見出し画像

【映画感想39】模倣の人生/ジョン・M・スタール(1934)

咎められるべきは誰なのか


前回見た「フランケンシュタインの花嫁」に関わっていた、ウィリアム・ハールバックが脚本担当。

幼い娘のペオラを抱えた黒人女性のデリラが、出会った白人女性のベアトリスの家で家事手伝いとして働き出す……という話。

黒人と白人が交流を深める映画といえば、黒人側が差別を受けるシーンが絶対に入るイメージがあったのですが、この映画のすごいところは直接的な差別のシーンをいれずに人種差別の重さを表現している所だと思います。

黒人と白人の2人のシングルマザー、デボラとベアトリスは良い関係を築いていているように見えるんですが、その裏にはどうしようもない絶対にわかりあえない部分があることが明言はされないけどうっすら見えるのがすごい映画でした。

デリラの娘ぺオラ(白人の血が入っており黒人だな肌が白い)とベアトリスの娘ジェシーは一緒に仲良く育つんだけど、ある日ぺオラが泣いて帰ってくる。

ぺオラは「ジェシーが自分のことを黒人だと言った」と言う。

それを聞いたベアトリスは顔色を変えて、
娘のジェシーを「なんて酷いことを言うの!」って言って叱るんだけどそもそも黒人が悪口であると認識していなければこんなセリフ出てこないんだよね(実際、ジェシーもなんで泣くの……?って顔で「そんなつもりなかった」という。差別の意図はなかったんだと思う)

そしてそんなベアトリスを「謝る必要はない」と止めるデボラが、

彼女には責任はありません。奥様やわたしにも。咎められるべきは誰なのか、神様にもわからない。

というのが印象的でした。

また、彼女たちが対等であるようで対等ではないことを示していたもうひとつのシーン。

ふたりのビジネスが軌道に乗って、ベアトリスがデボラに「あなたも自分の家を買えるわよ!」と言うシーン。デボラが「わたしを追い出すのですか?」と困惑し「だって奥様達のお世話をしないと…」と続ける。

ベアトリスはまあデボラったら、と微笑みと冗談まじりに流すけど、デボラにとってはデボラとベアトリスの関係は友人ではなく家政婦と奥様で、
ベアトリスはそのことについて疑問はとくに抱いてしていないんだなあ……とわかってしまい悲しくなりました。
ベアトリスはデボラに親切で、心配もするんだけど、「デボラとふたりのビジネス」としてデボラに売り上げを分けていながら絶対にデボラを社交の場や矢面には立たせない。
しかしそれについても疑問は一切持ってない。

たとえ意識して差別をしなくても、
どれだけ敬意をもって対等に接しようとしても、無意識レベルで白人は黒人を「黒人」だと思っていて、黒人は自分を「黒人」だと思っている。

積み重ねた歴史が価値観に刷り込まれているというどうしようもない悲しさがこの一連の流れに出ているような気がしました。

デボラの娘ペトラが家出をしたのも、黒人と呼ばれることに幼い頃から過剰に反応していたのも、見た目で白人として扱われることがあったからこそこの呪いに気付いたからかも知れない。優しさの中にもある無意識の差、大事な人たちとは真の意味で対等にはなり得ないと言う絶望から出た言葉が、「I wanna be a white」だと思う。

またこれを象徴するようでぞくっとしたカットが、中盤でデボラとベアトリスがおやすみ、と言いあって別れるシーン。
螺旋階段を引きでみたアングルで、きれいなドレスを着たベアトリスが上階に、私服のデボラが下の階に消えていく。
直接的な演出でありながらめちゃくちゃ皮肉がこもったカットだな……と思いました。
悪意がない区別と差別の差はどこにあるんだろう。

現代日本にも、男と女、社長とホームレス、大人と子供、あらゆるところでこれくらいの呪いがたぶん溢れている。蓄積された歴史という意味ではなく、する側もされる側も自覚していないと言う意味で。

「自分は差別なんかしないし、人種に限らず対等に接する理性のある人間だ」という自覚のある人に対して「ほんとうに?」という疑問を投げかけてくる映画でした。

本当にそこに差別はないか、
本当に咎められるべきは誰なのか。


★公開当時のアメリカについて
1934年から実施され、名目上は1968年までアメリカ映画界では【ヘイズコード】という自主規制条項があったそうです。

(wikiによると「一部の映画を不道徳だとして非難する団体などに対抗してハリウッド作品の上映を保証するため、業界側が自主的に導入したガイドライン」)

これは性と暴力以外にも「異人種間の交渉は禁止」という項目があり、白人と黒人の恋愛はもちろんタブーだったとのこと。

この映画の公開がちょうど1934年なので、

今回はあくまで恋愛ではなく同性の「友情」だったからOKだったのか、ギリギリヘイズコードをすり抜けたかはちょっとわからない。

ただ、これを知った上でアメリカ映画を見ると他にも見えてくるものがありそう。ちょっとおぼえときたい。




★参考


https://filmarks.com/movies/12396


https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ヘイズ・コードな

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?