他県の朝鮮学校に取材をしたことがある先生だ。実際の朝鮮学校について聞けてとても刺激的だった。「ボールに風船をつけて浮かし朝鮮学校に返す」など面白いアイデアが出たが、この企画はあくまで武蔵美の私単体からのアプローチだ。だから前述した階段のプロジェクトのように、学校単位に規模を拡大するのではなく、一個人の間で発生したコミュニケーションをテーマに、小規模な作品にしたかった。それに、意思を持たずに飛び越えたサッカーボールとは違って、私たちの表現は壁を超えない。だからこそ武蔵美内で完結する作品にしようと決めた。
それにしても、そんなに関心があったなら、もっと早く作品にしたり交流したりすれば良かった。後悔の1つだ。
なんと
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朝鮮大学校関係者が来場してくれたため、サッカーボールを返すことが出来た!
朝鮮大を題材にした作品を喜んでくれた反面、政治的な意味も誤読されてしまった。
他の来場者の反応
「サッカーボールを風船で返す…関係者は持って帰ってくださいだって!」と笑ってくれた来場者がいた。展示会場は2階だったので、壁の向こうの朝鮮大が一望できる。「あれが朝鮮大?」と足を止めて眺める来場者も少なくなかった。
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おすすめ小説 「朝鮮大学校物語」ヤン・ヨンヒ KADOKAWA
友達の勧めで。めちゃ面白くて2回読みました。数十年前の武蔵美と朝鮮大の雰囲気を味わえます。「日本一自由な大学と日本一制約された大学が隣同士」というフレーズは印象的でした。(ニュアンス違うかも)