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ポッドキャスト業界に異変? どんどんオシャレになるカバーアートたちの理由とその効果を調べてみた。

実は、趣味でポッドキャストを配信している。一般の人でも手軽にしゃべって、届けられるラジオのようなものだ。そのポッドキャストについて最近ちょっと不思議に思っていることがある。

ポッドキャストには「カバーアート」と呼ばれる番組の看板みたいなものがある。本の表紙やCDのジャケットみたいなものだろうか。番組の印象に少なからず影響を与えるものだと思うのだが、なんか、最近のポッドキャストはカバーアートがどんどんおしゃれになっているような気がするのだ。

昔と比較してみると、以前はこんなのだったのが、

以前のポッドキャストのカバーアート一覧

いまはこうなっている。

最近のポッドキャストのカバーアート一覧


はたまた、こんなのだったのが、

以前のポッドキャストのカバーアート一覧


いまはこうなっている。

最近のポッドキャストのカバーアート一覧


デザインについては専門家ではないのでよくわからないのだが、なーんか、いい感じになってるなと思う。

気が付けば、自分もポッドキャストを聴く機会が増えた。まわりでも聴く人が増えているように感じる。それもこれらのカバーアートの影響なのではないか。

そこで、このカバーアート、ポッドキャスト番組にとってどれほど重要なものなのか、オシャレなアートワークはどうやってつくればいいのか、そのへんをプロに聞いて掘り下げてみたい。

いまからポッドキャストをはじめようという人や、すでにやっているけど、もっとがんばりたいよ、という人はぜひ読んでいってほしい。ポッドキャストだけに限らず、クリエイティブな仕事に関わっている人たちであれば、伝え方のヒントが得られる記事になっていると思う。


※ この記事はアドビのPR企画「みんなのデザインチャレンジ」に参加して書いています。 

カバーアートは「第一印象において、とんでもなく重要なもの」

さて、いろんな疑問が頭にあるなかで、僕が訪問したのがこちら。

東中野にあるクラフトビールとポッドキャストのお店「雑談」である。

ここはクラフトビールがおいしいバーでありながら、店内にポッドキャストのスタジオも備えている。オーナー・店主はみんなポッドキャスト関係者、お客さんもだいたいポッドキャスト配信者かリスナーという濃い場所なのだ。

つまり、東京におけるポッドキャストの聖地のような場所だ。

迎えてくれたのはポッドキャスト歴17年のSHIBUさん。「ポッドキャストのカバーアートってどう思います? 重要なのあれ?」とさらっと聞いてみると、「重要度で言うと、もうとんでもなく重要だと思います。あそこにこだわらないと、そもそも番組を聴いてもらえないですから」とド直球で返してくれた。

トッキンマッシュ」というポッドキャスト番組を2006年からやっているSHIBUさん。「雑談」のオーナーであり、本職はデザイナーだ。

「いまはすごい数のポッドキャスト番組があります。そこで、これからリスナーになるかもしれない人たちが未知の番組を聞くかどうか判断するときに、番組の名前とカバーアートくらいしか情報がないんですよ

なるほど。どれだけ面白い内容だったとしても、まず聞いてみようと思わないことには始まらない。興味を持ってもらう“つかみ”としてカバーアートはとても大事ということだ。

だからこそ、だんだんとオシャレなものが増えているのだろうか。

「たしかに最近のポッドキャストはどれもアートワークがかっこいいですよね。昔は誰でも簡単にデザインできるツールやサービスがなかったですし、Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorなどのプロ向けツールを使う人だけが多少良いものを作れていたのかもしれません」

おっしゃる通り、いまは誰でも簡単にいい感じのイラストがつくれるサービスがある(後述)。それに、簡単にプロフェッショナルの人に安価に頼むことができるクラウドソーシングなども整っている。

といった事情から、ちょっと前まではみんな手作り感のあるカバーアートをつかっていたわけだが、そんなポッドキャスト界隈に2019年、大きな事件が起きた。

第一回ポッドキャストアワードの開催だ。

武田鉄矢のカバーアートがオシャレになった!?

ポッドキャストアワードとは、「今、絶対に聴くべきPodcast、見つけよう」というキャッチコピーではじまった、日本で初めてのポッドキャストの賞レースである。

このアワードによって、ポッドキャストの歴史を変えるようなとんでもないことが起きたのだ。言うなれば、「ポッドキャストオシャレ革命」(ださい)である。

第一回のノミネート番組たち

ポッドキャストがにわかに盛り上がり出した2019年末に告知がはじまり、翌2020年春に第一回受賞作が発表された。

「このアワードが開催されたことで、ポッドキャストにおいてひとつの指針ができたと言ってもいいかもしれません。ノミネート作品はどれも凝ったカバーアートがついていたじゃないですか」とSHIBUさんは振り返る。

そうだった。僕も当時アワードにならぶ作品を見て、「はあー。いい番組っていうのはおしゃれなんだな」と思ったものだ。

それまでは「アワード受賞作」なんてものはなかったので、なにがすごくて、なにがすごくないのかわからなかった。なにしろランキング上位に入ってくるラジオ番組の公式ポッドキャストだって普通にダサかったから。

ここでSHIBUさん、「全然裏付けとかはないんですけど…」と前置きしながら、こんな話をしてくれた。

「武田鉄矢さんの『今朝の三枚おろし』っていう番組があります。僕、大好きで昔から聞いてるんですけど、もうずっと長いこと、古い武田鉄矢さんの宣材写真が使われていたんですが、たしかポッドキャストアワード前後に刷新されたんです。たまたまタイミングがかぶったのかもしれませんが、すごいエポックメイキングなことだなと驚いたのを覚えています」

武田鉄矢「今朝の三枚おろし」は来春で30周年を迎える長寿番組。

あ。なんかいまっぽくなってる…(笑)

もしかして、ポッドキャストアワードは武田鉄矢すらも動かしたのか。詳細な切り替え時期は不明だが、同じ頃にいくつかの番組がカバーアートを変更したと聞いている。

「そうしてポッドキャストのイメージに少しメジャー感が出てきた2020年、もう1つの大きなトピックとしてSpotifyやAmazonがオリジナル番組をつくって独占配信するようになりましたよね。タレントさんとか著名な方たち、あるいは人気ポッドキャスターさんたちが、そういった冠をつけて代表番組として並ぶようになりました」(SHIBUさん)

そうだった。「ロバートpresents聴くコント番組~続・秋山第一ビルヂング」や「kemioの耳そうじクラブ」などの芸能人の番組に加え、「ヒプノシスマイク」「呪術廻戦」などアニメ連動のものまで、この年以降、さまざまな公式ポッドキャストが出てきたが、その多くがかっこいい。

プラットフォームが公式にプッシュする番組は、僕らのお手本のようなものだ。どれもちゃんとしてるなあ、と憧れのように眺めているうちに自然とそれに感化されて、「よし、自分もちゃんとしたものを作ろう」みたいな動きも出てくるというもの。

SHIBUさんは言う。「ここ『雑談』で、いままで200組くらいのポッドキャスターさんとお会いしてますけど、意識は変わってきていますよ」。

「たとえば友達と2人でいつも喋ってるからポッドキャストやりたいねって始めたお客さん、番組名を教えてもらったら、かわいいカバーアートで、プロに依頼したそうです。『ここにはお金かけないと』なんて言っていたので、ああ、やっぱりそう考えるんだと感心しました」

既存番組もカバーアートを変えるとリスナーが増える

ちなみに僕もポッドキャスト番組をやっている。「ドングリFM」という番組で、はじめたのはもう8年くらい前。当時はまだポッドキャストのカバーなどにこだわる人が少なかった「旧世紀」である。

ドングリFM

ご覧のとおり、むちゃくちゃお手製である。スマホのセルフタイマーで撮った写真にパワポで文字を入れてるだけ。一見して「大昔にはじめた番組だな」とわかるカバーアートだ。

そろそろ変えるべきなのか、それともせっかくだからずっと使い続けるべきなのか。

SHIBUさんがおもしろい情報を教えてくれた。

「僕は以前から検証してるんですけど、カバーアートを変えるだけで新たなリスナーが生まれるっていうのは実際にありますよ。これまで聞いてくれた人はカバーアートが変わってもそのまま聞いてくれるし、まだ聞いていない層にはさらなる印象拡大というか、新しい方へのアプローチになるんです」

要は聞くきっかけをどんどんつくっていくのが大事ということか。

「そうです。なんかリニューアルしたんかな?って。いままで聞いてなかったけど、ちょっと聞いてみようかな? みたいな人もいますし、新規のお客さんとのつながりを生んでくれる可能性はありますね」

そういえば、僕が好きな「ゆとりっ娘たちのたわごと」という番組は、カバーアートだけでもこんな変遷をたどっている。最初に聴きはじめたときはたしか左上のカバーアートだったはず。

ゆとたわ」こと、ゆとりっ娘たちのたわごとカバーアートは左上から時計回りに変わってきた。

こうして並べてみるとたしかに印象が変わる。最初は文字だけしか入っていないシンプルなものだったが、徐々に略称である「ゆとたわ」が浸透していって、現在のアートワークはポッドキャスターとしての枠組みを超えてアーティストとして成長した2人の姿にも見える。

番組とパーソナリティの進化に合わせてアートワークを変えていくのもよさそうだ。

実写か、似顔絵か、それ以外か。

というわけで、本題に入ろう。

ポッドキャストのカバーアートはむちゃくちゃ重要なものであり、だんだんとオシャレになってきた背景などもおもしろい。それらを踏まえて、実際に私たちが新しいカバーアートをつくる上では、まずどんなことを考えればいいのだろうか。

SHIBUさんが言うのは、まず「パーソナリティ」(話す人)をどう表現するかだという。

「パーソナリティに関しては実写を使うのか、実写を元にした似顔絵を使うのか、あるいはそれらを一切排除するのか。おそらくこの3パターンです」

なるほど、ポッドキャストのランキングを見ると、上位の番組はほとんどがパーソナリティの顔写真(実写)が入っている。芸能人や文化人が多いので当然のようにそのキャラクターを全面に押し出している。

とはいえ我々のような一般人は、「うーん、写真載せるのかあ…」と気後れすることもあるだろう。

実際、一般のクリエイターは似顔絵のようなイラストを使うケースが多い。さきほどの「ゆとたわ」もそうだし、僕が大好きでよく聞いている「ゆる言語学ラジオ」もそうだ。

ゆる言語学ラジオ」はポッドキャストアワードで、ベストナレッジ賞とリスナーズ・チョイスを受賞。

彼らはYouTuberとしても活躍しているので当然顔出しはしているのだが、ポッドキャストのカバーアートはイラストだ。よく見ると、2人とも「お口」が大きく描かれている。「きっと理屈っぽくて弁が立つ2人なんだろうなあ」という印象がよく伝わってくるし、実際その通りなのだ。

そうやって眺めてみると、僕の聞いている番組、知り合いがやっている番組、だいたいが似顔絵だ。

似顔絵の番組たち。左上から時計回りに「ほっとテック」「でこぽんFM」「FREE AGENDA」「いきぬき給湯室

似顔絵のタッチによってその番組の雰囲気がにじみ出るような気もする。顔写真はもう「どーん! 本人です!」みたいな感じで余韻が少ないのだが、似顔絵イラストは印象をやわらかくしてくれるし、そのタッチにもメッセージが乗るような気がする。

もし自分の似顔絵を持っているなら、それを使ってみるのがよさそうだ。

さらにもう1つのパターン。「パーソナリティについて全然載せない」というのもある。写真もイラストも載せずに、番組タイトルとちょっとした要素だけというものだ。

これの代表格は僕の尊敬する「Rebuild」という番組だ。

これが「Rebuild

マイクとパソコンを背景に、「Rebuild」と書いてあるだけ。これはこれで硬派でかっこいい。「写真も似顔絵もいらん。おれがRebuildだ」と言わんばかりのカバーアートだ(ちなみにドングリFMのカバーアートはマイクとパソコンを背景にロゴを置くRebuildの構図を真似している)。

この流れなのかはわからないが、テック系の話題を扱うポッドキャストのカバーアートはタイトルだけのものが多いように感じる。

左から「backspace.fm」「Off Topic

このシンプルさ、潔さ、ストロングスタイルである。「聞けばわかる」と言っているかのような自信と迫力を感じる。

もちろんテック系だけに限らない。僕の大好きな「上京ボーイズ」「やいやいラジオ」「メディアヌップ」「かいだん」はタイトルとイラストだけのカバーアートからその番組の雰囲気が伝わってくる。

タイトルメインの番組たち。左から時計回りに「上京ボーイズ」「りっちゃ・りょかちのやいやいラジオ」「かいだん」「Media Nup

この4番組を聴くと、きっとカバーアートの通りの印象を受けると思う。

というわけで、パーソナリティをどう表すか。1)実写、2)似顔絵、3)なし、これらのパターンを選ぶだけでだいぶ印象が変わってくる。

じゃあどんな基準で上の3パターンの中から選べばいいのか。SHIBUさんに聞いてみると、「たとえば2人で番組をやるとして、その関係性ややり取りを楽しんでもらうなら、実写や似顔絵などでパーソナリティを押し出したほうがいいでしょうね」とのこと。

「一方で扱う話題やテーマに切り口が立っていたり、毎回ゲストが異なるといった事情があったりして、パーソナリティのことは気にしないでいいよ、というスタイルなら画像なしでいいと思うんです」

コンセプトがあって、番組名があって、それらを絵にしたものが良いカバーアート

ここまでいろんな番組のカバーアートを並べてみて、ほんのりわかってきたことがある。いいカバーアートは番組のコンセプトがちゃんと反映されたものなんだな、と。

写真か似顔絵か、文字のみか――。そのひとつ手前に「どういう番組にしたいか」があるのだ。「こういうふうに考えているから写真だな」とか、「匿名性を楽しんでほしいから文字だけにしよう」とか、カバーアートをつくるときは結局そういうコンセプトに帰結するのだと思う。

「ビジュアルというものは本来そういうものです。コンセプトがあって、タイトルが決まって、最後にそれらすべてをひっくるめた表現がカバーアートです」とデザイナー・SHIBUさんは話す。

たとえば広告にしても、何か圧倒的なコンセプト、要は「何を打ち出したいのか」っていう要素があって、それがキャッチコピーとして表現される。これがポッドキャストならタイトルだろう。それを電車の中吊りなどで、一瞬見ただけでパッと伝わるようにするのが「ビジュアル」、つまりカバーアートになるわけだ。

だが、コンセプトといってもそんなにむずかしく考えなくていいと思う。シンプルに言えば、「どんな人が話していて」「どんな話題を扱って」「聞いた人にどう思ってほしいか」である。この3つが言語化されていれば自ずとカバーアートの要素はできてくる。

「でもまあ、ここまでいろいろ話しましたけど、結局、自由でいいと思うんですよ。考えたり、つくったりするのは楽しい作業だから。デザインが得意じゃない人だって、いまは自分で作れるサービスが本当にたくさん出てるじゃないですか」

そうなのだ。いまは誰でもデザインできるツールがある。

アドビの「Adobe Express」でつくってみる

音声配信が民主化して僕らがポッドキャストをたのしんでいるように、デザインツールにも民主化が起きている。いまや無料のオンラインツールを使って誰でも簡単にそれなりのデザインができるようになった。

その代表的なサービスが「Adobe Express」だ。PhotoshopやIllustratorなどのプロ向けツールで有名なアドビがエントリー向けに提供している無料のオンラインツールである。

Adobe Express

ブラウザでサインアップするだけですぐに使い始められる。さまざまな利用シーンに合わせたテンプレートが用意されており、ロゴやチラシに加え、Instagramのリール用動画のようなSNSに投稿する素材もつくることができる。

さらにアドビの生成AI「Adobe Firefly」も搭載されているため、テキストで指示をするだけで作品ができたりもする。

ポッドキャストのカバーアート、まずは簡単なものを作ってみるならAdobe Expressがあれば必要十分だろう。

たとえば、もし僕がこれから新しく、一人で毎日その日にあった出来事を喋る「narumiのつぶやき」みたいなポッドキャストをはじめるとしたらどうすればいいのか。

SHIBUさんからは、コンセプトをまず決める。そうすると実写にするか、イラストにするか、パーソナリティの情報は載せずにタイトルだけにするかなどの構成が自ずと定まってくると教わった。

まさしくその通りだ。素敵なポッドキャスト番組はみんなそうなっているだろう。

それに対して僕からはこんな言葉も授けたい。

「さっさとはじめようぜ」

はじめるやつが一番えらい。そして続けるやつがもっとえらいのだ。「コンセプトかあ…」と1ヶ月悩むくらいならさくっと作ってしまおう。

まずはAdobe Expressを開く。

次にどうするか。とりあえず生成AIを使ってみよう。

自分がはじめようとしている番組についてテキストで説明するだけでいい。ためしに「ポッドキャストのかっこいいカバーアートをつくってください。パーソナリティは男性1名」と入力してみた。

ちょうどいい髭面が出てきた。ポッドキャストのカバーアートなので正方形になっている。これでいいじゃん。

あとは適当にロゴを入れよう。左のロゴの欄にあった「Cakes & Bakes」といういかにもケーキ屋さんっぽいのをそのままつかってみる。

僕(ひげが濃い)が1人でつぶやくポッドキャス番組ならこれでいい。

たのしくなってきたので実写版も作ってみる。「自分のコンテンツから開始」のところに写真をアップする。

そしてサイズから「Podcastカバー」を選ぶと、「3000x3000」というカバーアートの標準サイズで作成される。

青森にあった鳴海という名前のラーメン屋さんの前に立つ鳴海の図。

あとはロゴや番組名を入れるだけ。かっこいいロゴを無理やり使うと、すごく変だ!

すごく変だ。

ふつうの文字にしよう…。

で、

はい、できました。LISTENというサービスを使って、さっそくポッドキャストをスタートした。毎日続けていこうと思う。

narumiのつぶやき」という一人語りのポッドキャスト、声日記である。

Adobe Expressを使うと、僕みたいなデザインセンスのかけらもない人間だって、「まあ、やりたいことはわかるよ」くらいのものはつくれるのだ。

もちろん人によってはもっと良いものができるはず。あるいはコンセプトボードをAdobe Expressでつくってみるのもいいかもしれない。よかったら試してみてほしい。

最後にもう1つ有益な話、「エピソードアート」も毎回変えたほうがいい

さて、せっかくSHIBUさんにいろいろお話を伺ってきたので、実は僕がずっと気になっていたことも聞いてみたい。ポッドキャストには番組全体のカバーアートの他に、毎回のエピソードごとにつけられる「エピソードアート」というものがある。

これだ。本当は各エピソードに個別の画像をつけられるのだが…

これって毎回変える人、全然変えない人がいるのだが、どっちがいいのだろうか? 僕はこれまで一切変えてこなかった。1000話以上あるのだが、すべて同じエピソードアートにしてきている。

「変えたほうがいいと思います。これは間違いなく変えたほうがいい」

ここでもSHIBUさんは力強く答えてくれた。

まじすか。で、なぜなのか。

「以前からSpotifyやAmazonはエピソードアートを表示していましたが、最近、Apple Podcastもついに他のプラットフォームに倣って、エピソードアートを表示させるようになったんです」

とSHIBUさん。ほう、つまりどういうことなのか。

「つまりは、プラットフォーム側で“エピソード推し”をはじめているということです。AppleやSpotifyが1話ごとに『これは聞いた方がいいよ!』とプッシュしてくれるということです」

これは興味深い。Apple Podcastを例に出すと、これまでは番組ごとのランキングなどを並べていたが、いまは「こんな話題について話しているエピソードを集めました」という特集的な打ち出し方をしているのだという。

ということは、そのエピソードの内容にあったアートワークを用意したほうが当然、聞いてくれる人は増えるだろう。納得である。

とはいえ、ずっと同じエピソードアートをつけてきたのは、「ぱっと見ですぐわかる」とか「あ、いつもの番組だな」っていう認識の助けになればと思っていたのだが、そのへんは?

「その懸念点は小さなロゴをつくって、右下あたりに必ず表示されるように入れておけば解決します。そうすると番組への滞在時間も増えると思いますよ。毎回のエピソードアートが違うだけで、他にどんなエピソードがあるのかな?って眺めたり、絵でエピソードを選んだり、という行動が生まれるからです。その結果、番組に対するエンゲージメントも高まります」(SHIBUさん)

なるほど。結果として、「写真がきれいだからこのエピソードも聞いてみよう」みたいなことだって起きるわけだ。というか、それを昔からめちゃくちゃ考えてやっていたのが、SHIBUさんの「墓場のラジオ」だった。

墓場のラジオはSHIBUさんが主宰するトッキンマッシュがやっているポッドキャスト番組の1つ。僕の中では「シーズン2」がとても衝撃的だった。

墓場のラジオ Seoson2」は現在、有料でアーカイブされている。

1話ごとに異なるエピソードアートをつけるのは当たり前、さらにエピソード名の頭文字を50音順にして、最後まで終えると「カルタ」になっているという仕掛けなのだ。

エピソード名が読み札、エピソードアートが絵札。かっこよすぎだ。
クラファンで資金を得て商品化された。

これらのエピソードアートは最終的に都内のギャラリーで展示したそうだ。2017年のことである。

「墓場のラジオという番組のテイストに合わせて、古い家屋にアートワークをずらっと並べました。ポッドキャストのことをまったく知らない人が絵の展示だと思って入ってきて、これって何なんですか? みたいになりましたね。デザイナーとしては、ポッドキャストすら知らない人に届けるために、まずビジュアルから攻めるっていうのも醍醐味ではあります」(SHIBUさん)

ポッドキャストアワード開催前の、あの誰もがちょっとダサかった時期に、なんということをしているんだ…あんたは。

しかし、後から振り返ってみると毎回のエピソードアートに共通点があるとか、まさに「カルタになっている」みたいな仕掛けは、純粋におもしろい。こんな遊び方もあったなんて…。

「そうそう。ポッドキャストは遊べるところなんですよ。話す内容はもちろん、カバーアート、エピソードアート、いろいろと遊べる場所がある。たのしみ方は自由です」

こんなふうにSHIBUさんは話してくれた。たぶんこの人は相当たのしんでいる。

SHIBUさんが代表を務める「株式会社雑談」ではポッドキャスト番組制作のほか、アートワーク制作も請け負っている。

みなさんも便利なツールを使って、たのしいポッドキャスト生活を。よかったらおすすめカバーアートなど教えてください。

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