絵本の記憶
保育園の頃、寝る前は母に絵本を読んでもらっていました。
「よい子とママのアニメ絵本」シリーズというスーパーでも400円くらいで買える、ほぼ正方形の絵本です。世界の偉人伝やアンデルセン童話などから構成される「せかいめいさくシリーズ」と「にほんむかしばなし」シリーズの2つがあり、1冊46ページに1話が収録されていました。
「赤ずきん」「シンデレラ」「かちかち山」「鶴の恩返し」など何冊持っていたかは忘れてしまいましたが、眠るまで数冊読んでもらった記憶があります。
枕元のスタンドライトをつけて、母と仰向けで布団に入ります。天井へ伸びる母の腕にくっつき、開かれた本へ目を向けました。字が読めないので、次のページに進むまで絵を丹念に眺めます。隅から隅までちゃんと見ても、まだページが進まないときは母の顔を眺めました。白熱球のオレンジ色をした暖かい光が、母の横顔を照らしています。
「マッチ売りの少女」と「フランダースの犬」は印象的な絵本でした。話が好きなわけではありません。
読むと母が必ず泣くのです。
母の泣くところが見たくなると読んでもらいました。
絵本専門士の藤村友樹子さんと話していて、思い出した記憶です。
40年以上も大切に手元に置いているという「もぐらとずぼん」を見せていただくと、最後の白い見開きにはクレヨンで女の子が描かれ、隣に鏡文字の平仮名が並んでいます。
大人は絵本に子どもの知育を期待するけど、絵本はトランプやビー玉と同じ「子どもにとってはおもちゃです」。
遊んだときの周囲の情景や感情がおもちゃと結びつくように、読んだときの周囲の情景や感情が、物語以上に絵本と結びつく。
でも、この記憶が人生の糧となるのは成長した後。大人にできるのは記憶の種を与えることで、まく時期やどう育てるかは子どもに任せていいのです。
母が私に与えたような絵本と思い出を結ぶ機会が、わが子にはあっただろうか。それだけが気に掛かりました。
2021年11月29日提出
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