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清龍酒造の蔵元見学ツアーがカオスすぎてたのしいから1度は行ってほしい
先日――。といってもだいぶ時間がたってしまったが、酒造見学に行ってきた。
酒造見学とはつまり、お酒をつくる事業者の酒蔵を見てまわる定番イベント。なのだが、おそらく今回の内容はこれを読んでる皆さんが想像するものとは大きく違っていると思う。
こんな感じであった。
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またはこうだ。
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これが「清龍酒造」という酒蔵の見学会である。
見て学ぶだけではなく、もちろん飲めるし、さらには歌って踊る、非常にエキサイティングな酒蔵見学だった。
ちなみにこの会社、酒をつくって売るだけではなく、居酒屋「清龍」も直営している。
あの“清龍”だ。手頃な価格で酒が飲めることで有名な清龍である。
池袋や高田馬場に数店舗あるので昔はよく行っていた。特に大学生の頃は清龍の安さに助けられた記憶がある。
そんな清龍の、まさか酒蔵に行くことになるとは思わなかった。しかし、これが相当にたのしかった。現在のところ2024年トップクラスのおたのしみイベントであったことは間違いない。
ちょっと詳しく説明していこう。
酷暑のJR蓮田駅に集合
今年は新たな趣味として、10人弱の友人・知人と集まって「マーダーミステリー」というゲームを定期的にやっている。そのメンバーのうち6人でなぜかゲームではなく、酒蔵見学に行くことになった。
メンバー内に清龍の酒蔵見学を何度も体験しているベテランが何人かいて、「あそこの酒蔵見学はすごいぞ」とたびたび聞かされており、それはぜひとも行ってみたい、という流れで決まったわけである。
ベテラン勢の指導のもと予約が無事に取れて当日。6名は清流酒造の最寄り駅であるJR蓮田駅に集合した。
そこは埼玉県蓮田市。まったく行ったことがない地域だったが、湘南新宿ラインで池袋駅から36分。そんなに不便な場所ではない。帰りは赤羽駅で二次会をしよう、などと話しながら酒蔵に向かうべくタクシーに乗り込んだ(路線バスもある)。
タクシーで7〜8分で清龍酒造についた。7月末、ものすごくいい天気でバカみたいに暑い。この日は最高気温37.2だった。
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エアコンがガンガンに聞いた待合室で、見学ツアー開始の12時30分まで待機。このあとの流れとしては1時間弱の酒造見学ツアーがあり、その後に2時間ほどの「宴会」があるのだという。
ちなみに一緒に行ったメンバー6人のうち、3名は何度も酒造見学を繰り返している。残り3名が初心者である。
スマホで甲子園の地方大会の経過を追ったり、「のむヨーグルト」で胃腸を保護したりしながらも、酒蔵見学の初心者はやや緊張していた。
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そして時間がきた。
会場に向かう参加者たち。ベテラン勢は何度も見ているので待合室でそのまま待機していた。
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まずは写真撮影。とにかく暑いので、みんな素早く整列する。(早く撮り終わってくれ)と思いながらキビキビと動く酒飲みたち。
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この集合写真、あとで参加者に配られるのかな?とか思っていたが、気づいたら清龍酒造のサイトで全公開されてて笑った。
7月27日(土)の写真に僕が写っているのでよかったら探してみてほしい。
社長の話に背筋が伸びる
さて、ここで登場するのが清龍酒造の社長である。見学ツアーの開始にあたって社長のありがたい話がある。
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この社長がまた強烈なキャラクターでめちゃくちゃおもしろい。この酒造見学と、その後の宴会は、社長をはじめとした清龍酒造のみなさんのたのしいキャラクターとおもてなしの心で成り立っていると思う。
社長いわく、「この酒造見学は1人5合くらいは飲むからおおいにたのしみにしてね」と。いくら飲んでもいいが、「自分で歩いてトイレに行けるかどうか」を常にチェックするようにとの教えをたまわった。
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宴会場とトイレは別棟にある。歩いて20メートルくらいだろうか。しらふならなんでもない距離だが、次第にこの往復の歩みがあやしくなる人もいるらしい。
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ここで社長から注意喚起。
「清龍酒造には宿泊施設はございません!酔いつぶれた人がいたら、必ず同行者の方が連れ帰ってくださいね」
どよめく客。そんなにきびしい戦いなのか…。
ここでスタッフが何枚かの写真を掲げる。写っているのは駐車場にうずくまる人たちと、救急車に搬送される人たち。いずれも過去の参加者だという。
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このご時世、救急車を呼ぶのはくれぐれも慎重に。ぜひご自身で体調を見ながら健康的に飲んでほしいとのこと。
「最近は救急病院に電話して『清龍酒造ですが…』と言っただけで切られます。もう来てくれません!」と本当か嘘かわからない怖い話をする社長。
しかし確実なのは、酔い潰れたら写真に撮られ、こうやって後の参加者の教訓として語り継がれること――。一気に背筋が伸びる参加者たち。
僕もなんとか無事に帰るぞと誓った。そのためにはトイレの往復で体調チェックだ。
「納豆、さぞかし美味しいんでしょうねぇ」
社長の訓示が終わったら、ようやく蔵の中に入れる。ここには清酒にとっての神様である「松尾の神」がいる。蔵に入る前には二礼二拍手をしよう。
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創業158年の清龍酒造。なんと、むかしは女人禁制だったらしい。女性は一切入れなかった。その理由は、松尾の神が女性だから。女性の神様がやきもちを焼いてしまうから女人禁制となっていたそうだ。
それがいまは、松尾の神も現代的な神になってきて、誰でも入場OKになったのだとか。本当に? まあでもよかった。
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酒蔵や居酒屋でよく見かける、この杉玉。正式名称は「酒林」(さかばやし)という。最初は緑色の玉が、茶色くなると新酒も飲み頃となる。
毎週のように説明しているからか、めちゃくちゃスムーズに、淀みなく話す社長。とにかく話がうまくて、参加者からは常に笑い声があがる。
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ここで社長から、こんな質問があった。
「酒蔵に入る人は、とある食べ物を禁止されています。それは何でしょうか?」
待ってましたという表情の参加者もいる。これは定番の質問なのだ。正解は納豆である。
「今日、納豆を食べてきた人はいませんね? いたら挙手してください」とジロリと見まわす社長。
納豆菌は非常に生命力が強い菌のため、口や手を洗っても菌が残る。そのまま麹室(こうじむろ)に入ると、一晩で麹を全滅させてしまうのだ。
だめになった麹を捨てるだけでは済まない。麹室全体が納豆菌に汚染されるため、あらゆる場所をアルコール消毒しなければならないのだという。酒造の従業員が納豆を食べたら、風呂に直行し、手足の消毒となる。
当然、この社長も納豆を食べない。
「納豆、さぞかしおいしいのでしょうねぇ。皆さん、おいしかったですかぁ?わたしの憧れの食べ物です」
恨み節のような社長の一言が、この見学の山場の一つなのである。ベテランの見学者から拍手が起きた。
その後はひんやりと気持ちいい酒造のなかをどんどん歩いていく。
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ところどころ立ち止まって、酒造りのレクチャーをしてくれる社長。
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ここで突然、米麹が配られた。これを口に6時間入れておくと甘酒ができるという。「さあ口に入れてください」と言われたので、みんな素直にパクっとほおばる。
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酒蔵の出口へ。神々しく光が差すが、外はクソ暑い。
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キンキンに冷やされたおしぼりが手渡される。首元に当てて、生き返った気分になる参加者たち。これで酒造見学はおわり。勉強になったし、とてもたのしかった。しかし口の中の米麹はどうしたらいいんだ。
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酒造見学の、本番はこれからだ。
さて、酒造見学そのものをスキップする参加者がいるくらいだから、当然、本番はこのあとの大宴会なのである。
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バンド演奏で宴会場に迎えられると、座席にはいい感じの旅館で出てくる和食御膳みたいなものが並んでいる。めちゃくちゃうまそうだ。
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なにしろ、外をうろうろと歩いて、酒造を突っ切って、また外の暑さにやられていた。酒と塩分をくれ、という気分である。
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Tシャツを絞れるくらい汗をかいた。着替えをもってくればよかった。
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冒頭のほうで書くのを忘れたが、この酒造見学の参加費は5000円。それでこんなにたくさんの料理が出てきて、日本酒が(人によっては)倒れるほど飲めるのなら安いものだ。
料理にも相当のこだわりが感じられた。卵焼きは関東風と京風だし巻きの2種類が用意されている。
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鮎とか。
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卵焼きの下に隠れていた日本酒たち。
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うどん。おいしかった。お腹がすいてたので先に食べちゃった。
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乾杯のあいさつはもちろん社長。
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ビールで乾杯!とにかく喉がかわいてるので1杯目はビールだ。
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バンドメンバー(社員たち)を紹介する社長。
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生演奏と歌がはじまる。ノリノリの社長。
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旅館みたいなアレに火が灯される。温泉宿に来たみたいでうれしい。
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どんどん日本酒をあけていく。どれもむちゃくちゃうまいぞ。
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鍋が完成したのでたべる。うまい。
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社長がかかげるのは居酒屋清龍の会員証。期限は「紙が擦り切れるまで」。この会員証の特典はものすごい。なんと、居酒屋清龍で190円のマス酒が毎日1杯無料になる。365日ずっとだ。
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そして1年後には自動でブラックカードに進化する。特典は同じ。ただし、ブラックカードの有効期限は西暦2400年まで。酒が飲めなくなったら、飲める家族に代々受け継ぐことが可能だという。
マス酒190円を365日 × 約400年。つまり、このカードの価値は2774万円となる。「再発行はしないので絶対になくさないように」と社長。
居酒屋清龍はさすがのコスパである。
ここで社長が、「凍らせた日本酒」や「日本酒のレモンスカッシュ割り」という危険な香りがするが、いかにもうまそうな酒を注いでまわる。
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この飲みやすさはかなりやばいのだが、うますぎた。
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どんどん新しい酒を持ってくる社長。立ちっぱなし、歩きっぱなしだ。
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どれもおいしい。だんだんと清龍酒造が好きになっている。
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ここで1回目のトイレに向かった。
まっすぐに歩けている。まだ大丈夫だ。
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だんだん、みんなおかしくなってくる
トイレから戻ると、もはや宴会場はカオスだった。
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ここで最強につよいお酒を出してくる社長。「これ1杯だけで、今まで飲んだのと同じ量のアルコールになります」「え…!?」
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だが、とりあえず飲む。
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今月が誕生日の参加者にみんなでハッピーバースデーを歌い出したあたりから……。
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参加者も我慢できずにステージに立つようになってきた。
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松崎しげる「美しい人生よ」、尾崎紀世彦「また逢う日まで」などの往年の名曲から、郷ひろみ「GOLDFINGER '99」、サザンオールスターズ「真夏の果実」、Mr.Children「花火」など、誰もが知ってるヒット曲が流れると止まらなくなってくる。
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途中、清龍酒造の歌である「明日への乾杯」をみんなで合唱する。
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これが地味にいい歌詞だし、じんわりとくる名曲なのだ。
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清龍酒造の歌をみんな大声で歌っていると、なんだか一体感が出てくるから不思議だ。
最後はCHAGE and ASKA「YAH YAH YAH」だった。みんなで熱唱する見学者たち。会場は総立ち。
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僕らはその後、誰一人欠けることなく、酒造をあとにし、赤羽駅で二次会を開いてまた飲んだ。
しばらくたって、池袋で居酒屋清龍を見かけた。あのたのしい1日と、日本酒、料理の味を思い出してみると、ここはなんて良い居酒屋なんだろうか。久しぶりに清龍で飲みたいなと思った。
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それにしても、
料理が5品来て、飲み放題2500円はやっぱり安すぎるよ、清龍。
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