私が彼らを好きな理由
気づけば吉田たちという漫才師を好きになっていた。出会ったのは2016年5月なのに、崖から落ちるようなハマり方ではなく、オーブンの中のケーキのように「好き」が膨れ上がって今に至る。
漫才師にとっての「双子」という特徴はある種飛び道具のような気がする。今まで自分が好きになってきた芸人さんを振り返っても「まさか自分が双子漫才師にハマるなんて」と思う。双子であるというだけで強烈なキャラクターになると同時に、ネタを見せる前からひとつ手の内を明かしていることになるのだから。だがこの2人は簡単にハードルを越えていき、武器はすぐ使わずに温存する。私たちが忘れた頃にぽんと使って笑いを生むのである。
ネタを好きになると、そのネタをしている人そのものに興味が湧くのは自然なことなのだろうか?どちらにせよ私にはよくある話である。私は2人がどんな人なのか、どんな話をするのか知りたくなってしまった。それが「好き」を加速させるとも知らずに。初めて2人が企画コーナーに出ているのを見たとき私は2人のことを「尖っている」と思った。ガツガツ前に出ない、先輩にアピールしない、クール。そういうところが面白いなと思った。2人に注目する今となってはただマイペースにタイミングを伺い、思ったことをボソボソと言っていることに気づいたのだが。
そして、吉田たちにはギャップが多い。自分の中での印象や勝手なイメージが知れば知るほど覆っていく。2人の性格もそうである。私は当初こうへいさんの方が自由奔放にあまり周りのことを気にせず生きていると思っていた。しかしそれは反対で、ゆうへいさんの方が自分の言いたいことを言い、それをこうへいさんが「まあまあ」となだめるのである。少しいかつめの外見でありながら、時折子供のような所作をすることもある。こうしてどんどん裏返っていく2人のイメージが私にとってはとても新鮮なのである。
双子であり相方であるというのは、相方は「他人」が普通と思っていた私にはとても不思議で神秘的な関係性に思える。2人で飲んだら喧嘩になると言うのに、同じ飲みの席にいることは多い。気に入る後輩が同じで、「つまらない」と思うところが一致する。コーナー中2人並んで小声で何かを話している。でも近づいたり触れたりするのは嫌。きっと相手のことを心の底から嫌いと思うこともあるだろう。それでも2人で漫才を続けるという、私には理解したくてもできない特殊な関係性がそこにある。私が惹かれる理由の一つである。
最後に触れておきたいのはやはりネタである。初めて見たネタは「赤と青」で、このときからこの2人は頭のいいネタをするんだなあ、と思っていた。そのイメージがさらに更新されたのがいつかの単独で披露した「心理テスト」である。家族をうまく絡めつつ、感心するくらい賢くて、それでいてちゃんと面白い。コント系の漫才は、たとえよくある設定であっても吉田たちの色に染まるところが好きである。独特な着眼点や、理解した瞬間に笑いが起きる言葉遊びなど、こうへいさんの頭脳には感服するばかりである。そして、ゆうへいさんのツッコミがパンチ力となり面白さを加速させていく。
以上が私の吉田たちが好きな理由である。可能性に溢れた、今日もどこかの舞台に立っているであろう黒いスーツの2人を、私はこれからも応援したいと思う。
なしむら(@vague_sky)