一途さは時に暴走する(相棒Season21-5 感想)
はじめに
相棒Season21-5「眠る爆弾」の感想になります。
今回のテーマは「爆弾」と「研究費」。相棒で時たまある「社会問題を題材にしたお話」であり、相棒御馴染みの大学・城南大学が関わって来るお話です。また、今回は少々辛口な評価です。
本当、何かと舞台になりますね城南大学。毎シーズン1回くらいの頻度でその名前を見ているような気もします。
そんな城南大学で爆発物騒動が発生。犯人・平山は「次の爆弾は人が死ぬ」とビデオメッセージで脅迫。その上、平山と同じゼミだった三沢准教授の監禁まで行っている事が判明。
平山の要求はただ1つ。1か月前に起きた爆発事故……事故死として処理された、平山と同じゼミ生だった森原真希という女子大生の死の真相を明らかにすること。
実験室にあったバルブの部品・逆止弁が摩耗・劣化していた欠陥品だった事による爆発。それにより、長時間倒れた棚の下敷きになった事がキッカケで、森原は命を落としていました。
実験は単独では出来ず、実験計画書に必ず、一緒に行う人間の名前を記入して申請を行わないといけない。森原の申請した実験計画書には平山の名前がありましたが、平山はその実験のことを把握していませんでした。
キャンパス内で立ち上っていたある噂……「三沢と森原は不倫の関係にある」。計画書の事を知った彼は、噂を確かめることも兼ねて実験室へ。そこで、棚の下敷きになっていた森原を発見したのです。
救助されたものの、彼女は容態が急変し死亡。急変した理由は「クラッシュシンドローム」というもの。
身体が圧迫され続けた際、細胞から毒素が発生。圧迫から解放されると、その毒素が身体にまわって……というもの。
多分、災害救助の業界では常識なんだろうと思いますが、一般人には馴染みのない知識。知識がないがゆえに、誤った救助をして命を落とす(しかも、誤っている事にすら気づけない)。恐ろしい症状です。
計画書に名前があったせいで、一度は警察に殺人犯だと疑われてた平山。彼はある時、とんでもない言葉を耳にしました。
「森原を殺したのは私」という、三沢の告白。上層部なら(大学の世間体の為に)揉み消してくれるだろうという考えから、上層部の人間にだけは話したのだ……という考えに至った平山は、復讐を決意したのです。
彼が用意した「人が死ぬ爆弾」。それは決して、火薬などで派手に爆発するものではありませんでした。
爆弾の正体は「クラッシュシンドローム」。監禁した三沢の足を過剰に縛って圧迫し、後に解放された際に毒素が体内にまわる……。
森原の死因にもなった症状を、眠る爆弾という形で三沢の体内に仕込んだのでした。
起爆役は、メールで監禁場所に呼び出した三沢の妻。無知な人間に縄を切らせる事で爆弾を起こそうとしていました。
が、監禁場所を特定した特命係がすんでのところで起爆を阻止。右京さんが手配した、治療である透析の出来る病院へと運ばれたのでした。
この時の亀山君、ブルーシートをタンカ代わりにして三沢を運搬するという判断を即座に下していました。きっとサルウィンでこういう経験を幾度となく経験したんやろうな……。
三沢が救助された事を知らない平山は、計画が成功したと確信してあっさり自首。いざ取り調べ……というところで。特命係によって、思わぬ真実が告げられました。
真相は、森原の死に三沢はほとんど関係がなく、完全に森原が起こした事故というもの。
でも、それでは三沢が上層部に告白した言葉と食い違う、と平山は食って掛かります。しかし、告げられたのは残酷な真実でした(2週間ぶり今シーズン3回目)。
そもそも、城南大学は慢性的な金欠。実験をしようにも予算が足りず、国に助成金を申し出ても、私立である城南大学にはなかなか助成金が下りない……。
平山の研究は未来を変える素晴らしいものだと、森原も三沢も考えていた。それなのに、お金がないせいで研究が出来なくなってはいけない。そう考えた森原は、平山のために一計を案じたのでした。
実験器具にあえて摩耗した部品を使い、爆発事故を起こす。事故について問われれば「助成金が下りないせいで部品を交換する事が出来ず、こうなってしまったのだ」と、世間に助成金の実態を知らしめる……。これが、森原の立てた計画でした。
ところが、計画を実行する段階で不手際が発生。森原自身が爆発に巻き込まれてしまい、命を落としてしまったのです。
森原の動機を知ってしまった三沢は「金欠のこと、助成金が下りないことを森原に嘆いていたのは自分だ。自分のせいで森原が死んだ。森原を殺したのは自分なのだ」と、自虐的になっていたのです。そして、平山はそれらの告白を一部分しか聞いていなかったせいで、本当に三沢が殺したのだと勘違いしてしまっていただけなのでした。
招いた結果をもって、三沢に対して論理的な指摘をする右京さん。
招いた結果こそあれど、感情に訴えて平山を諭す亀山君。
2人の対比が光ります。
というわけで。
「一般人がなかなか知らないような知識が登場する」「動機そのものが勘違いだった」という、ここ最近の名探偵コナンの短編事件を彷彿とさせるような回でした。
……今回。面白かったのは面白かったのですが、どうしてもツッコミどころの方が先行してしまったんですよね。
まず1つ。森原の計画について。
彼女が建てた計画は、実験室でないと起こせません。その上、あくまで部品が摩耗していた事が事故の原因であると主張するため、申請を出した正規の実験である必要がありました。
実験は単独で行えないという都合上、必然と平山を巻き込む事になります。幾ら平山のためといえど、彼に疑念が掛かるような計画はどうなん……?
(実際、事故死については彼が一度疑いを掛けられていましたし)
まあ、よしんば「一途な人間の、若気の至り」という事にしましょう。
けれどももう1つ、助成金について。
研究のための助成金が下りない、というのはれっきとした日本の社会問題ではあります。これにより研究者たちが海外に流出していたり、実態をノーベル賞受賞者からも指摘されるなど、深刻な話ではあります。恐らく今回の脚本も、このお話を問題提起の一端としたい狙いがあったのでしょう。
でも……でもですよ。城南大学に限って言えば、
助成金が下りない理由、大学に関連した事件が起きすぎているせいじゃないかなあ?
金田一の不動高校ばりに事件が起きている学校、そんなところに助成金を出そうという気持ちはなかなか起きないと思うんですよね。お話の最後で、美和子が報道機関を使って働きかけることを示唆していましたが……今回の一件で、なおさら城南大学に対する助成金の手は遠のいたようにさえ感じます。
これだけはハッキリと言えます。助成金問題を描きたかったのであれば、城南大学を舞台にするべきではなかった。
少々辛口な評価となってしまいましたが、たまにはそういう回もあるという事で。シリーズを20数年もやっていれば、その人によって合うお話合わないお話、そのどちらも出てくるものです。
最後に。
もう逃げられないねえ土師っち……。
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