市内の中心で、鼻メガネとさけぶ
プロローグ
夜、街を歩いていて職質(職務質問)されていた。
いつものことだ。風貌が怪しかったのだろうけど、自分ではよくわからない。羞恥心と一緒に、怒りはどこかへ流れていった。
……と、冒頭から名作中の名作【世界の中心で、愛をさけぶ】を思いっ切りオマージュしてみた。いいですか、オマージュですよ? パクリとか言ってはいけません。汚した、とか言ってもいけません。
今回の話、学生時代の私の体験談だ。
タイトルが実は100%のネタバレであり、某県市内で誰かが「鼻メガネ!」と叫んだだけの話。
ハンカチやタオルなんて必要ない。
涙なんて一滴も流れないのだから。
千鳥足の銀髪野郎
「今日こそは飛べる気がするっ!」
夜の繁華街、銀髪のヤンキーチックな男性が狂ったことを口にしながら歩いていた。
銀髪の男性は、目つきが悪く、耳のピアス穴にはお洒落なピアスではなく釘が刺さっていた。彼なりのお洒落のつもりなのだろう。
大量にお酒を飲んだのか、ご機嫌な千鳥足で繁華街を闊歩していく。
先の発言と相まって、アブないクスリをやっているようにも見えてしまう。
などと小説風に書いてみたが、これ、学生時代の私です。すんません。
典型的な大学デビューだった私は、調子に乗って髪を様々な色に染めてみたりしていたし、ピアス穴をあけたはよかったものの、お洒落なピアスを買うお金がないことに気づき、部室に転がってた釘を刺していた。
※ ちゃんと煮沸消毒しましたが、不衛生なので絶対にマネしないでください。
話を元に戻すが、当時の私がご機嫌さんだったのは理由がある。
居酒屋の少し広めの部屋を貸し切って、とても仲が良い友人の誕生日会をやった日の帰りだったのだ。
友人には「誕生日だろ? 居酒屋で飲もうぜ!」ぐらいの誘い方をしていたが、呼べるだけの人数を呼び、各自こっそり練習してきてもらった余興で大いに盛り上がった。
友人は感動のあまりむせび泣き、参加者の数名はもらい泣きしたり、またある者は感動を誤魔化すようにお酒を飲んだりしていた。
ちなみにその時の私は、居酒屋の店主から「一味(唐辛子)を使うにも限度があるだろ!」と怒られていたのだが、それはまた別の話(※ 書きません)。
忍び寄る影
しかし、ご機嫌さんだった私に忍び寄る影が。
「お兄さ~ん、ご機嫌なとこすみませんけど、ちょっといいですかぁ?」
知っている、私は知っているぞ!
明るい声で近づいてはくるが、何もかもをぶち壊しにしてしまう声の主を私は知っているのだ!!
ポリスメーーーーーン!
そうです、国家権力です!
いつもなら「ご機嫌な時になんだよっ!」とチクリと言い返したりするのだが、この日の私はあまりにもご機嫌すぎたため、「普段の反骨精神は魔封波で電子ジャーに閉じ込めちゃったの!?」と驚いてしまうぐらい従順に応じた。
「ご機嫌です! 何でしょうか!?」
この辺り、「noteに書くためにおもしろおかしく脚色してるんでしょ?」と疑う読者様もいるかもしれないが、ノンフィクションのセリフだ。
「あっ、はっ、はぁ……あのですね。。。」
声をかけてきたくせにドン引きしていたあいつの顔を、10年以上経った今でも鮮明に覚えている。
ドン引きしながらもヤツが切り出したのは、案の定職務質問だ。
しかし私に後ろめたいことはない!(※ わかるでしょうがフラグです)
髪を鮮やかに染めて酔っ払って夜の街を歩くことが多かったから、職質にも慣れっこだったからどうってことはない!(※ イバることではありません)
名前や年齢(成人済)等、聞かれたことに素直に答える私。
なんてったって、後ろめたいことはないのだから!(※ 盛大なフラグです)
手荷物
銀髪で耳に薄汚れた釘(煮沸消毒済)を刺した、一見するとヤンキーにしか見えない若者が何でもスラスラと答えるものだから、警官は質問しながら面食らっていた。
まあ、後ろめたいことは何もないから素直に答えただけだけどね!(※ しつこいようですがフラグです)
もう聞くべきことは十分に聞いたのか、警官は最後と言わんばかりにこんな質問をしてきた。
「差し支えなかったら、最後にその荷物の確認だけさせてもらっていいですか?」
私は手にバッグを持っていたため、警官がそれを指さしたのだ。
「えっ、これですか? もちろんいいで、、、、、」
いやっ、ダメだ!
これだけは見せてはいけない!!ってか見せたくない!!!
酔いが一瞬で冷めた。
私は(よせばいいのに)バッグを後ろ手に隠して言った。
「あっ、いやっ、これはっプライベートなもんなんで……」
警官の目がギラリと光った気がした。怖い。
「どうされました? 見せられないものでも?」
「べっ、別に、見せれないってわけじゃないですけど、た、大したもの入ってないんで……」
警官の疑いは止まらない。
そりゃそうだ、書いてて自分でも思ったけど、怪しすぎる。
私が警官だったとしても123%疑う。
おそろしく早い手刀でも見逃さないんだから、こんなに緩慢なバッグの隠し方、オレじゃなくても見逃さないね!
中身と叫び
しばらくの間、不毛なやり取りが続いた。
私は何としてでも見せたくなかったのだが、警官が怪しみに怪しんで応援なんて呼んじゃいそうな雰囲気を醸し出していたので、しぶしぶ折れるしかなかった。
「あ~、もうっ! わかりましたよっ! 見ればいいでしょう、見ればっ!!」
乱暴にバッグを警官に投げて渡した。
勢いに紛れて走って逃げたかったが、そうなるとバッグの中身うんぬんではなく追いかけられそうだったので我慢した。
ジーーっとバッグのファスナーが開けられる。
いや、なんていうか、その、、、逃げたかった!!
ここでタイトル、ドンッ!!
「鼻メガネっ!!?」
市内の中心で、「鼻メガネ!」とさけんだ。
警官が。
いや、そりゃそうよね、叫ぶよね。
だってキモいもん!
大量に鼻メガネが入ってる光景もキモけりゃ、成人済の男が大量の鼻メガネをバッグに詰めて持ち運んでること自体もキモいもん!
「鼻メガネ……?」
2回目は叫ばず、小声だった。
【市内の中心で、鼻メガネとさけぶ】
映画かしたらみんな見てくれるかなぁ?
全米は泣いてくれるかなぁ?
興行収入、制作費の元を取れるぐらいはあるかなぁ?
エピローグ
「…………ごめんなさい」
その日、警官は素直に謝った。
数多の警官と相対してきた私だからわかるが、警官が素直に謝ることは少ない。自分に非があっても、大体は「でも、疑われるような行動をしてるから~」みたいな感じでうやむやにしようとしてくる。
しかし彼は謝った。
素直に謝った。
決して私の目を見はしなかったけど、心から謝っていた。
でも、目を見て謝ってくれなくてよかった。
酒を飲んでも赤くならない私の顔は、その時は確実に真っ赤だったはずだから……。
終わり
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