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お前にできること
お前に何ができるんだ?
そんなことを言われているような気がして、腹も立ったし、悲しくもあった。
「なんだと! できらぁ」
と、江戸っ子のように啖呵を切っても何も変わらないこともわかっているし、発言だけ強くても何も意味はないこともわかっている。そんなふうに啖呵を切りたいとも思わないし、そもそもで言えば、お前に何ができるんだ、とも言われているわけではなかった。
ただ、あの無言で適切なフォローが、穏やかな笑みではあったが決して目を合わせないその表情が、私にそんなことを伝えているのではないか、と感じただけ。……ううん、そんなふうに言うとまるでそう感じさせたほうが悪いような気になってしまうけれど、違う。
私の被害妄想じみたこの感覚が、そう感じただけで、あの人は何も悪くない。
はぁ
ため息をつきながらまたひとつ年を取ってしまったような気持ちになる。
とぼとぼと寒空の下を歩いているだけで惨めな気持ちになる。
もはや地面に足がついていないようにも思えて、足取りもおぼつかない。
せめて吐いたため息が天にまで上って星のように輝いてくれたらいいのに、なんていう妄想が自然に脳裏に浮かぶ感じに、さらに深く息を吐いて、頭が下がる。
こんなことなら行きつけの立ち飲み屋さんに寄ってから帰ればよかった、と何度思ったであろう。店主のおじさんの
「おっ、今日もきれいだね、いい飲みっぷりだね、何かあったの? 話しならいつでも聞くよ」
なんていうお世辞にほっこりしながら一杯くらい飲んでいけばよかった。なんていう甘えた気持ちが出てきてしまう。
はぁ
そういうわけにもいかない。明日も仕事だし、そんなので甘えていたら毎日行きたくなってしまう。
自分の気持ちは自分でどうにかしないといけない、私に、できること、何だろう。
そんな堂々巡りも、もうどのくらいの付き合いになるかしら。生まれてこの方であれば、もう……十年の付き合い。答えを見出せず……きっと、そもそも考えてもおらず、ただ、ただ、落ちてしまう。こんなことも、もう、何度、繰り返して、繰り返したら、気が済むのか。
以前より成長したことと言えば、こんなふうに冷静に振り返られるようになった、ことくらいだろう。ただ、ただ、落ちてしまう、だけではなく。あぁ、またか、という気持ちとともに、だからと言ってどうしたらいいのかまではわからないものの、冷静に、振り返られるようには、なった。
ふぅ
あの人は、どう思っているのかしら。
今日も、そつなくフォローしてくれた。
あんなこと感じてしまったけれど、とても助かった。
やっぱり、使えない、って思われているのかな。
……そうではなくて、もっと、よく思ってもらえるように、がんばってみないと。
いつも助けてもらっているばかりではなくて、助けられるくらいに、ならないと。
そういう意味では「なんだと! できらぁ」みたいに啖呵を切るくらい強気でいくのも、いいかもしれない。きっと、そのために、よぎったものだと、信じてみよう。
よし
何も解決してはいないような気もするけれど、何となく、少しだけ、前を向けそうな、気もする。
どうせ妄想するのなら、もっと前を向いてみるのも、たまにはいいかもしれない。
……そんなことができるなら、初めからしているけれど。たまには、きっと。
そうして妄想した、啖呵を切った私を見るあの人の表情を思い浮かべながら……
吹き出しそうになった笑いをこらえて、足に力がこもり、しっかりと地面を踏みしめているのを、感じた。
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