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【ショートショート】『怪奇!恐怖!戦慄!≪蠟人形の館≫』

「お前達も蠟人形にしてやる!ヌハハハハハハハッ!」
男のしわがれた声が部屋中に響き渡る!
ここは、東北のとある田舎街の外れに建つ、古い洋館の地下室…

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この日、俺は恋人の町子と、旅行で東北の古い街を訪れていた。
観光地よりも、誰も知らないような街を歩くのが好きな町子に合わせて、俺達は計画を立てずに、当てもなく電車に飛び乗った。 
そして、聞いたこともない無人駅で電車を降りて辺りをブラついていた。
町子には独特な能力があって、何故かいつも訪れる街の面白い場所を探し当てる事が出来た。
そして、この時も町子のその能力が発揮されたのだった..

俺達の目の前には、辺りの景観にそぐわない、お城の様な古い洋館がそびえている。
「なんか気持ち悪いな..こんな辺鄙な所に、こんな建物があるなんてさ」
思わず俺の口からそうこぼれた次の瞬間、後ろからしわがれた声が聞こえた。

「ごきげんよう」
「わっ!」

町子が驚いた声をあげ、俺が振り向くと、いつの間にか後ろに、鋭い目つきのジャージを着た小柄な老人が立っていた。
俺は少し慌てながら答えた。
「あっ、ど、どうも!珍しい建物だなと思って..あの、こちらの方ですか?」
老人は口の端を歪める様にして答えた。
「そうじゃ。我輩の名は、出井門だ。よその土地の者かな?」

「あ、はい。ちょっと旅行で..」

「そうか..よければ、少し休んでいかんか?ふっふっふっ」
出井門の誘いの言葉を聞いた俺は、隣の町子を見た。
町子は俺を見て小さく頷く。
俺は答えた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」

「遠慮なく休むがよい。ふっふっふっ」

そして入り口の扉を開ける出井門に促され、俺と町子は洋館の中に足を踏み入れた。
その瞬間!
「キャッ!!」
町子の叫び声が広い室内に響いた!

館の入口の両側には無数の蠟人形が置かれていた..

出井門がニヤリと笑いながら、町子に向かって声をかける。
「どうじゃ?良く出来てるじゃろう。ふっふっふっ」
町子は胸に手を当てながら、目を見開き、驚いた顔で答えた。
「ビックリしたぁ!本物かと思った」
出井門は満足そうに頷きながら俺に聞いた。
「珈琲でもどうじゃ?」
俺は、又、町子を見る。
町子は、又、小さく頷いた。
俺は答えた。
「はい、では、お言葉に甘えて…いただきます」

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「ねえ?こんな大きな館に、あのお爺さん、一人で住んでるのかな?」

「その通りじゃ。我輩、一人だけじゃ」

俺に対する町子の問いかけに、いつの間にか俺達の後ろに立っていた出井門がそう答えた。

「わっ、ビックリした!..すみません」

「どうぞ、珈琲じゃ。ふっふっふっ」

テーブルに座る俺達の前に、出井門が珈琲の入ったカップを二つ置く。
「有難うございます!」
「すみません、いただきます」

「どうぞ、どうぞ、召し上がれ。ふっふっふっ」

俺と町子は同時にカップに口をつけた。

珈琲を一口飲んだ俺は、突然、口の中に痺れを感じて、急激な眠気に襲われた!

そして俺の意識は、悪意に満ちた笑顔を浮かべる出井門老人を見ながら、徐々に薄れていった..

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「な、なんだ…ここは…」

意識を取り戻した俺の目の前には、頑丈そうな鉄格子が並んでいた! 
隣を見ると、町子が倒れている! 
俺と町子は、牢屋に入れられていた..
俺は、慌てて町子の身体を揺すった!
「おい!町子!」
町子は眠たそうに目をこすり、欠伸をしながら身体を起こした。
「ああ、よく寝た..」
「よく寝たじゃないよ!町子、大変だぞ!」

「気が付いたようじゃな。ふっふっふっ」

声のする方に顔を向けると、鋲のついた革ジャンと革のパンツに着替えた出井門の姿が目に写った!
その顔にはド派手なペイントが施され、薄い髪を無理矢理逆立てている。
片手に鞭を持った出井門は、俺を睨みながらゆっくりと牢屋の前まで歩いてくる。
俺は出井門に向かって吠えた!
「おい!一体、何のつもりだ!」
出井門は不気味な笑みを浮かべて答えた。
「ふっふっふっ..これから、お前達を少しずつ弱らせていくのじゃ!」
「な、何を言ってるんだ、アンタ!」
出井門は、俺と町子を交互に見ながら叫んだ! 

「お前達も、蠟人形にしてやる!ヌハハハハハハハッ!」
「キャーー!」

隣の町子が叫びながら俺の腕を掴む。
何を言ってるんだ、この爺さんは..
俺は出井門に向かい強い口調で問いただした! 
「【お前達も】って、前にも蠟人形にされた人がいるって言うのか!」
出井門は俺を睨みつけながら答えた!
「そんな事は聞くまでも無いじゃろう!」
「どういう意味なんだ!もしかしてさっきのは…お前…狂ってる」
出井門は手に持った鞭を、『ビシッ!』と床に打ちつけて叫んだ! 
「だまれ!お前達は我輩、出〰️井門のコレクションの一つになるのじゃ!ヌハハハハッ!」

「コレクションだと!ふざけるな、この野郎!」

俺は、あまりの理不尽さに爆発しそうな怒りを出井門にぶつけるつもりで、目の前の鉄格子を思いっ切り蹴飛ばした!

【【【【  ガンッ!!  】】】】

【【【【  キイ~~~  】】】】

「あっ」
「あっ」
「あっ」

全員の口から同じ言葉がこぼれた..
そして、全員が動きを止めた。

鉄格子の扉は鍵が掛かっていなかった..

突然、出井門が老人とは思えない速さで部屋を出て行った!

俺は隣の町子を見た。 
町子が俺の顔を見ながら震える声で言う。
「と、とりあえず出ましょう」
俺は頷いて町子の手を取り、牢屋から抜け出した。

その俺たちの前に、出井門が慌てながら戻って来て言った!


「い、い、い、いや〰️、こ、こ、こ、こ、これを持ってくるのを、わ、わ、わ、わ、わ、忘れていたんじゃ!」

そう言って出井門は俺達に向けて、震える手で大きな文字の書かれたノートを見せた!

そこには乱れた字で、

【 ドッキリ大成功 】

と書かれていた…

反射的に、俺の口から「それ、今、書いただろう!」と言葉が出かかったが、もう一人の自分が「これ以上、関わるな!」と、それを無理矢理飲み込んだ..

出井門は引きつった笑顔を俺たちに向けて言い放った。

「い、い、い、いや〰️、ド、ド、ドッ、ドッキリ大成功じゃな!よ、よ、よ、よ、喜んでいただけましたかな?じゃ、じゃ、じゃあ、さ、さ、最後は、み、み、皆でドッキリ『大成功』のコールで、し、し、締めようかの!」

「...................」「................」


「せ、せ、せ〰️〰️の!ドッキリ...だいせいこ〰️」

「...................」「....だいせいこぉ...」

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館から最寄りの無人駅へと向かう道すがら、無言で歩き続ける俺に、横から町子が上気した顔で話しかけてくる。

「いやぁ、スリリングだったねぇ!最高だったよね!あのお爺さん、皆にあんな事やってるんだろうね!エンターテイナーだね、凄い演技力だったもん!牢屋の鍵掛けてないのも演出なんだよねぇ…多分、鉄格子が開いた瞬間に『ドッキリ』の紙、出すつもりだったんだね。でも持ってくるの忘れちゃって、メチャクチャ、テンパッてたよね!アハハハ!面白いよねぇ。後、こんな高級ワイン何本もお土産にくれるとかさ、どんだけ良い人なんだろうね、あのお爺さん。でもさすがに現金100万円くれるって言った時は、ちょっと引いたけどさ…多分あれもドッキリなんだろうね。結局、人が喜ぶのを見たい人なんだろうなぁ..私もあんな歳の取り方したいなぁ…ホント、最高だった!」
 
「ああ…そうだな」

「あとさぁ、あの蠟人形、超リアルだったよねえ?やっぱり、あそこまでリアルに造らないと、ショーのリアリティが無くなるんだろうなぁ」

「ああ…そうだな」

「でもあのお爺さん、あんなのが造れるなら蠟人形作家にでもなればいいのにね?そう思わない?勿体ないよね、あの人、何でこんな田舎に籠ってるんだろうね?あれかな、昔、俳優とかを目指してたけど、なんらかの理由で断念せざる得なくて…でも希に昔の情熱が蘇ってきちゃって、あんな事やってるんじゃないかなぁ...どう思う?」

「ああ…そうだな…全部お前の言う通りだと思うよ…多分な」

【劇終】

監督、脚本/ミックジャギー/出演.主人公、清田明益、町子役.のん子、出井門役.五十五代目、船橋團十郎

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