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私の声を聞いて
ーー聞こえますか? 私の声が聞こえますか?
あぁ、今日も、何も映らない。笑っていても、泣いていても、鏡には人形のような無表情だけが映る。私は本当に笑っているのかしら? 泣いているのかしら? それさえもう、わからなくなった。
いつからだろう。本当に悔しいときに「何も感じないの?」って言われてから、かな。私には、私の表情は見えなくなった。きっと、周りから見てもそうなのだろう。
それでも、何も違和感なく友だちと接している様子が、かえって頭を混乱させている。笑えているの? 泣いているの? そう、見えているの? わからない。自信がない。
ーー聞こえますか?
無理に笑みを作ってみたけれど、やっぱり何も変わらなかった。表情のない、何かが貼りついたような、顔……
ーー私の声が聞こえますか?
そのとき、どこからか声が聞こえたような、気がした。
あたりを見回してみても、誰もいない。空耳か、と思って再び鏡に目を向けると、思わず目を見開いた。そこには、私がいて、私ではなかった。手を振りながら微笑みかけている私の姿が映っていた。
ーーようやく、聞こえたかしら?
その声色は私のものであったけれど、その表情は私ではなかった。あどけないくらい ころころ と変化する表情豊かな姿は、これまで見たことのないものであった。
ーーあなたは何をそんなに悩んでいるの?
この状況に困惑としながらも、問われた言葉に対して自然に気持ちが向かった。が、すぐには答えられなかった。
「私……私が、悩んでいるもの」
それは、なんて口にすればいいものなのだろう。鏡に映らない私の表情、心の底からそう感じているのかわからないこの感覚、それは、なんて伝えたらいいものなのだろう。そもそも、本当に……。
いつまでも答えられない私を見て、鏡の中の私は首を ふるふる と振りながらどこか哀れでいるような目を向けた。
ーー誰の言葉に囚われて、目に見えるものに囚われて、何を、そんなに、見失っているの?
見失っている……私が?
「あなたは……何か、知っているの?」
鏡の中の私は数秒瞳を閉じ、開くと
ーー外側からの目線や言葉に惑わされてしまうのもわかる。外側から評価を受けて、自分の立ち位置を知ることも、たしかに大切なこと。でも、……本当は、もう、気づいているのでしょう?
どことなくうすぼやけていく光の中で、鏡の中の私は満面の笑みを浮かべている。
ーーあなたは、もう……
そうして光が消えたと思ったら、元の無表情の私がそこにはいた。声も、もう聞こえない。笑ってみても、変化はない。
ーー気づいているのでしょう?
鏡の中の私がのこしたその言葉が、残響して鳴りやまない。
あぁ、そうだ。気づいていたのかもしれない。私は、そう。
化粧塗れの顔なんて、見なくていい。無理に、表情を作らなくていい。
そうして、思わず口元がゆるむと、自然とその姿が鏡に映った、ような気がした。その姿を見つめながら私は、内なる私に向かって、頭を、下げた。
ーー1198文字
今回は、こちらの企画に参加をさせていただきました。
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