🗃肩パッド引出し充満事件〜肩パッドは地震対策になるか?
その物語は、発端は私がまだバリバリ(自称)仕事をしていた2005
年まで遡る。
当時私は転勤で地元にはいなかった。
だがその年のある日、地元で、そこそこ大きな地震が起こった(東日本大震災では無い)。
そのニュースを聞いて、私は慌てて実家に電話を掛けた。
繋がらない。
じりじりして、夜もう一度掛け直すと、
「地震?
ああ、車に乗っとったけん、気付かんかった!
それがひどいとよ!
家に帰ったら、ガラスの置物が一個絨毯の上の転がっててね、絨毯を敷いとったけん、割れんかったけん良かったけど!」
元気だった。
後でニュースで確認したら、やはり近い地域でも場所によって揺れには相当の差異があったらしい。
とりあえず、実家に大したことがなかったのはよく分かった。
それで、これは前振りである。
話は私が退職して帰ってきた後の2012年ころに飛ぶ。
実家の客間には、母親が趣味で集めたガラスの人形や置物が、コレクション・ボックスの棚に並べられて大量にあるのだが、ふと見ると、そのガラスの人形の間に、何か妙なものがある。
正直ガラスのコレクション棚など毎日注視するものでは無いが、おかしい、ここには以前、割れるのを防止するために雲海のように綿が詰められていたはず……、と思ったが、絶対に違う。
これは綿じゃないし、…この布に包まれた皺の無い餃子のような物体は!
肩パッド!!
しかも複数!!!
意味が分からなかった。
何故、昔の洋服から外したらしき肩パッドが、コレクションボックスのガラスの人形の間にさし挟まれて……?
私は、母に尋ねた。
「お母さん、この肩パッド、何?」
母は誇らしげに答えた。
「あっ、それ良いアイデアやろうが!
前、地震があった時、絨毯で割れんかったけん、思いついたんよ!
これ置いとったら、割れんやろうが!!」
「いや、それやったら、前の綿で良いやん。
どうしたん、この肩パッド。」
ここで雲行きが怪しくなる。
「いや、それが、最近肩パッドとか流行らんやろ?
いっぱいあるんよ、どうにか活用できんかと思ってね!」
……いっぱい、ある??
時代の事情というものもある。
母は共働きで定年まで務めた職業婦人のはしりだった。
その時代、女性で固い仕事をするなら、スーツに肩パッドは必須だった。
母の服に、それこそ、スーツにも、カーディガンにも、ブラウスにも以前は肩パッドがついていたのは知っていた。
肩パッドのついたブラウスに、肩パッドのついたスーツを着て、肩パッドのついたコートを着た母のシルエットは、肩部分に関してアメフト選手のようだと思った昔もあった。
退職して以降、その肩パッドを、時代に合わないから、着づらいからと、一つずつ取っていたことは知っていたが。
捨てていると思っていた。
──まさか。
「肩パッドがいっぱい?
どこに直してるん。」
まさかガレージ腐海事件再び(これはそのうち書く)と戦々恐々としながら、母に聞く。
「押し入れに入れとるよ。
場所とって邪魔なんやけどね。
いつか使うかも知れんやろ?」
出た!
いつか使うかも病!
いや絶対母の生きている時代に、アメフト肩パッド復活しないと思う!
「……ちょっと見て良い?
押入れの引き出しって、お母さんの部屋?」
「そうよ、布団の下に引き出し置いてるやろうが。」
押入れの下。
昔は、収納は蓋が上に開く箱だったので完全に引き出さないと衣替えができなかったなあと、ある意味現実逃避なことを考えながら、該当の、押入れの下の、引き出しを手前に出す。
ホームセンターなどでよく売ってる半透明樹脂のよくある引き出しではあるが……、押入れの奥行きまで、引き出しいっぱいに色とりどりの肩パッドが。
一体何十個あるんだろう、この肩パッド?
もしかして百個以上……。
「なんで、こんなんとっとーと。
捨てたら?
物が多すぎて収まらんって言ってたやん。」
というか、この状態で物が収まったらびっくりするわ。
「そうは言うけどねえ。
いつかまた使うかもしれんやろ?」
出た!
またいつか使うかも病!
とりあえずその日は、それ以上どうしようもなく放置したのだが、その後数ヶ月経つと、ガラスの間に置かれていた肩パッドはいつの間にか撤去されていた。
どうやら、近所のお年寄り友だちに笑われたらしい。
良い仕事をしますね、お友だちさん!
ところでこの話にはまだ続きがある。
お気づきかも知れないが、ガラスの間に肩パッドを置きまくってさえ、肩パッド軍団は引き出し一個を占拠していたのである。
そのガラスの間に置きまくっていた数十個の肩パッドを引き揚げたらどうなるか?
私は好奇心に負けて、再び肩パッドが収納されていた引き出しを開けた。
あれ?
普通に開く。
増えた様子もない…、まさか。
押入れの下の段の引き出しは、上下二段ある。
私は、肩パッドの下の段の引き出しも開けてみた。
溢れ出してるー!!
押入れの下の引き出しのうちの一個に充満していた肩パッドは、一段では収まりきれず、最下段の引き出しの半分までを浸食していた。
その後、肩パッドが増えたかどうか、私は確認していない。
(終わり)