諧謔日記その64:これでもか!!!でもか(2024年11月15日のきろく)

作編曲家の白石なるです。

代々木のA Talk Club WOOFERにて、お笑いコンビ三拍子によるトークライブ『これでもか!!!でもか』が開催されました。10月17日に東京国際フォーラムホールCで開催された三拍子の単独公演『これでもか!!!』を振り返ったり裏側を語ったりする内容のイベント。構成作家の小林知之さんといっしょに、劇伴を担当したオワリズム弁慶の代表として白石も出演しました。

『これでもか!!!』で白石が担当した音のあれこれについては以前ものすごい勢いで解説する記事を書きました。

これを読んだ三拍子高倉さんが「トークライブで是非音のことも話してほしい」とお誘いくださったことにより白石の出演が決まりました。編曲にしろ劇伴のバンマスにしろ裏方のことですから、舞台上で喋る機会が与えられるなんてことは当たり前じゃないです。ほんとうに光栄におもいました。

今回は弩素人が弩プロ3人に囲まれて出たトークライブの思い出やら感想やらを記録しておこうとおもいます。

・トークライブ当日までのこと
当日の流れなど具体的なことは何一つ情報がなかったのでとくに備えることはありませんでした。大学のプレゼンや演奏会の司会などジブンで書いた台本を読み上げるくらいでしか「喋るための舞台」に上がった経験がなかったのでそれはそれは不安でしたが、20年以上やってる漫才コンビと芸人兼構成作家がいるのだから乗っかるだけだろう、行けばなんとかなるだろうと信じて毎日能天気に暮らしていました。

・本番前日
ドラクエ3が発売されたので8時間くらいプレイしました。

・当日会場入りまで
気合いを入れるためにちょっと早めに家を出て渋谷で途中下車して好きなラーメン屋さんに寄った。
食べてる間ずっと隣で大学低学年くらいのギャルふたりがラジオの如く喋り倒していたのが嫌でも聞こえてくるのでにこにこしながら聞いていた。やたらと動詞の前に「普通に」と言うので耳障りな口癖なのかなとおもったのだが、どうやら「ムカついた過去の話」をするときだけに表れる言葉のようで興味深かった。ずっと学校かバイト先で普通にムカついた話をしていたのだが、ラーメンが着丼すると「フハァ~めっちゃおいちちょ~」「うまそすぐる」とか言って喜んで写真を撮りまくって食べて「おいち~おいち~」「うますぐる」とか言って喜んでいてとても良かったです。声量そこそこでうるせ~とはおもったけど不思議と不快じゃなくて、楽しそうで、眩しくて、おじさん泣きそうになっちゃったよォ。なんかめちゃくちゃ色々トッピングしてたしな。
で無駄にパルコのニンテンドートーキョーに寄ってグッズを眺めて(べつに目当てのものがあったわけでも新作が入ったわけでもないのでほんとに無駄に散歩しに行っただけでした)、メトロに乗って北参道駅へ。数分歩いて代々木駅前の会場に到着したのが開場10分前ごろでした。すでに会場待ちしているお客様が数名いらっしゃり、「あっこんにちは~、ふふふ」と挙動不審な挨拶をしつつ入場しました。

・開演まで
舞台上で構成作家の小林さんが資料や映像の仕込みをしていました。何も知らないまま舞台に出たほうが面白いとおもっていたのでなるべく見ないようにして、小林さんと会場のスタッフの方々に挨拶をしたらばそそくさと楽屋へ。
仕込みを終えた小林さんとおしゃべり。構成作家の役割について伺うと「構成作家が舞台をセッティングして進行を司るから演者はとくに準備せず来てくれるだけで面白くなるよ。勿論きちんと事前に打ち合わせをしたり本番前に段取りを説明する現場もたくさんあるけど、今回みたいな舞台は一切説明しないほうが面白くなる。」とのことで、概ね予想通りの答えが聞けて一安心。説明がないのは意図的で、行けばなんとかなるだろうというジブンの判断は正しかった。それと同時に、これは作編曲家の「奏者を想定して譜面を書く仕事」とかなり目線が近いとおもった。小林さんは「確かにそうかも。信頼関係があるからできることですね~!」と笑った。
三拍子のおふたりは幕張で仕事を終えてからの会場入り。4人が揃ったのは開演30分前くらいでした。ここでも久保さんは(単独公演に向けたバンドとの合同稽古のときと同様に)ずっと楽しそうにおしゃべりしている。ぼくに向けて喋ってくれるシーンも多くあり、ほんとうにその場にいるひとたちを不安にさせないひとなんだなぁと感じた。一方で高倉さんはずっと関係各所に連絡をしていたり何か考え事をしているふうだったりと対照的でとても静かで、喋ったとしても久保さんよりずっと小さな声でぼそぼそと喋るかんじ。このバランスで20年以上いっしょにやってきたんだな~としみじみ。なんだろう、熟年夫婦ってこういうかんじなのかな、なんておもったり。
白石はふたりに訊ねる。「今回の衣装は普段着ですか?ステージ衣装ですか?」と。トークライブだから普段着で気楽なかんじでやるけど、なんで?と聞かれる。白石はお気に入りの普段着で来つつ、単独公演のときと全く同じ衣装も持ってきていたのだった!白石の説明を聞き「まじめ~」と声を揃える御三方。勝手の知れない場面には周到な白石。そうだす、わすはまじめだす。
開演の数分前になってようやく小林さんから大まかな段取りが説明される。それも「曲鳴ったら三拍子ふたりは舞台上手へ、私は下手に座ります。なるさんは数分後に呼び込むので私の隣に座ってください。前半はあまり喋る機会がないかもしれませんが飲み食いしながらいっしょに見ていてくれれば大丈夫です。」とかいう程度の説明だ。高倉さんが「芸人でも人数集まると一言も喋らないことあるんですよ~。みんなからつっこまれて盛り上がるんです。」と付け加える。どうやら二部制っぽいことと、舞台上で飲み食いができるらしいことがようやく判明する。すげぇな!

・開演、知らない世界
名前を呼ばれて舞台に出る。どうしたって緊張する。というか会場入りしてからずっと緊張している。素人ひとりが喋りのプロ3人に囲まれている現状。いっしょにものづくりをした関係という経歴上なんとなく近しい間柄みたくなってるけど、ジブンのフィールドに置き換えたらSAKEROCKに囲まれているくらいの大事件だとおもうんですよ。まぁ当然、芸人から見て専門外のひとが専門外のことについて喋るというのが肝なわけですから、ぼくは自然体のままきちんと流されていればいいのだと分かってはいたのですが、それにしたって余にも一杯一杯で、なんかもう、聞かれたこととか話したこととか、正直よく覚えてないです。なんとな~く、「あっ三拍子も小林さんもお客様もたのしそうで私もたのしいきがする、しあわせかも」みたいなかんじで、ふわふわしていたような、そんな覚えがあるような気がするかもしれない。芸人の反射神経の良さに圧倒されたことと、唐揚げとレモンサワーのコンビがおいしかったことは鮮明に覚えているのですが。
あ、そうそう。舞台上で飲み食いができるシステムなんですが、舞台のテーブルの上には客席と全く同じようにメニュー表や割りばしお手拭きが置いてあって、我々のところに「700円までドリンク・フードと引き換えできる券」が数枚置いてあって注文ができるんです。そしてこの700円の券はお客様からの差し入れで、我々出演者は券に書かれた差し入れいただいたお客様の席番号を読み上げてお礼を言う仕組みになっているんです。ぼくはこの仕組みを理解するのに1時間かかってしまって、前半に注文した際にお客様を紹介できなかったのが申し訳なかった~!差し入れくださったのがワイワイ飲みに来てたオワリズム弁慶の連中とかだったら良かったんだけど、ぜんぜんそうじゃなかったみたいなんです。しかも出演者4人の中でぼくがいちばん多くこの券を持っていた!なぜ!?にも関わらずきちんとお礼を言えなかったのがほんまに心残りなので、もし差し入れしましたというニキネキがいらっしゃいましたら今度会ったときおしらせください。直筆サイン入りピックを差し上げます。白石はキーボーディストの分際でピックを持ち歩いています。
そういえばオワリズム弁慶のメンバーが7人くらい来ていましたが、あいつら当たり前みてぇにチケット買って観に来てるんですよ。チケット発売日に「基本的にはファンの方のためのイベントだから・・・」と説明したのですが「はぁ?私たちは既に三拍子のファンなのですが?」みたいな態度を取られて何も言い返せなくなってしまいました。いい話。

・終演、そして現実へ
ジブンはただただ圧倒されふわふわしていただけだったので、「いいこと言ってやったぜ」「面白い話ができたぜ」みたいな手応えが殆どなかったです。次元が異なるとね、「あそこは頑張ったよね」とか「あそれは反省だったな」みたいなことすらね、出てこないんですよ!そんなかんじ。でも終演後にオ弁慶のやつらがすげぇ喜んでいたり(10年くらいいっしょに演奏してるキーボード担当のバス☆ガイドが「なるくんが緊張してるところ初めて見ました。見られてよかったです。」と言っていました。)、お客様からも面白かったとかお疲れ様でしたとかありがとうとか声を掛けていただけて、無自覚ながら役目は果たせたのだろうとおもえましたし、そんな自己評価なのに面白い舞台にできるプロどもは本当にすごいなぁ、あっこれはジブンのフィールドに置き換えると「ドラムとベースが上手いと何弾いても大丈夫」みたいな話に近いかも、なんておもったりもしました。
終演後もオ弁慶の連中としばらく残って飲み食い。お客様も帰ったあと、そこに高倉さん小林さんも加わって色んな話が出てくる出てくる。「それさっきみんなの前で言えよ~!」というのが5回くらいありました。
近々また会いましょうと話して会場を出て終電で帰りました。電車に乗るころになってようやく緊張が解けるのを感じた。家に帰ってシャワーを浴びて寝て起きたら10時間経ってました。おっさんだから慣れないことするとすっごく疲れるんスね。

こうして一晩経って振り返ってもまだちょっと夢見心地というか、なんかすごい時間だったよな~という具体性のないきもちになります。知らない世界に飛び込んで、いや、飛び込んだというより水面のほうから上がってきて浸かっちゃったようなかんじかな。

「水面のほうから上がってきて浸かっちゃったようなかんじ」のイメージ

ともあれ、この「これでもか!!!」開催数か月前からきのうまでの期間にあったあれこれは一生忘れられないような、今後生きていく上でものすごくいい仕事ができた現場の具体例として真っ先に挙げるある種の基準になるようなものになったのではないかとおもいます。間違いなくいままで音楽やってたなかでいちばん大きな成功体験だった。これを超える何かが起きるイメージがいまのところできないもん。でもきっとこれがずっとぼくの心の支えになるのだろう。

終演直後の楽屋にて(撮影:高倉さん)

今回はここまで!

貴重な機会をくださった三拍子の高倉さん久保さん、構成作家の小林さん。応援に駆けつけてくれたオワリズム弁慶のみんなとネロ吉さん。会場にお越しくださったお客様、会場スタッフの皆様。みんなみんなほんとうにありがとう。ほんの10年も前にはまるで想像もできなかったような日々のなかにいます。

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