惑星アブノーマルのワンマンライブにピアノとアレンジで参加しました。
惑星アブノーマルはTANEKOのソロプロジェクトで、バチバチの打ち込みやバンドサウンドのトラックを使ってバリバリ歌うパワフルでワンダーな楽曲を発表している。ぼくが知る限りでは彼女のライブは同期音源を用いたバンド編成で行うものだったので、ぼくはバンドの一員としてキーボードを弾くものだと思って出演の依頼を引き受けたのだが、Twitterに投稿されたこのワンマンライブの告知を見て椅子から転げ落ちてしまった。
「今年はふたりでやります!」
聞いてない、聞いてない。
彼女が所属するSHACALANDAというユニットがある。そこではぼくが所属しているオワリズム弁慶という大所帯バンドで活動を共にするギタリストの世古ちゃんが曲を作ったりギターを弾いたり喋ったりしているため、そのつながりを辿ることでTANEKOと惑星アブノーマルのことはそこそこ前から知っていた。2022年末、SHACALANDAが企画するライブイベントを見に行こうと思っていたら、(開催直前になってなんか色々あって)nameshopというこれまたぼくが長いことやってるアコースティックプログレッシブポップデュオ(何)で出演することになった。TANEKOと直接会って話をしたのは、そのときがはじめてだった。
彼女はnameshopの演奏をめちゃくちゃ気に入ってくれて、ぼくに「今度どっかしらでいっしょに演奏してほしい」と連絡を寄越した。実際に2023年6月にSHACALANDAのアコースティックライブにキーボードで参加する機会をもらってすぐに共演が叶ったのだった。
「今年はふたりでやります!」
オイどういうことだ!?!??と慌てるぼくにTANEKOは「アレ、言ってなかったっけ笑」とかいう具合にとぼける。ふざけやがって。そして詳しく考えていることを伺うと、同期音源を使う一部の曲を除く全ての曲をほんとにふたりだけで演奏したいのだと言う。
察するにTANEKOはあのときのアコースティックサウンドで味を占めたのだろう。SHACALANDAではなく惑星アブノーマルという彼女自身のプロジェクトで白石(ぼく)を使ったら面白いと思ったに違いない。
これはぼくにとって一大事だった。何故ならば、そこそこの数の曲のアレンジを一任されているから。あれだけバキバキにキマった曲たちを歌とピアノというミニマルな編成でどう聞かせられるだろうか。同期を使う曲に関しても、ぼくなんかよりずっと前から彼女の曲を聴いているお客様を前にどれだけやれるのだろうか。それ以前にまず、舞台に立つ者としてぼくよりもずっとキャリアも実績もある彼女を満足させられるだろうか。そんな不安を抱えたまま、唐突に、年末に向けて大きなプロジェクトを走らせることになった。
11月初頭、仮のセットリストと資料の譜面が送られてきた。暇を見付けては曲を聴いて体に馴染ませる。しかし本当に全曲もれなく素晴らしいこと!繰り返し聴いてはピアノ1台でどんな伴奏を付けられるかを妄想する。
一旦TANEKOとふたりで通話して、各曲をどんなふうにしたいか、どんなことができるかを相談する。ここで大方の方向性が決まり、ようやくプレッシャーが楽しみに変わっていくのを感じることができた。結局このとき決めたことが本番まで殆ど変更なく突き進む指針となった。
11月中旬、数曲アレンジが書けた段階でひとまずいっしょに演奏してみる。ここでTANEKOがものすごく喜んでくれたので、ようやく最初の壁を突破した実感を得る。惑星アブノーマルに慣れ親しんだお客様方に受け入れてもらえるだろうかという不安はずっと残っていたが・・・。
この初合わせの際に、なんかお菓子とかコーヒーを飲み食いしながら、お互いが影響を受けた音楽のことについて話した。なんとなく聞いていた話ではあったが、共通するルーツが多くあって大変盛り上がった。「そうだよな、こういうの大好きだったよな」という気持ちをジャンジャン出していこうと思うきっかけになる重要な出来事だった。
そこからはもうやるだけだった。どんどんアレンジを仕上げて、同期を使う曲は聴き込んでおく、それだけ。とはいえ、例年以上に作編曲や演奏の仕事が多く忙しない日々だったので、それらと並行してこのプロジェクトのことを考え続けるのはそこそこ大変だった。いろんな仕事や舞台を終えてもちっとも頭が休まらないかんじは久々だったように思う。
本番の10日くらい前に2度目の合わせをした。このときにはもうアレンジは書き上がってるし、同期曲もバッチリ暗譜できていた。(曲の作りがしっかりしていることに加え、先述したような共通のルーツを感じられるような曲はとくに暗譜が容易だった。そして弾いていて楽しい!)
残る不安はこれがお客様に受け入れてもらえるのかということだけ。という話をTANEKOにしたら「あなたは自己評価が低すぎるわよ!??」と言われたのが印象的でした。
この日は打ち合わせ後に急遽TANEKOのインスタライブに参加することに。配信を始める前に何をするのかたずねると「ライブで喋る練習!曲もやりたい」とか言う。やる曲を決めるも「歌詞が検索しても出てこなくて歌えない」とか言う。ジブンの曲なのに。そんなこんなで配信が始まって、ふたりの馴れ初めとかそのへんの話をコーヒー(白石が淹れた)やティラミス(TANEKOが買ってきた)を飲み食いしながらたっぷり58分くらいしたのち、「やばいあと2分で配信止まっちゃう!」と騒ぎ、「ライブで披露する予定の曲を途中まで演奏して、続きは12月30日に〜ってことにしよ!」と言って始めた『人生はロマンティック』は1番のサビ前に終わりました。楽しかったね。
本番数日前にスタジオに入り最終リハーサルを行った。ぼくはこれまでに用意したものを確認するだけだったが、TANEKOはずっと流す音源の調節を念入りにやっていた。「何よ、なんなのよこのディレイピアノとかいうトラックは」とか「どうしてアンタの音が鳴っちゃってるよ」とか「このギターは何、どうしてこんなところにいるの」とかいうことをずっとパソコンに向かって喋っていた。オンマイクで。愉快なやつ。
そんな具合で本番当日には準備万端、舞台で力を発揮するだけだ!と意気込んだ。大好きなミスドで大好きなエンゼルフレンチを食べて、集中するためのおまじないとしてライブ前に必ず食べる森永ラムネを頬張って開演に備える。楽屋ではTANEKOとカメラマンの美澄ちゃんがキャッキャしながら私をメイクアップしてくれました。「目元にラメ塗っちゃいましょ!」「あんた涙袋チャーミングなんだから強調していくわよ!」「やだ~かわいい~!」とか言ってほんとに楽しそうにしてやがりました。
ここからはセットリストに沿って、アレンジャーあるいはプレイヤーとして具体的にどんな仕事をしたのかを記録していく。
以上です。アンコールは客席に出て見てました。やっぱり客観的にTANEKOを見てると「えっ私ついさっきまであそこでピアノ弾いてたのか・・・」という気になりました。
終演後に見に来てくれた友人たちに感想を聞いて回っていたら、惑星アブノーマルやSHACALANDAをずっと応援してくれているお客様方がぼくの所にやってきて、色々と感想を話してくれたり、アレンジのことを質問してくれたりして、そのときようやくジブンのやってきたことが受け入れられた実感を得られた。ちゃんと届いた。
これでやっと夏の終わりごろからずっと休みなく続いていた仕事に一段落がついた。充足感でいっぱいだった。今回ばかりはジブンを褒めてやるべきだ。電車のドアが開くたびにどこかしらから聞こえてくる「よいお年を」という声に耳を傾ける。2023年がおわる!帰って風呂に入って気絶するみてぇに30時間くらい寝た。お疲れさまでした。今回はここまで。