彼の想いと叫びは 虚しく空へ散った
※ 遊戯王ネタちょいあります。
プロローグ
「おっ、今日も来てるな」
学生時代のある日の昼休み、構内をぶらぶらしていた私は、とあるものを目にした。
大学構内の中央に、献血バス(フラグ1)が停まっていたのだ。
当時私が通っていた大学には、1~3ヶ月に1回ぐらいの頻度で献血バスがやってきていた。
朝早くやってきて受付などのセッティングを開始し、1限が始まる前ぐらいの時間から夕方まで「献血にご協力お願いします!」と訴えかけていた。
ちなみに私、人生で1回だけ献血をしたことがあるのだが、これがまた大騒動になった。機会があれば書きたいと思う。今回は割愛する。
※ カイジの鷲巣麻雀ではありません。確かに私も闇に降り立ちましたが、天才ではありません。
二度と献血だけはするまいと心に決めていた私は、善意に満ち溢れた学生で賑わう献血バスを横目にサークルの部室に向かった。
強靭! 無敵! 最強!
部室に入ると、次の講義まで空き時間がある後輩達がトランプで遊んでいた(フラグ2)。
「あっ、視世さん!」
私の来訪に気づいた後輩の1人が、なぜかニヤニヤしながら声をかけてきた。
「僕と神経衰弱しませんか?」
ご存知の方も多いであろうが、念のために記しておこう。
それにしてもこのゲームに「神経衰弱」って名前つけた人、どういう神経してるんだろう?
「神経衰弱」って、精神疾患に関わる医療診断名だぜ?(余談)
閑話休題。
どうやら勝負を挑んできた後輩は、記憶力にかなりの自信があるらしい。
当時我々が部室でゲームをおこなう際、普通に勝負するだけではおもしろくないので、白熱した勝負にすべく罰ゲーム(フラグ3)が設けられることが多かった(※ 多かった、とか他人事みたいに言ってますが、主に罰ゲームを設けていたのは私)。
※ 金銭に関わる罰や公序良俗にひっかかる罰は禁止していた。母親のお腹の中に置き忘れてきた良心がちょっぴりだけ残っていたようだ。
なんでも、いつも勝負に負けては罰ゲームを受けているため、自分の得意な内容でリベンジしたいとのことだった。
遊戯王のインセクター羽蛾かよ!
「ひょひょひょひょひょひょひょひょひょひょひょひょ・・・」って笑い声が聞こえてきそうだぜ!!
しかしここで中タイトルを思い出してほしい。
「強靭! 無敵! 最強!」
実は当時の私、罰ゲームがかかった勝負では負けたことがなかった!
さあ、デュエルスタンバイしようか!(違)
「こうすればよかったんだ!」と手札を捨てられないことを祈るZE!(※ インセクター羽蛾ネタ引っ張りすぎ)
勝負の行方は…!?
「負けました……」
後輩の敗北宣言が部室に流れた。
圧勝でした。
最後まで続けることなく、過半数のカードを私が手中に収めたため、後輩は潔く敗北を認めた。
……いや、強すぎだろ私!
いくら罰ゲームかかってるからって、本気出しすぎじゃない!?
しかし勝負は勝負。
罰ゲームについては「勝者が敗者に好きなことをやらせる」という内容だったため、私は頭をフル回転させた。
最初の自信満々だった姿は鳴りを潜め、後輩は「どんなことを命ぜられるのだろう……」とビクビクしながら私を見つめていた。いやん、照れるじゃないのっ!
「あっ、そういえば……」
思案していた私の頭に、数十分前の光景が過った。
「よし、お前、献血してこい!」
「えっ? けんけつ?」
私の言葉に、場にいた全員がキョトンとしていた。
「今日、献血バスが来てるだろ? 体調が悪くないなら献血してきてよ」
体調まで気配りできるなんて、視世さんステキ!!
……なんて言ってくれる後輩はもちろんいない。ちくしょう。誰か優しくしてよ!
ちなみに、「えっ!? それだけでいいんですかぁ?」と喜ぶ後輩でもない。
全員が全員、「視世さんが、そんな善意に溢れた罰ゲームをさせるわけがない!」という眼差しだった。ねぇ? 偏見強すぎない?
確かに普通に献血させるわけじゃないんだけどさ。
「100mぐらいダッシュして息を切らせて、受付で腕まくりして、さも大事故が起きて緊急で血が必要になったみたいに献血するんだ!」
ついでに、受付で言うべきセリフを伝授した。
これから献血をするというのに、顔面から血の気が引く後輩。
おそらくは実践している光景を想像してしまったのだろう。
もうすぐ昼休みが終わるという時間帯だったので、構内中央にズデーンと鎮座している献血バスの周囲には、さぞ学生が溢れていることだろう。
ニヤニヤが止まらない。
ちらりと私の様子を伺う後輩だったが、ニヤニヤしてる私を見て「あっ、これ、やるまで納得しないやつだ……」と悟ったらしく、しぶしぶ重い腰を上げた。
罰ゲーム、執行!
『じゃあ、行きますね……』
携帯電話から、後輩のスタートの合図となる声が聞こえた。
えっ? 何で通話してるのかって?
近くにいたら私まで変な人だって思われちゃうでしょ?(←元凶)
献血バスと後輩の距離はしっかり100mぐらい取られている。健気!
ちなみに私は、やり取りをしっかり傍受できるよう、やや献血バスよりの物陰から覗いていた。
深呼吸を1つして、後輩は全力で走り出した。
構内を全力ダッシュする人間など滅多にいないため、その時点でけっこうな注目を浴びていた。
全力疾走の彼は献血バス横に設けられた受付に到着し、本気で息を切らしながら、腕まくりをして叫んだ。
「ぼっ、僕の血をっ! 使ってくださぁ~~い!!!」
辺りは一瞬の静寂に包まれた。
そして静寂は一瞬で爆笑へと変わった。
残酷な結末
ここから先は、実際のやり取りをお送りしよう。
受付の女性「ぷぷぷぷぷ……(必死で笑いをこらえている)」
後輩「………(顔真っ赤)」
ここで受付のおっさん(立場が上の人?)が立ち上がった。
おっさん「はっはっはっ! 君、元気がいいね!」
後輩「はっ、はぁ……(顔真っ赤)」
おっさん「でも悪いね! 学生さんの昼休みが終わったから、おじさん達、今から休憩に入るんだ!」
後輩「……えっ?」
おっさん「だから悪いね、また14時くらいに来てくれないかな?」
後輩「えっ……?」
なんと彼は、あそこまで全力でやった挙句、献血できなかったのだ!
おっさんとのやり取りが聞こえていたのであろう、辺りは再度爆笑に包まれた。
後輩は、受付する前のダッシュよりも速いスピードで部室へと走り帰った。
オリンピック狙えそうなぐらい速かった。
お前の血は何色だぁっ!?
私は場の雰囲気をひとしきり堪能して、ゆっくりと部室に帰った。
部室のドアを開けると、いまだ真っ赤な顔の後輩が俺を待っていた。
「やっ、やりましたよ……」
「うん、知ってる。ちゃんと見てた」
「でしょうね……」
小さく呟いた彼は、当たり前の感想を続けた。
「あぁ~、恥ずかしかった……」
うん、そうだろうね。
彼が走り去っても、しばらくは笑い声がやまなかったもん。
その時、部室にこんな声が流れた。
「ぼっ、僕の血をっ! 使ってくださぁ~~い!!!」
真っ赤だった後輩の顔が、一瞬で真っ青に変わる。
「視世さん、、、まさか……?」
「うん、ちゃんと撮ってるよ」
真顔でガラケーの画面を後輩に見せつける私。
画面には先ほどの一部始終が動画で流れていた。
「お前の血は何色だぁっ!?」
南斗水鳥拳の使い手のようにツッコむ後輩。
ちなみに私の血の色は赤い。ちゃんと赤い。人間っていいね。
エピローグ
心優しき健気な後輩は、ちゃんとおっさんとの約束を守って、14時ぐらいに献血に行っていた。普通に。
残念ながら私は所用で立ち合えなかったのだが、受付のお姉さんとおっさんからめちゃくちゃ笑われたらしく、耐えきれず罰ゲームだったことをバラしたらしい。
ついでに私のことだが、サークルの部長から怒られた。
なんでも、「やりすぎ!」とのこと。
挙句の果てには
「視世ってさ、よくあんなこと思いつくよね? 悪魔の子なの?」
と、部長からも人間かどうかを疑われた。私の血は赤いことを力説した。
動画は無理矢理削除させられました。
終わり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?