略奪無罪

2015年8月河南省の南部を通る高速道路"焦桐高速公路"で、トラックが横転する事故が発生した。幸いにしてトラックの所有者で運転していた「辛(しん)さん」にけがはなく無事だったが、荷台に満載していた20トンのリンゴが路上に散乱し、辺り一面はリンゴで埋め尽くされた。リンゴ満載のトラックが横転したとの情報はいつの間にか周辺の村々に伝わり、地元農民の老若男女が群れをなして次々と事故現場へ駆けつけた。

 辛さんは農民が集団で駆け付けてくれたことで、リンゴの回収を手助けしてくれるものと期待したが、あにはからんや、農民たちの目的は手助けすることではなく、略奪することだった。彼らは意気消沈している辛さんには目もくれず、リンゴを拾い集めては持参した袋やかごに詰め込み、それが一杯になると家に持ち帰り、また戻って来た。辛さんは農民たちに「止めてくれ、俺のリンゴを取らないでくれ。良心があるなら、俺に生きる道を残してくれ」と叫んで、略奪を止めるように何度も懇請したが、彼らは聞く耳を持たなかった。この事態を伝え聞いた新聞記者が事故現場へ到着したのは事故発生から8時間後の午後2時半であったが、その時点でも依然として数十人の農民がリンゴを拾っており、その多くがすでに6時間をリンゴ拾いに費やしていた。

地元の数人の警官が駆け付けて、農民たちに略奪を止めて速やかに立ち去るよう要請した。しかし、農民たちの多くは何が悪いと言わんばかりに立ち去りを拒否して略奪を継続し、中には多数のかごにリンゴを詰めて運搬用の車両の到着を待つ者までいた。自然災害が起こると直ちに人災が発生するケースはインドネシア津波でも見られたが、被災者を襲う人間たちには、恐怖の刑罰か、もしくは、正しい宗教が必要だと思わざるを得ない。

「世界鑑測 北村豊の『中国・キタムラリポート』」より。

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