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【読書】責任
浅野皓生. 責任. 角川書店, 2024
稀に、操作ミスとほとんど区別のつかない気まぐれでFacebookを開く。いつ始めたのか全く覚えていないが私にとっては主に2010年代の人間関係が冷凍保存された場所になっている。解凍したところで腐っていては食えない。
揮発しかかった人間関係のなかで、中高時代の国語の先生が勧めていた1冊の本が表題のもの。思えばたかだか50分の授業で高校生にも手が届く色々な本を紹介してくれた。子どもにも手が届くというのは、子どもと過ごしていても案外よくわからない。自分が子どもの頃には想像がつかなかったことのひとつだ。大人になったら、子どもが飛びつくような本をどんどん挙げられると心の何処かで思っていた。だって自分がいま飛びつくような本は本屋に行けばわかるのだから。実に子どもらしい発想だった。
本作は12年前の強盗傷害事件の加害者の遺族と、加害者が亡くなる逃走事故のきっかけになった刑事の命日の墓参りでの邂逅からはじまり、解決したはずだった事件を遡っていく。米津玄師が脳内で流れそうなよくみる筋立ても、不慮の事故が主人公の行動原理にも組み込まれ、地理的にもまとまっていてよい。そのうち世田谷ミステリとか、駒場ミステリとか呼ばれるのかもしれない。先の国語の先生は「ページをめくる手が止まらない」と聞き飽きた帯コメントのような紹介をしていたが(内容に触れずに推薦するとそうなる)、初見の感想はミステリタイムアタックだった。イベントフラグを立てるための最短経路で聞き込みながら、邪魔立てや主人公の不可解な行動や異様に長く反れた回想も行けない場所も駆け引きも色恋もなく、様々な可能性を潰して真相に迫る。ホラーも投稿される賞であればそのポケットサイズの手堅さはより目立つだろう。みんなの2番手というやつ。サスペンスがないせいで謎解きというより運動や作業に近いが、むしろ単調なのは持ち味として活かした方がいい気がする。葛藤やキャラクタを掘り下げるよりも時系列と立場のズレた2人の登場人物の謎解きが後半に繋がっていく、ただし全てミスリードで結末は冒頭に書いてあった、みたいに淡々とした文体で展開を複雑にするのが作者は向いていると思う。ミステリの悪口じゃないよ。